第二百三十五話


 シロが元老院に入ったと報告が来た。


「それで、フラビアが来た理由は?」


「はい。アトフィアの残党がシロ様を襲ってきましたので、排除しました」


「ん?シロが狙われたのか?どこで?」


「正確には、シロ様を狙ったものではありませんでした」


「・・・?」


 シロが襲われたが、シロを狙っていたわけではない?


「ようするに、野盗と同レベルになっていると言いたいのか?」


「はい」


 どうやら、俺たちが支配している大陸では、アトフィア教の影響は排除できたと考えて良さそうだ。

 宗教の怖い所は、分別を欠いて従ってしまっている信者たちが居ることだ。その者たちが”野盗”と同等になっているのなら、排除は簡単だ。


「フラビア。それ以外には?」


「はい。報告は、元老院から届くと思いますので、口頭でお伝えします」


 アトフィア教を探らせていた者たちからの報告が多かった。


「わかった。報告書を待つ。それで。フラビアは、シロの親族として出席してくれるのだよな?」


「はい。最初は、従者としての出席で考えていたのですが、従者はエーファたちが行うことになりました」


「ありがとう」


「ギュアンとフリーゼも、シロ様の出席者です」


「わかった」


「以上です」


 フラビアも、元老院で式まで過ごすように言われている。


 さて、ロックハンドに移動して、イサークたちに話をしなければならないな。


 久しぶりに、カイとウミを連れ出した。ライは、ダンジョンに他の眷属たちを連れて、食材の確保に向かった。

 式が終わったあとで、眷属たちとパーティをするための食材を確保したいらしい。


 俺だけでも、ロックハンドに移動しても問題はなかったのだが、襲撃犯が隠れている可能性が排除出来ない。

 護衛を付けないでの移動を許可することが出来ないと、各方面から言われてしまった。それに、新種の問題は何も解決していない。


「イサーク!」


「お!久しぶりだな」


「そう言えば、ナーシャは?」


「また、何か、ナーシャがしたのか?」


 イサークが恐る恐る聞いてきた。


「安心しろ、俺の所には、何も苦情は来ていない」


「よかった。それじゃ?」


「まずは、ロックハンドの様子を見に来た」


 俺は、イサークを手招きした。


「イサーク。この街というか、場所は不審者が入りにくい状況になっている。人が増えているとは聞いているが、実際はどうだ?」


「あぁ基本は、船でやってくる。冒険者だけだ。森に入って稼いで騒いで帰るだけで、定住した者は少ない」


「そうか・・・。各地で、奴らが野盗と同等になっているという報告が上がっている」


「奴らというと、アトフィア教か?」


「そうだ。もう、この大陸では、野盗と同等になっている」


「わかった。ピムにも注意させる」


「頼む」


「そうだ!ナーシャ経由で聞いたけど、カトリナが何か困っているらしいぞ」


「カトリナが?」


「あぁ。でも、緊急という感じではないそうだ」


「わかった。何かあれば言ってくるだろう」


「そうだな。あっ!それと、ガーラントが、洞窟の一部を借りたいとか言っていたぞ?」


「わかった。ガーラントは?」


「もうすぐ来ると思う」


 5分くらい。イサークから近況を聞いていたら、ガーラントがやってきた。


「お久しぶりじゃな」


「ガーラント。それで、洞窟の一部で何をする?」


「お!そうじゃ!ツクモ様。鍛冶をするのに、魔力が充満する場所を探していたら、森よりも、洞窟の中が適していそうでな」


「ふーん。別にいいぞ。伝えておくよ。ガーラントだけでいいのか?」


「相談は、そのことじゃ。儂だけじゃなくて、数名が入られるようにして欲しい。駄目か?」


「それは、今の洞窟じゃなくて、魔力が充満している洞窟であればいいのか?」


「ん?そんなことができるのなら、それで構わない」


「わかった。準備をしよう。優秀な武器や防具が必要になってきそうだからな」


「新種か?」


 イサークが話に割り込んでくる。

 実際に、対峙したことがあるので、何かを感じるのだろう。


「そうだ。結局、何もわからないからな。新種が現れたということだけだ、それも、他の大陸にも現れているらしい」


「・・・。わかった」


「任せろとは言えないが、武器と防具をさらにいいものが打てるように準備を始める」


「そんな時に、式への誘いで悪いけど、イサークとガーラントとピムは、俺の招待客として列席してほしい」


「わかった。そのつもりで準備はしている。ん?ナーシャはどうする?」


「ナーシャは、シロの招待客にする」


「わかった。伝えておく。何か準備しておくものはあるか?」


「服も用意しているみたいだから、大丈夫だ。ナーシャには、式には甘い物は出ないと伝えておいてくれ、それから、イサークとガーラントとピムは1日だけだが、ナーシャは3日とも式に出てもらう」


「おっ!?」


 人数の偏りが激しいから、俺の招待客はどれか1日だけの出席になるが、シロの招待客は3日とも出てもらうことになったと説明した。


「わかった。伝えておく」


「逃げたら、わかっているだろうとだけ言っておいてくれ」


「あぁ」


 イサークが微妙は表情をしているのは、ナーシャに説明するときのことを考えたのだろう。

 ガーラントは笑いをこらえている表情をしている。


「眷属の誰かを迎えに出すから頼むな」


「おぉ」


「カイ!ウミ!帰るぞ!」


 森に出かけていた、カイとウミを呼び戻す。

 護衛の意味が無いと言えば無いけど、レッシュやエルマンとエステルが頭上を回っている。問題があれば、知らせてくれる。


「あ・・・」


 カイとウミが飼って来た魔物は、森の奥に出てくるような魔物だったようだ。

 イサークたちでも十分な安全マージンを持って狩れる魔物だが、単独での撃破は難しいらしい。


 それを軽々飼ってこられたので、固まってしまったようだ。


 ガーラントが固まったのは、チームで狩りをすると、素材が駄目になってしまうのを、カイとウミは素材を傷つけないで狩ってきている。

 ”ヨロイタートル”と言われる。陸ガメの魔物だ。甲羅を残した状態で狩ることができれば素材として使えるが、ヨロイのようになっている甲羅を壊さなければ、倒せない。武器も破損してしまう可能性が高い上に、魔法耐性も強い。亀なので、足は遅いので、ヒットアンドアウェイで対応すれば、時間は必要だが討伐は可能だ。しかし、時間をかけて攻略すると一番の素材になる、甲羅を傷つけてしまう。

 ほぼ無傷の状態で討伐してきたのだ。


「ツクモ様!儂に、甲羅をくれ!いや、買わせて欲しい。防具の素材として利用をしたい」


「置いていくから好きに使ってくれ・・・。そうだな、シロにガントレットでも作ってくれ、残った素材は、報酬としてガーラントに渡す」


「本当か!」


「あぁ」


「ガントレットなら、2-3日でできる。式に持っていく」


「わかった。楽しみにしている」


 カイとウミに感謝だな。

 二匹の頭を撫でながら、洞窟から家に戻る。


 屋敷に戻ると、リーリアとオリヴィエが待っていた。

 どうやら、服の最後の調整のための採寸をしたいということだ。


 風呂に入ってから、服の調整のために着替えを何度か行って、簡単に動いて採寸を行った。


 準備が整ってくると、式が近づいてきていると実感できる。

 大陸中から移動が開始されている。


 中央大陸からも人が流れてきている。

 パレスケープに繋がる道は渋滞こそ発生していないが、かなりの馬車が連なっている。混むのを嫌って、わざわざロングケープ経由で向かってくる者も居るようだ。


 ドアがノックされる。


「旦那様。ルート殿がお越しです」


「ん?あぁ元老院からの報告書かな?書斎に通してくれ」


「かしこまりました」


 書斎に行くと、ルートがソファーに座って、出された紅茶を飲んでいた。


「ルート?」


「夜分にもうしわけありません。ツクモ様が、どこにいらっしゃるのか探していたら、この時間になってしまいました」


 あぁそれで少しイラッとしていたのだな。


「すまん。ロックハンドに行っていた」


「それなら、誰かに伝言を・・・。いえ、失礼しました。それで、元老院からの報告書です。お渡しいたします」


「すまんな。ミュルダ老が来ると思っていた」


「シロ様の説得・・・。いえ、ご説明をしておりまして、私が資料を届けにきました」


「そうか、すまんな。クリスも、説明に参加しているのか?」


「はい。礼儀の問題はないのですが、武器を持っていないのが、どうも不安のようで・・・。その説明です」


「すまん」


「それなら、代わりに・・・。いえ、忘れて下さい。それで、資料はどうしますか?」


「預かる。明日、また話を聞きたい」


「わかりました。夜分に、もうしわけありませんでした」


 律儀にルートは謝罪して書斎を出ていった。

 資料は、明日にでも読もう。今日は、眠い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る