第二百三十話
「カズトさん。おはようございます」
シロの口づけで起こされた。
嫌な気分は一切ない。ただ、全裸の状態で見せつけるような格好でキスするのは止めさせたい。我慢するのが難しくなってしまう。
「おはよう。シロ。今日は早いな。リーリアもまだ来ていないのだよな?」
「スーンからの伝言が来ていました」
「ん?俺宛てか?」
「はい」
「ありがとう」
「今日は、どうされますか?」
「スーンの伝言しだいだな」
「わかりました。お食事は、このままログハウスですませますか?」
「そうだな。軽くシャワーを浴びてから、食事にしよう」
「はい!ご一緒します!」
シロと一緒にシャワーを浴びてから、寝ている最中に用意されたであろう服を着て食堂に向かう。
ホームに引きこもっても良かったのだが、
正式にはまだなのだが、
カイやウミやライが認めていると宣言しているのが大きいのだろう。
食事をしてから、スーンの伝言を見る。
職人区に居るゲラルトからの伝言のようだ。
ゲラルトの名前と”約束の物ができた”とだけ書かれていた。
「シロ」
「はい」
「今日は、少し職人区に行く用事ができた」
「僕もご一緒します」
「いや。シロには頼みたい事がある」
「僕に?」
「あぁシロにしかできない事だ」
「なんでしょう?」
執務室に移動して、机の引き出しから手紙を取り出す。
「シロ。これを、ルートとクリスに届けてくれ。俺からだと伝えて、その場で中身を確認してもらってくれ、その後はクリスの指示に従ってくれ」
少し寂しそうにしてから手紙を受け取った。
自分も職人街に行きたかったと体中から湧き出す雰囲気で表している。
「はい。わかりました」
「頼んだ」
「はい!」
いろいろ葛藤があるのだろうが、俺からの頼みをしっかり受けてくれる。
頼み事で、シロにしかできないことなのだ。
シロが俺の手紙を持って、アズリとエーファを護衛としてステファナとレイニーを従者として、元老院に居るルートの所に行かせる。部屋から出ていったのを確認して、俺はオリヴィエとライを連れてゲラルトの居る職人街に向かう。
「旦那!」
「ゲラルト、いろいろ注文して悪かったな」
「いいって!こんな素晴らしい工房まで用意してもらっているからな。そうだ、旦那。頼まれていた物だけど、これで問題ないか?」
ゲラルトが俺の注文していた通りの箱を奥から持ってきた。
蓋を開けると、予想以上に素晴らしい物が2つ存在していた。
「おぉ。すごいな。いくらだ?」
「ん?いらない。持っていけ!何をする為の物なのかは聞かないが、後で説明してくれるのだろう?」
ゲラルトは笑いながらそう言ってきた。
”何に使うのか”わかっていて言っているのだろう。
「素晴らしい仕事には報酬を出さないとダメだ。ケジメだろう?」
「そうか?うーん。材料は、旦那が持ち込んだし、デザインも殆どリーリアの嬢ちゃんが作ったからな。そうだ。旦那。うまく言ったら、これがこの街のスタンダードになるだろう?」
「そうなるかもな」
「それなら、旦那が使った物が俺の工房で作られたと宣伝していいか?それを報酬として、俺にくれないか?」
「・・・。わかった。ゲラルトがそういうのなら・・・」
物に関しての説明を受けた。
鑑定してわかったことなのだが両方ともスキルスロットが3つ空いている高級品になっている。使っている金属はミスリルだが埋め込んでもらった宝石が俺とシロの瞳の色にした。宝石を持ち込んだときに、スロットが付いている物を渡したので、それがそのまま空きスロットになったようだ。
スキルカードの付与は後で考えよう。
ゲラルトから頼んでいた物を受け取ってポケットにしまう。
「オリヴィエ。アズリとエーファに連絡してくれ」
「はい」
次は、商業区にあるカトリナから推薦された仕立屋に行く。
俺の服を一式頼んでいる。スーツを仕立ててもらっている。細かい指示は、オリヴィエが調整を頼みに行ったりしてくれている。数日前に完成したといわれているので、受け取りに行く。
受け取りだけだ。調整は、
あとは、ステファナかレイニーが戻ってくるまで風呂にでも入って待っていればいい。
今日はホームにもいかないし、訓練もしない。眷属達も、ホームからログハウスに移動しておしゃれして待っている事にしている。おしゃれの必要がないライが護衛に付いているのはそういった事情もある。
ログハウスに帰ると、アズリとエーファが帰ってきていた。
「アズリ。どうした?シロの護衛は?」
「はい。クリス殿から、護衛はヴィマ、ヴィミ、ラッヘル、ヨナタンがすると言われました。それに、今日は、眷属の全員が着飾るべきだと言われまして、戻ってきました」
「そうか、クリスの配慮だな。アズリもエーファもお疲れ様。皆に合流してくれ」
「はい」「はい!」
「オリヴィエ。フラビアとリカルダは?」
「後ほど、奥様に合流して、誘導してくれるそうです」
「わかった。予定通りだな」
「はい。フラビア殿とリカルダ殿が奥様と合流いたしましたら、ステファナとレイニーも戻ってきます」
「二人は、シロと一緒に施術を受けているのだよな?」
「はい。そう指示しております」
「ありがとう」
「いえ。私は、一度下がらせていただきます」
「あぁわかった。何か思い出したら呼ぶ」
「はい」
オリヴィエが部屋から出ていく・・・。
シロを巻き込んでしまったことへの葛藤がないと言えば嘘になる。でも、俺はシロと生きていきたい。
「旦那様。お風呂の準備が整いました」
「ありがとう」
風呂に入って汗と汚れを流す。
時間はあるが長湯しても疲れてしまうだけだし、早めに出てシロの準備が整うのを待つ。
シロには、誕生日の予行演習だと伝えているはずだ。
「旦那様」
「準備ができたのか?」
「はい。奥様は、今から馬車でペンションに向かわれます」
「わかった。眷属たちにも伝えてくれ、俺もすぐに向かう」
移動は、ホーム経由で行くので一瞬だ。
ペンションは、この日のためだけに作った物だが、俺とシロと眷属だけしか入る事が許されない場所にしている。
物理的には橋で繋がっているが、通常のときには橋をかけていない。それだけではなく、地上部を含めてダンジョンにしているので、許可が無い者は侵入できない状態になっている。明日からは、俺とシロだけしか入る事ができない状態になる。ペンションには、一通りの家具は揃えている。2階建てにしていて、二階にはベランダを作ってある。俺の記憶にある別荘をイメージして作った。湖側に開けるように温泉も作ってある。よほど目がいい者でない限りは対岸からは見えないだろうし、ダンジョンの効果を使って幻影を施してあるので覗き対策もバッチリだ。
約束通り、ベランダで待っていると、馬車が到着した音がした。
眷属達は、下の階でシロを出迎えている。
二階に上がってくる音がする。
俺の心臓の音も徐々に早くなっていく。
ベランダの扉が開けられた。
振り向くと、少しだけびっくりした顔をした、シロが居る。
髪の毛を整えて、淡いピンク色のドレスを着ている。扉を開けた、フラビアとリカルダがシロの背中を優しく押しているのが解る。一歩、二歩と進んだことを確認して、フラビアとリカルダは何も言わずに扉を閉めた。
「カズトさん?」
「シロ。綺麗だよ」
「え?練習・・・なのですよね?」
「あぁ。だから、綺麗なシロを見せて。ほら、ベランダから見える泉も綺麗だよ。夕日がちょうど差し込んで道ができているみたいだぞ」
「え?あっ・・・。本当に・・・」
「でも、シロが一番綺麗だよ」
「カズトさんも素敵です。でも、どうして?なに?僕、なにかしましたか?」
「そうだな。シロ。前に言っていたよな。夕日が見える泉が好きだと・・・」
「はい。小さい時に、パパ・・・父様に連れられて行ったのが忘れられません。そこで、父様と母様のことを聞いて・・・。僕、素敵だな・・・。え?カズトさん?」
俺は、ポケットからゲラルトに作ってもらった、ペアリングが入っている箱を取り出す。
「シロ。結婚してくれ、俺とこれから長い時間・・・。一緒に居てくれ、もうお前が居ない事が考えられない。愛している」
「え・・・。カズトさん。僕・・・。いえ、私でいいのですか?」
「シロだけでいい」
「カズトさん。僕、ヤキモチ焼きですよ」
「知っている。だから、シロがいい」
「僕、寝相が悪いですよ」
「知っている。悪かったら、抱きしめてやる」
「僕、可愛くないですよ?」
「シロは可愛いよ。すごく・・・な。それに、俺が選んだシロを悪く言うな」
シロが手を伸ばしてくる。シロの左手を握って指輪を入れる。スキルを発動すると、指のサイズに調整される。
「シロ。もう外せないぞ?」
「カズトさん。はずしません。カズトさん。僕、エッチですよ」
「知っている。そんなシロを愛している。もう逃さない」
「カズトさん。僕、僕、僕、カズトさん。愛しています。だれよりも、僕のすべてでカズトさんを愛します」
「俺もだ。シロ。愛している」
シロを抱き寄せてキスをする。
「シロ。結婚してくれるか?」
「もちろんです。旦那様。末永くお願い致します」
「ありがとう。シロ。俺は、神を信じない。だから、ここで宣言する。カイに、ウミに、ライに、眷属達に・・・。そして、ステファノ・デ・レーデルに誓う。俺はシロを、シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュを幸せにする」
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