第百八十九話


 中央の魔法陣には、トロールの上位種と進化体が出現した。

 左右には、ミノタウロスとケンタウロスの上位種の様だ。


 数は多くない。

 トロールは階層主と3体だけのようだが、進化体だ。先にあれを叩かないとsキルを使われたら面倒な状況になりそうだ。

 ミノタウロスとケンタウロスは、階層主の他は20体程度だな。


 それから、入り口に向かって近い場所にある魔法陣には、オークが、少し下がった位置の魔法陣には、ゴブリンとコボルトの上位種がそれぞれ出現する。


 オークとゴブリンとコボルトは、同じように対応すればいいだろう。

 何体いても対処さえ間違えなければ怖くない。


「オークとゴブリンとコボルトを岩壁で覆ってしまえ」

「僕がやります」

「シロ!頼む。ステファナ。リーリア。補助を頼む」

「はい」

「かしこまりました」


 これで、オークとゴブリンとコボルトは大丈夫だろう。あとで各個撃破すればいい。


 問題は、岩壁で覆うのが間に合いそうにない。ミノタウロスとケンタウロスだな。


「マスター!」

「オリヴィエ。ミノタウロスをエリンと2人で抑えられるか?」

「可能です」

「ティア、レッチェ、エルマン。3人は、オリヴィエの援護!ミノタウロスを頼む」


「エーファ。アズリ、ティタ、レッシュ、エステル。レイニー。ケンタウロスを頼む」

「「「はっ!」」」


「リーリア。岩壁ができたら、エーファの援護」

「はい!」

「ステファナ。オリヴィエの援護に回れ」

「はい!」


「シロ、カイ、ウミ、ライ。トロールを叩くぞ、先に進化体だ!」

「はい」

『主様。ホワイトはお任せください』

『僕は、ブルーを倒す』


 左側のホワイト・トロールはカイ。右側のブルー・トロールはウミ。


「中央のレッド。トロールを、シロと俺で倒すぞ。ライは、援護を頼む」

「はい」

『うん!』


 魔法陣が消える。

 魔物が動き出す。


 え?

 カイとウミがあっという間に倒してしまった。


「カズトさん!」


 目を奪われた。それほど、カイとウミの動きが洗練されていた。


 シロの声で目の前にレッド・トロールが迫ってきているのが解る。

 対峙している状態ではない。すでに戦闘状態になっている。


 ライがかけた結界・障壁のスキルで攻撃を防いでいる状態だ。


「シロ。下がって弓で攻撃。スキルを付けた矢だ」

「はい!」


 シロが、少し下がったことによって、動き回れるスペースができた。トロールからのスキル攻撃は、火の攻撃だけだ。

 結界で十分防げている。スキル攻撃も怖いが、振り回す棍棒も脅威だ。結界で守られていると言っても、衝撃は結界ごと俺をふっとばすほどの威力がある。

 動いて、衝撃を受け流す必要がある。スキルを回避しながら、攻撃を受け流す。同時に、攻撃を当てていく。

 シロのはなった矢がトロールの肩に刺さった。

 棍棒は取り落とさなかったが確実に攻撃が鈍った。矢が刺さったままなので、トロール種の固有スキルの再生も上手くできないのだろう。阻害されているようだ。


 階層主に攻撃をしていた、カイとウミが後方から、レッド・トロールに襲いかかる。

 トロールの殲滅は終わった。


 ケンタウロスの方はまだ大丈夫そうだが、ミノタウロスを相手にしていたオリヴィエたちが苦戦している。戦闘場所が狭い場所になっているので、上手く攻撃を流せないで居るようだ。


「カイ。ウミ。ミノタウロスを頼む。俺とシロで、エーファたちの援護に向かう」


 数の不利は続くが、戦闘力の優位性は確保できている。

 両方とも、挟撃になるために、かなり安全に対処する事ができる。狭いのは、攻撃を受ける場合にはマイナスになるが、挟撃になった事で、相手を絞れる事につながる。弓も使う事で、ダメージの蓄積が可能になっている。


 ミノタウロスとケンタウロスが倒れた事で、ほぼ終わった。

 あとは、隔離されているオークとゴブリンとコボルトを順番に倒していくだけだ。


「オリヴィエ!」

「はい?」


 ここで少し確認しておきたい事が出てきた。


「スキルカードの確認を頼む。コボルトは後回しでいい」

「はい。リーリア。ステファナ。レイニー手伝ってください」


 床に落ちているスキルカードを拾い集める。


 偽装が出てくれれば嬉しい。

 レベル8のスキルカードでは、他にも記憶や完全地図パーフェクトマップなんかもある。


 10分くらい経過してからオリヴィエが申し訳なさそうに話しかけてきた。


「マスター。ダメです」

「そうか、それじゃこの階層にはもうようはないな」

「はい」


 スキルカードを受け取るが確かにレベルの低いスキルカードの上位版のスキルカードだけだ。

 魔核も、レベル8なんて使いみちがない。在庫も、今の所は困る事はない。


 コボルトが騒いでいるが、無視している。

 岩壁にスキル硬化とスキル防壁をかけているので、壊される事は無いだろう。


 このまま武装のチェックとメンテナンスを行ってから、コボルトを片付ける事にする。


 早々に、上の階層に上がってしまおう。


 スキルだけでコボルトを倒した所で、上層階への扉が開かれる。


「抜けるぞ!」


 岩壁は残したままになっているが、上層階に向かう。


 下の階層と同じようになっているので、部屋に入って休む。

 600分休むようだ。


 窓のような物が設置されている初めての部屋だ。


「シロ。見てみろよ」

「・・・。カズトさん」


 出窓のようになっていて、上も下も見られる。

 下はかなりの高さがある事が解るだけで、それ以上は何も情報がない。


 上を見ると、同じような出窓があと1ヶ所あって、その上にかなり前に見た、最上階と同じ形状の物が見えている。


「そうだな。多分、最上階だ」

「それなら・・・」

「あぁあと、1回か2回だろうな」

「もうすぐなのですね」

「アズリのような者ならいいのだけどな」

「そうですね」


 ダンジョンマスターとダンジョンコアとの戦闘は避けたい。

 ダンジョンコアの破壊は最悪の愚行だと思っている。かなりの部分をすでに、ペネムダンジョンに移管していると言っても、チアルダンジョンを素材にしている物も多い上に、居住区に住む獣人族は、チアルダンジョンに依存している部分も多い。

 ティリノダンジョンを作る事もできるだろうけど、時間もかかるし、せっかく使える物を壊すのはもったいない。


 シロが頭を肩に乗せてくる。

 どこでそんな仕草を覚えたのかと聞きたいが、可愛いから許す。


 その後でオリヴィエやリーリアやエーファやステファナやレイニーたちも出窓から外?を覗いた。


 カウンタ通りに10時間休んでから、9階層に向かった。


 9階層は、8階層に加えて、ブルー・オーガが一体だけ出てきた。

 コボルト/ゴブリン/オークは、岩壁で隔離する。


「カイ、ウミ。オーガを頼む」

『はい』『うん』


「オリヴィエ、エリン、ステファナ。ミノタウロスを頼む」

「はい」

「はい!」

「わかった!パパ!」


「リーリア、アズリ、レイニー。ケンタウロスを頼む」

「はい」

「わかった」

「かしこまりました」


「エーファ!ライ!シロと一緒に、左側のトロールを頼む!弓とスキルで攻撃。中央のトロールを牽制してくれ」

「はい」

「はい!」

『うん!』


「ティア、ティタ、レッチェ、レッシュ、エルマン、エステル。俺と一緒右側の、トロールを殺るぞ」


 戦力差はあるが、問題なく倒していく。

 カイとウミがオーガを倒すのが一番早かった。


 これで戦況が一気に楽になる。

 そのまま、カイとウミは、トロールの上位種へ攻撃を開始する。


 ミノタウロスとケンタウロスが倒れて、ほぼ終わった。

 最後に残ったのは、ホワイト・トロールだったが皆で集中攻撃する事で、簡単に倒せた。


 戦闘時間は、30分くらいだろうか?

 少し疲れが見えてきたが、オークとゴブリンを倒す所までは一気にやってしまう。


「オリヴィエ!」


 解っていたのだろう。途中からスキルカードを集めていたようだ。


「ダメです」


 そうか、出ないか・・・。

 わざと出さないようにしているのか、限界まで出てしまっているのか、状況が見えない。

 今の状況では2つの事が考えられる。

・神殿では位のスキルカードは出ない

・上位のスキルカードが”品切れ”状態だという事

 ただ、憶測の上の想像だ。あまり意味があるとは思えない。


 結果だけを受け止めるのが健全なのだろう。


 でも、これではっきりした。


「わかった、この階層にも用事はない。さっさと上に行くぞ!」


 レベル9のスキルカード。

 いろいろ欲しいが出ない物を狙ってもしょうがない。もしかしたら、レア度が高くて何度かやっていればいいのかもしれないが、今だけでも200枚近いスキルカードが入手できている。

 日本円で考えると、200億円(レベル9=約100,000,000円)になる。もう通貨としてのスキルカードは必要ない。希少性があるスキルが欲しいだけだ。魔核は少ししか出ていない。多分30程度だろうが、使いみちがない。


 休憩の為の場所があるので、休憩する。

 今度は、720分の様だ。昼夜逆転というか、昼夜の間隔が無くなってきた。

 武装のメンテナンスをして、風呂に入って、寝る。すでにパターン化した行動をしてから、10階層を目指す。


 扉の前には、丁寧に注意が掲載されている。


 曰く

”ここからは休憩場所はありません。階層主との連戦です”


「だとよ?オリヴィエ、どうする?帰るか?」

「マスター。ご自分が考えていないことを、言わないでください」

「そうだな。ここまで、3ヶ月以上、やっと攻略に手が届いたのだからな」


 なぜか、変な空気が漂う。


「旦那様?」

「エーファ?なに?」


 エーファが微妙な表情をしている。


「はい。3ヶ月の時間が掛かったのは事実ですが、殆どが採取やスキルカードの入手の為に、何度も何度も同じ階層や階層主戦を繰り返していた事に起因していると思います。実際には、1ヶ月程度で攻略できていませんか?」

「え?」


 エーファのいう事は大げさだよな?


 オリヴィエを見ると、うなずいている。オリヴィエは、エーファの意見に賛成の様だ。

 リーリアを見ると、目をそむけやがった。そうか、採取はリーリアとステファナが主張した事でもある。でも、心当たりがあるという事は、エーファの言っている事が正しいという事になる。

 それなら、ステファナだ!と思ったが、目線を合わせようとしない。レイニーは、ウミの背中を撫でている。自分は関係ありませんとでもいいたいのだろうか?


 こういう時には、エリンとアズリは役に立たない。

 本来なら、アズリはリッチであるから、助言を言えるはずなのに、幼女の姿で居るときには、なぜか助言をしない。そしてリッチの姿になる事を嫌っている。常に、幼女の姿で居るようだ。エリンと同じくらいの姿になっている。


 最終兵器である、シロを見る。


「え?僕?」

「シロ。違うよな?」


 これでOKだ。

 シロまで、俺と違う意見になるとは思えない。


「カズトさん」

「ん?俺が、スキルカードや採取を優先したのは認めるけど、3ヶ月程度の時間は必要だったよな?」

「え?あっそうですね」


 ほら、俺の意見が正しい!


「でも・・・。エーファの言っているように、多分1ヶ月くらいでここまでは来られたと思います」

「え?」

「え?」

「ん?」


「カズトさん?僕、カズトさんのやり方でいいと思っているけど、スキルカードは必要だし、新しい果物や魔物の肉も必要ですよ」

「あっうん。シロは、解ってくれているよな?」

「うん。でも・・・」

「でも?」

「一度攻略してから、必要な所に、チアル・ダンジョンコアの力か、ティリノの力で、転移門を作っても良かったとは思っています・・・あっ!カズトさん?」


 シロに指摘された事で、俺は膝から崩れ落ちた。

 そう言われれば、今まで支配領域が作られた場所に、転移門を作っても良かったのだ。


 邪魔をされないようにするために、攻略が必須条件になってくるが、攻略してチアルダンジョンを支配下に置くことができれば、資源採取を俺達が行う必要性は少なくなった。

 確かに、途中でスーンに連絡して、ゼーロやヌルやヌラの眷属に、採取を頼もうと思ったことはあるが、今は攻略が先と思って相談をしなかった。その時に、相談してれば、シロに指摘される事もなかったのだろう。


「シロ・・・」

「カズトさん。あのね。あのね。僕、カズトさんと一緒に戦えて嬉しかったですよ」


 シロのフォローが痛い。


 いつまでも落ち込んでいてもしょうがない。

 気を取り直そう。


「たしかに、エーファやシロの言っている通りだな。俺の判断ミスだ。申し訳ない」


 謝れる時に謝る。


「マスター。気になさる必要はありません。エーファもここで帰っても、1ヶ月くらいでここまで来られるという指摘です」

「はい。旦那様。言葉が足りませんでした申し訳ありません」

「そうだな。エーファ。オリヴィエ。ありがとう。1ヶ月あれば来られるというのが、皆の共通意見なら今度の対応を考える上でベースにする。俺達だから、1ヶ月で来られたと思っていいよな?」


 皆がうなずいてくれる。


「パパ!行かないの?」

「旦那様。奥様。早く行きましょう」


『主様!』

「ティリノ?」

『はい。チアル殿が待っているようです』

「待っている?」

『はい。詳細はわかりません・・・が、主様の到着を待っているようです』

「そうか、招待状がやっと届いたのだな」

『はい』『はい』


 今まで黙っていた、ペネムも何かを感じたのだろう。同意してくれている。


「よし、連戦となっているからな。武装の消耗は極力抑えてくれ。スキル攻撃を基本とする」

”はい!”


「行くぞ!ステファナ。レイニー。扉を開けてくれ!」

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