第百六十六話


 眷属達の強化も一応目処がたった。


 あれから、エーファはシロの隣で人化して過ごす事が多い。人化での戦闘に慣れるためだと言っているが、どうやら食事が気に入っているようだ。別に、狐形態でも同じ食事をさせるぞと言ったのだが、人化を解こうとしない。どうやら他にも理由が有るようだ。


 俺が気にしてもしょうがないだろうと思って、エーファの好きにさせている。


 今日、シロとエリンとステファナとレイニーとエーファで買い物にでかけた。

 下着は、メイドドリュアスが持ってきているが、服は自分で選んでみたいという事だ。ついでに、エーファの武器と防具も揃えてくるようにお願いした。シロにスキルカードを渡しても良かったのが、なんとなく心配だったので、ステファナとレイニーに分担して持つように頼んだ。

 シロが不貞腐れていたが、スキルカードを持つよりも、エーファの武器と防具をしっかり選べるのはシロだけだと言ったら機嫌をなおしてくれた。


 カイとウミとライは、エリンとアズリとティア/ティタ/レッチェ/レッシュ/エルマン/エステルと何故か巻き込まれたナーシャを連れて、チアルダンジョンの探索をすると言ってでかけた。


 ナーシャが、”えっえっえぇぇぇぇ”と叫んでいたが、誰も同情もしなければ、助ける事もしなかった。


「それで、イサーク。言い訳を聞こうか?」

「ツクモ様。申し訳ない」


 イサークとガーラントとピムが揃って頭を下げる。


「何度目だ?」

「本当に、申し訳ない」


 イサークたちとはカイとウミとライたちの初期眷属の次の次くらいに長い付き合いになっている。


「ナーシャも何気なく・・・は、ダメですよね」

「そうだな。今回は、行政官がすぐに動いて、大きな問題にならなかったけど、対応が遅れたら結構たいへんだったぞ」

「わかっている。わかっている」


「ふぅ・・・オリヴィエはどうおもう?」

「そうですね。イサーク殿たちは冒険者ですよね?」

「あぁ」「はい」


 イサークが相槌を打っている。


「もう行政官にしてしまって、どこかの代官にしてしまったらどうですか?」

「お!確かにそれいいかもしれないな」

「ナーシャも、今の身分で知っている事が多いから問題になるのだから、身分を与えて、自由を減らせばいいと思いますよ」

「そうだな。ポストは沢山あるのだし、やってほしい事も沢山ある。それに内情をある程度知っている人間を野放しにしていた今の状況が異常だな」

「はい」


「ツクモ様。俺達の意思は?」

「ん?言えると思うか?」

「・・・。思いません。でも、ナーシャだけで・・・。ダメですよね。はい。わかっています。謹んでお受けいたします」


「ガーラントとピムは?」

「ワシか?ワシも、イサークに付き合う」

「ありがとう」


「僕も、同じ考え。イサークに付き合うよ。どうやら、それが一番面白そうな事だからね」

「ありがとう」


「さて、イサーク。ナーシャは多分来週まで帰ってこないだろう」

「え?」

「エリンとアズリが戦い足りないと言っていたからな。ナーシャが初めてだと解れば、低階層から60階層くらいまで連れ回すはずだぞ?ライもいるから食事には困らないだろうからな」

「うへぇ・・・」「よかった」「そうじゃな。ナーシャ・・・。自業自得だな」


 イサークが俺の方を向いて


「それで、ツクモ様。俺達の職場は?」

「ちょっと待て・・・。オリヴィエ。あそこがいいと思うのだけどどうだ?」

「大丈夫だと思います。ナーシャには罰の継続にもなりますし、イサーク殿たちなら大丈夫でしょう」


「おい。イサーク。ワシは嫌な予感しかしないのだけど気のせいか?」

「ガーラント。俺も同じだ」

「僕もだよ。ツクモ様のあの笑顔はきっとろくでもないことを考えているに違いない」


「おいおい、ピム。俺は、いつでも優しいぞ?ナーシャの甘味抜きとカイたちの運動不足解消に付き合うで許したのだからな」

「それを言われてしまうと・・・」


 3人は諦めたような表情をする。

 連帯責任は好きでは無いのだが、今回ばかりはそうも言ってられない。今まで秘匿していた、居住区の存在を話しそうになったのだ。居住区がバレル事は問題に無いのだが、獣人族の街は行政区と商業区と自由区が基本となっている。居住区は、そこに住めない者たちが住んでいる事になっているのに、ナーシャは何気ない雑談で他の大陸から来ている商隊にその事をバラしそうになったのだ。

 商隊が居住区の存在を知れば、そこから素材の本当の入手先がバレてしまう可能性がある。それを隠すためのペネムダンジョンで、ダンジョン内の街なのだ。ナーシャは根幹部分をバラしそうになったのだ。

 近くに居た行政官が間に入った。この時点で、”まずい”と思ったイサークがナーシャの口を塞いで、俺の所につれてきたのだ。

 その後、居合わせた行政官からの報告が上がってきた。商隊には、居住区の事をぼかすために、ブルーフォレストの内部に小さな集落があり、その集落からの素材も入ってきているという事で納得させたようだ。


「イサーク。お前には、新しく作る港の代官になってもらう。そこで、ナーシャを嫁にしろ。結婚しろ」

「は?」

「これからは、お前一人がナーシャの全責任を追うことになることがわかるよな?」

「・・・。承ります。ですが、俺が代官でいいのですか?」

「あぁ大丈夫だ。ガーラント。ピム。お前たちも一緒に行ってもらうぞ?いいな」

「はい。承ります」「腐れ縁じゃ。ツクモ様の話を受けよう」


「でもよ。ツクモ様。代官なんて俺やったこと無いぞ?」

「大丈夫だ。俺でも領主のマネごとが出来ている。お前にも代官くらいはできるだろう。最初に、話を聞いた時には、お前とナーシャでチアル街全部を見させようかと思ったのだけどな・・・」


「ツクモ様。イサークとナーシャだと3日で街が潰れますよ」

「ピム!」

「俺もそう思って考え直した、そして新しい港の代官にする事にした」

「ツクモ様も酷いですよ」

「そうか?なら、チアル街の領主をやるか?今なら全部任せるぞ?」

「謹んで辞退申し上げます。分不相応でございます」

「それなら、代官は受けるのだな」

「わかりました。それから、ナーシャとの結婚は・・・」

「なんだ嫌なのか?」

「いえ、そういうわけじゃないのですが・・・」


 煮え切らない男だな


「ツクモ様。イサークは、考えすぎなのです」

「だろうな」

「内心では、ツクモ様のご命令なので、嬉しいという気持ちを全面に出せなくて困っているのです」

「なんだそりゃぁ?!まぁいい。イサーク。ナーシャが帰ってきたら、結婚と代官夫人になる事をナーシャにも説明しておけよ」

「・・・。はい」


「ピム。ガーラント。その時の様子を後で教えてくれよ。なんならスキル道具をもたせるからな。後でじっくり鑑賞しような」

「はっ!」「承ります」


「おっお前たち!ツクモ様も、そりゃぁ無いですよ」


 ひとしきりイサークをからかって笑ったあとで、赴任先になるロックハンドの説明を行う。

 ロックハンドは作ったばかりで入植が行われていない事を説明した。


 その上で今後の計画として魔の森の資源化を行う事も説明する。

 橋頭堡は休憩場所だがそれだけでロックハンドが魔の森に入るための玄関口になる。


 ユーバシャールでは魔の森まで距離がある。湿地帯は、集落が点在している上に湿気が多いのでなれない者には辛いだろう。

 ロックハンドは軍港の意味合いもあるが、魔の森からの資源の集積場の意味合いもある。

 港から各大陸に持っていく事も可能だろう。ロングケープやパレスキャッスルに持っていってもいいかもしれない。


 まずは、イサークたちが中心となって街を作っていく必要がある。

 基本的な部分や設計は出来ているので、あとは管理と運用をしていく事になる。最初の頃は、魔の森からの魔物の襲撃にも備えなければならない。文官と武官を両方共派遣するよりも、少しは頭がつかえる、武官を派遣した方がいいだろう。

 それに、イサークとナーシャならロックハンドが大きくなってきて、代官に求められる資質が変わった場合に、交代を申し付けても文句を言わないどころか嬉々として交代する可能性が高い・・・。と、思っている。


「ツクモ様。すぐに移動開始しますか?」

「イサーク。お前、何を聞いていた。ナーシャをおいていくのか?」

「え?あっ!」

「それに、さっき言ったよな?来週の全体会議で任命してからになるってな」

「あっ」

「大丈夫か?オリヴィエ。やっぱり、お前が行くか?」

「ダメです。マスターの側を離れる事は出来ません」


 懸案事項だった。ロックハンドの人事が決定した。

 ナーシャがタイミングよく問題を起こしてくれた。謹慎処分と言っても、冒険者である彼らにはそれは意味がない。


 意味がある形にしてやればいいだけだったのだ。


 イサークたちが、何かを諦めた表情になって執務室から出ていく。

 俺の前には、オリヴィエが新しく淹れて湯気が出ているお茶が置かれている。


「マイマスター。よろしかったのですか?」

「ん?最善の策だと思うぞ」

「はい。でも、彼らは他にもいろいろやっています。それを外してしまっても良かったのですか?」

「どうだろうな。でも、彼らが抜けて崩れてしまうようなやわな体制にはしていないよな?」

「もちろんです」

「それなら大丈夫だろう。それよりも後始末は問題ないよな?」

「はい。問題ありません」


「ナーシャに声をかけてきた商隊の正体は解ったのか?」

「はい。マイマスターの予想通りでした」

「・・・。そうか、厄介な事にならなければいいな。できれば、仲良くしたいのだけどな」

「そうですね。それで、どう対処いたしましょうか?」


 面倒だけど、面倒だと逃げるわけには行かない案件だよな。


「わかった、オリヴィエ。メリエーラ老を呼んでくれ」

「かしこまりました」


 ふぅ面倒事にならなければいいのだけどな

 偶然だと思えないし、偶然だとしたら、ナーシャの罰を重くすればいい。


 20分ほど決済が必要な書類を眺めていると、ドアがノックされた。


「マイマスター。メルエーラ殿をお連れしました」

「わかった、入ってもらえ、オリヴィエ。お茶を頼む」


「ツクモ様。ワシに何か用だと聞いたが?」

「まぁメルエーラ老。座ってくれ、長い階段を歩かせて申し訳ない。お茶でも飲んで一息いれてくれ」

「ホッホホホ。ツクモ様。お気遣い感謝する。しかし、不要じゃ本題に入ってくれ」


 腹の探り合いをするつもりはないという事だな。


「そうか、先日一つの商隊が、俺が前から親しくしている冒険者に話しかけた」

「・・・」

「そのときに、どうやら周りから聞いている限りでは、商隊が答えを知っていて、その冒険者に喋らせるようにしたのではないかという事だ」

「・・・」

「メリエーラ老。何か言いたい事はあるか?」


 オリヴィエがお茶を持ってきた。

 俺には少し熱めで、メリエーラ老にはぬるめにしている。


「ふぅツクモ様。その商隊は、エルフだったのかえ?」

「あぁ聞いた話だし、偶然居合わせた行政官が執り成してくれて問題にはならなかった」

「そうかえ・・・。あの馬鹿共・・・」


 メリエーラ老を見つめる。

 まだ何か言葉を続けてくれるはずだ。


「ツクモ様。間違いなく、エルフ大陸から来たものじゃろう」

「あぁ」

「あやつら。ワシが言った事を信じていないようじゃ」

「どういう事だ?」


 メリエーラ老の説明では、チアル街とチアル大陸の事を説明して、手出しするなと伝えて有ったそうだが、それを一部のエルフが、メリエーラ老とその一派が有りもしない街をでっち上げて、ブルーフォレストと魔の森の資源を独占しようとしていると思っているようだ。

 ダンジョンの恵みではなく、森の資源の方がエルフとしては大事だという事だ。エルフの大陸では、森の木が大量に枯れたり土砂崩れで一部の集落が移動を余儀なくされたりしたそうだ。

 それで、資源が豊かな(だと思える)ブルーフォレストや魔の森に移住を考えていた所に、チアル街が出来上がったから、一部のエルフ達はメリエーラ老とその一派が人族や獣人族と手を汲んで、豊かな森を独占しようとしていると考えたようなのだ。

 一部のエルフ達は確かめるために、商隊に混じって情報収集しに来たという事らしい。


「なぁそれで、ナーシャを扇動する意味があるのか?」

「それは、さっき言った通りに、森の恵みがほしいのじゃよ」

「あぁそれで?」

「森の中にはエルフ以外に居てほしくないのじゃよ」

「あぁそれで、実は森の中に、集落があって、獣人はエルフが得る森のめぐみを不法に採取して財を得ているって事にしたかったのだな。扇動相手にナーシャを選んだのは偶然の要素が強かったという事だな」

「そうなる。そもそも、奴らがあの森の中に入って、半日以上生きていられるとは思えぬ」

「そりゃ弱いな20階層くらいで死にそうだな」

「ダンジョンなら、10階層を越えられないだろうな」

「わかった。戦争を・・・。紛争を前提とした偵察や扇動じゃないのだな?」

「それは、ワシの老い先が短い命をかけてもいい。もし、そんな事になったら、ワシがエルフ大陸に行って奴らを滅ぼしてくる」

「そこまでする必要はない。敵意を向けたら、敵意で返すだけだからな」

「わかった。肝に銘じておく、奴らにもそう伝えておく」


 偶然が重なった結果だな。

 今の所は、メリエーラ老の言い分を信じる事にしよう。


 もし違ったら、そのときに対処を始めても問題は無いだろう。

 エルフ大陸は距離が離れているし、どうやら話を聞くと一部の者だけだし、なんとかなるだろう。

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