第二百三十三話
「メリエーラ老。助かった。それで、エルフ大陸からはなにか要求があったのか?」
「はい。お断りしても問題ないのだが・・・」
「どうした?」
「カズト・ツクモ様とシロ様、あと眷属の方々をエルフ大陸にお招きして集落にある、鎮守の森にお招きしたいという事です」
「そうか・・・。ん?それがなにか問題なのか?」
「いえ、儂はいいのですが・・・」
ミュルダ老が反対しているようだ。
「ミュルダ老は反対なのか?」
「いえ、反対ではありませんが、積極的にエルフと付き合うのに懐疑的なだけです」
なにか有ったのかもしれないし、考えが変わっただけかもしれない。
別にエルフだからとかで差別する必要はないと思っている。区別はするかもしれないが、種族での差別は愚か者のする事だと考えている。
「ありがとう。でも、俺も一度は行ってみたいと思っていた。カイやウミの出てきた集落があると聞いているし、ステファナも里帰りしたいだろう。それに、招待されたのなら行かないのは失礼に当たらないか?すぐには無理だけどな。それでよければ招待に応じよう」
「わかりました。ツクモ様のお考えに従います」
「ミュルダ老。違う。俺の意見は話した。間違っているのなら指摘して欲しい。そのための元老院であり、ミュルダ老やメリエーラ老なのだから」
「はい。しかし、今回は、儂の感情での話です。チアル大陸の今後を考えれば、味方にならないまでも敵にならない大陸や種族は欲しいです。万が一敵に回るのなら、内部をツクモ様に見てきてもらうのが良いと考えています」
「そうじゃな。儂も、ミュルダの考えに賛成じゃ」
ミュルダ老とメリエーラ老の意見が同じなら問題は無いだろう。
問題が発生しても、眷属達が一緒ならなんとかなるだろう。最悪、エルフの里で大暴れしてから帰ってくればいい。
最悪の状態になっても大丈夫な様に準備を進めておけばいいだろう。
「ルートもいいよな?」
「はい。私も一緒に行きたいと思いますが・・・」
「ルートはダメだ。俺が居ないときに、代理を・・・。代官をしてもらう」
「・・・。そんな事だと思っていました。わかりました。お受け致します」
「頼む。さて、エルフ大陸との事はこんな感じで良さそうだな。結婚式の後になるだろうから、それまでに考えが変わったら、変更すればいいよな?エルフ大陸にはそんな感じで返答しておいてくれ」
「かしこまりました」
メリエーラ老が返事をしてから部屋を出ていった。
早速任せているであろう
「さて、愚か者共の始末だけど、どうするか?」
「はい」
「手間がかかる拷問は避けたいな。今はそれどころじゃないだろうからな」
「そうですね。でも、組織や他の構成員が居るのならさっさと吐かせたいですね。それこそ、結婚式の前に終わらせたいです」
ルートが言っている事は”もっとも”だ。俺だけでなく、違うな、俺以上に忙しいのがルートだろう。
面倒な事はしたくないけど残党が居たりしたら厄介だし、協力している奴らが居るのなら一網打尽にしたい。
「ツクモ様。公開処刑にしてはどうでしょう?」
ミュルダ老が一番過激なことを言い出した。
「ミュルダ殿。カズト様とシロ様の結婚式の前に血を流すのは避けたほうが良いと思いますが?」
そんな喧嘩腰で言わなくてもいいと思うけど、たしかに・・・ん?
ミュルダ老にはなにか考えがあるようだ。
「ルート殿の考えも解るのだが、その結婚式を武器やスキルを使って荒らそうと考えている奴らが居るのじゃよ?」
「ミュルダ殿。僕もそれはわかっているだから、なんとか吐かせる方法を考える必要があると考えているのではないですか?」
ミュルダ老が手で俺を制した。
やはり何か考えがあるようだ。その上で、ルートに考えさせようとしているのだろう。
「ルート殿。別に吐かせるのなら、簡単に吐く連中を探せばいい。それでダメなら、戦える奴らを抑えてしまえばいい」
「ん?」
あぁそういう事だな。合点がいった。
結婚式が近づいてきて焦っていたのは、ルートだけじゃなくてミュルダ老も同じだったのだな。
「そういうことですか?」
やっとルートも考えを切り替える事ができたようだ。
「ほぉ・・・」
「少し危険だと思います。ミュルダ殿は、今捉えている奴らを囮に使おうと考えていらっしゃるようです」
ルートがミュルダ老の考えを読んだつもりになって俺に進言した。
「老。それだけじゃないのだろう?」
「そうですね。囮にするには、捉えた奴らは下っ端が多いです。無視される可能性も考慮しなければなりませんが、公開処刑の日程を結婚式の前々日あたりにして場所もペネムダンジョン内にしてみてはどうでしょうか?それなら、血で汚れる場所も限定的ですし、誰かが助けに来ても捕らえる事ができるでしょう」
「それだけじゃ弱いな」
「え?」「どうしますか?」
「ルート。モデストたちを使って、この話を広めろ。噂はなし以上にはならないようにしろよ」
「わかりました。でも、それでは公開処刑の意味が無いのではないですか?」
「それでいいのだよな。老?」
「はい。実際に処刑するかどうかは、奴らの出方次第でいいと思います。ルート殿。”カズト・ツクモが激怒して、処刑には自らが立ち会う”と噂を強調してください」
「なるほどな。それはいい考えだな。ルート。追加しておいてくれ、俺が公開処刑に立ち会うが、シロは立ち会わないでログハウスに残すはずだと付け足してくれ」
「はぁ・・・。そうですか、それだけですか?」
「なんだ、ルート。呆れた顔をして?」
「よくもまぁこんな辛辣な事が考えつくものだと思っただけです。ミュルダ殿もツクモ様に毒されすぎていませんか?」
「俺が悪いのか?」
「違うのですか?」
ルートやミュルダ老を睨むが、本気の考えのようだ。
「違いない。このチアル大陸は、”カズト・ツクモ”を中心に回っている。儂らが、ツクモ様に染まっていくのも当然じゃろ?」
笑いながら肯定するような事ではないと思うのだが、気にしてもしょうがないのだろうな。
「・・・。まぁいい。それで?ミュルダ老もルートもそれだけか?」
「そうですな。儂は、それでいいと思っております」
「私も同じです」
処分の事は別に考えるとして、人間牧場送りになるか、寝返って駒として使えるようになるのかは、彼ら自信に選ばせる事にしよう。
「そうか、奴らはどうしている?」
「??檻に入れて監視しています」
「わかった。処刑予定の場所は、ダンジョンの広場にしよう。ルート。処刑場所の作成を頼めるか?」
「かしこまりました。目立つ場所にしていいのですよね?」
「うーん。目立つ場所がいいけど、目抜き通りは避けたいな。一番外れの場所にしてくれ」
「かしこまりました。クリスと相談します」
確かにクリスに選ばせるほうが無難だろう。人間牧場の事も把握しているだろうし、俺の意図にも気がつくだろう。
まぁ間違った解釈でも、クリスとルートで選んだ場所なら間違いは無いだろうからな。
「そうしてくれ。ミュルダ老。奴らは、仲間の情報を吐くと思うか?」
「そうですね。”カズト・ツクモ”が許せないだけで繋がっている連中ですからね。バラバラにして監視していれば簡単に落ちると思います」
「わかった。奴らの保管場所は、
「カズト様。それは止めたほうがいいと思います」
「そうか?」
「彼らに見せてしまっては。彼らの処遇が殺すか牧場送りですがよろしいのですか?」
「もとよりそのつもりだぞ?」
「いえ、それはいいのですが、その時に情報を話すとは思えません」
「あぁそうか・・・。それなら、奴らの世話を、牧場から出しても大丈夫な奴らにさせるか?」
「そうですね。そのくらいでいいと思います。操作しているのではなく、心が死んでいる連中にさせます。下の世話もさせますか?」
「そうだな。下の世話は、繁殖前の魔物が居ただろう?奴らに順番に与えればいいだろう?」
「わかりました。そう手配します」
「あっそれから、奴らにわかりやすいように、目の前に処刑までの時間を提示してやってくれ」
心が折れるのが早いか、仲間が助けに来て捕まるのが早いか・・・。
外部に公開しているペネムダンジョンは、冒険者たちが居る場所は、ダンジョンだとは思われていない。侵入しても逃げられると考えるかもしれない。
実際には、ダンジョン側で把握できる上に逃げる事もできない。さて、どうなるのか・・・。
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