第百五話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


 昨日は話が濃かった。

 そう言えば、街の名前聞いていないけど、いいか・・・2ヶ月後には判明するのだろうからな。


 まずは、ギュアンとフリーゼたちだけど、面倒だな。


 洞窟の部屋で朝食をとってから、ログハウスの執務室に向かう事にする。


「エリン。昨日はどうだった?」

「シロお姉ちゃんたち?」

「あぁ」

「すごくびっくりしていたよ」

「そうか、ダンジョンか?」

「ううん。道具屋さんとか、武器屋さん!」

「へぇそんな所に行ったのだね」

「うん。フラビアお姉ちゃんが武器がみたいって言ったから、オリヴィエお兄ちゃんが案内していた」

「そうか、オリヴィエもしっかり案内に参加してくれたのだね」

「うん!それでね。リカルダお姉ちゃんが、宿についていた火が出る道具みたな物がみたいと言ったから、エリンが案内したの!」

「偉いな。しっかり案内できたのだな」

「うん」


 エリンの頭をなでて褒める。

 さすがに、行政区と実験区には行っていないだろう。そもそも、エリンとオリヴィエでは行けないからな。


「他には、どこか行ったのか?」

「あ!神殿区には行ってきたよ」

「そうか、ありがとう。エリン。しっかり案内できたのだな」

「うん!シロお姉ちゃんが、神殿区で泣いちゃって大変だった!」


 そうか、心が孤児たちに寄ってしまったのだろうな。

 アトフィア教の負の側面だけを見せつけられる旅路だったのに、その上で更に、理不尽に奪われた子どもたちを見てしまうと、アトフィア教のやった事を自分がやってしまったと勘違いしてしまうのかも知れないな。


「そうか・・・ありがとうな。エリン」

「ううん。あぁそうだ。ナーシャとも会ったよ。今度、ダンジョンに一緒に行こうって誘われた」

「ナーシャ・・・かぁすっかり忘れていたな。それで」

「”ヤダ”って言っておいた」

「ハハハ。そうか、エリンはダンジョンが嫌なのか?」

「ううん。違う。パパとシロお姉ちゃんとならダンジョンに行きたいけど、ナーシャはイヤなの!」

「なんで?」

「だって、エリンの事褒めてくれない!」


 そうか、ナーシャだけじゃなくて、イサークたちも、エリンの事が絶対的な強者である事がわかるのだろうな。シロたちは、エリンの事が強者だとわかっても、見た目や言動で庇護欲を掻き立てられているのだろう。

 人族であるシロたちと、力での上下関係が基本のイサークたちでは根本的にエリンへの感じ方が違うのだろう。

 イサークたちが悪いというわけではなく、獣人族の習性なのだろう。


 話を聞く限り、概ね大丈夫だったようだな。


「あぁパパ!ギュアンとフリーゼがお礼を言っていたよ?」

「ん?」

「お家。パパとママの思い出が詰まったお家が・・・嬉しいと言っていた」

「そうか、それは良かった」


 そうか、ギュアンとフリーゼは、あの家に住み続けるのか?

 二人に相談して、内装を作り直さないとな。トイレだけはしっかりしないとな。


 ログハウスに移動して、執務室に入る。

 スーンが待っていて、昨日の議事録を見せてくる。問題ないので、参加者にくばるように命令する。吸血鬼を筆頭に、恭順の意思を示した者達をどうするのかを相談しなければならないだろうな。


「スーン。恭順の意思を示したのは、吸血鬼だけなのか?」

「・・・意識有る魔物も存在します」

「そうか、わかった・・・そうなると、行政区で面談するよりは、ログハウスのほうがいいか?」

「大主様。できましたら、ブルーフォレスト内に、拠点を作りたいのですがよろしいですか?」

「拠点?」

「はい。ログハウス内の謁見の間は、大主様から御言葉を賜るときに使用して、拠点は昨日のように皆が揃って大主様との会談を行う場所という位置づけにしたいと思います」

「行政区では問題が・・・あぁ魔物種たちの問題か?」

「はい。意識有る魔物種だけでも参列させていただきたく思います」


 そうだな。

 行政区は、あくまでペネム街の行政を司る場所になるのだし、あそこで、俺がしゃしゃり出ていくのは良くないだろうな。確かに、拠点は有ったほうがいいのかも知れないな。

 どうやら一部では”魔王”と呼ばれているようだから、それにふさわしいロールプレイをしてもよいのかも知れないな。


「わかった。場所の選定から、建物まで任せて大丈夫か?」

「はい。お任せ下さい。2点お願いがあります」

「なんだ?」

「一点は、ペネムダンジョンからの移動を許可していただきたい」

「あぁわかった。クリスに言って作らせよう」

「ありがとうございます。もう一点はできたらで構いませんが、念話を声が大きくなるスキル道具を中継して声になるようにできませんか?」

「考えてみるが期待するなよ。念話・・・の変換か・・・翻訳とかのほうが楽なのか?」


 そもそも、念話も意味不明だよな。

 意識有る魔物が、総て、俺に理解できる言葉を話しているって事になるのだような。シロたちも念話での会話が可能だった事から、”念”は意識ととらえる事ができそうだ。


「スーン。会議をするときに、全員に念話の魔核を渡すではダメか?」

「・・・大丈夫だと思いますが、大主様のお手間が」

「それは気にしなくていい。それに、スキル道具を作るよりも楽だからな。最終的にはスキル道具を考えるけど、しばらくは念話魔核で対応しよう」

「かしこまりました」


「そうだ。スーン。その拠点だけど、防御面も考慮するのは当然だけど、初めての者たちの謁見でも使えるようにしておいて欲しい」

「かしこまりました。最上階に、謁見の間を作って、下部に会議室を作ります。会議室は、大部屋以外にもいくつか用意しておきます」

「たのむ。そうだな、他にも待機場所を作っておいて欲しい。護衛を連れてくる者も出てくるだろう、その場合に護衛隊を中に入れさせない為の施設も頼む。浴場も用意しておいて欲しい。汚れた状態で会議に参加するのは嫌だろうからな」

「かしこまりました」


「あっそうだ!スーン。イサークたちを呼んで欲しい。表の行政区でいい」

「イサーク殿だけでよろしいのですか?」

「そうだな。ナーシャは必ず連れてこいと伝えて、後は任せる」

「かしこまりました。時間はどうしましょうか?」

「明日の昼過ぎでいい。今日は、シロ達の話を聞くことになっているからな」


 スーンが一礼して部屋を出ていく。


 エリンにお願いして、シロとフラビアとリカルダとギュアンとフリーゼを呼びに行ってもらおう。

 その間に、執務室に溜まっている書類を読み込んでおく事にする。


 シロたちが控室に入ったら、連絡してもらう事にした。会うのは、謁見の間でいいだろう。


 2時間くらい経っただろか

 メイドが俺を呼びに来た。シロ達が、控室に入ったという事だ。


 謁見の間に移動する事にした。

 エリンは、執務室のソファーでウミを枕に寝ている。ウミとエリンとライはそのままにしておく。カイを伴って、謁見の間に移動する。


 玉座に座って、メイドに指示を出すと、控室にいるシロたちを謁見の間にむかい入れる。


 シロ達が緊張した面持ちで歩いてくる。

 謁見の間じゃなくて、執務室とかにしておいたほうが良かったかな?


 俺の前まで来て、跪いた。

 臣下でもないし、眷属でもないので、跪く必要はないのだろうけど、アトフィア教的な礼の方法なのだろう。


 シロを先頭にして、少し下がった所で、フラビアとリカルダ。その後ろに、ギュアンとフリーゼが続いている。


「カズト・ツクモ様。謁見の儀ありがたく思います」

「堅苦しいのは苦手でな」


 手を挙げると、両脇に居た、ドリュアスとエントが部屋から退場する。


 俺とカイとシロたちだけになる。


「それで、シロ。感じた事やこれからのことを聞きたい」

「はっ」


 だから、堅苦しくしてほしくないのだけど、雰囲気的にはそういうわけにはできないのだろうな。


「カズト様。私はわからなくなってしまいました」

「どうした?」


 シロは、ロングケープからミュルダにたどり着く間で、アトフィア教が各地で行っていた事を理解したつもりで居た。しかし、俺が行った事にも納得ができない所もあった。なぜ苛烈にするのか?

 誰に罪があるのか?罪が有るのだとしたら、自分では無いのか?そう考えるようになっていた。

 ミュルダの街についてからは、獣人と人族に何の違いもない事がわかった。そして、獣人だから大丈夫という印象もだいぶ変わった。実際に、移動しているときに、獣人の窃盗団にも遭遇しているし、人さらいのような者が存在していた。俺が、そいつらを断罪した事にも衝撃を受けたと話していた。アトフィア教なら、相手が獣人であった場合には、人族の罪を問う声なぞ出てこない。罰は、より立場の低いものに集中する。


「それで?」

「はい。神殿区と呼ばれる所に行きました」

「あぁ」


 一呼吸置いて、シロは俺の顔をはっきりと見た。


「カズト様。私たちは考える事ができませんでした」

「どうした?」

「子どもたちを見ました。コルッカ教の司祭の話も聞きました」

「それで?」

「アトフィア教の教えが間違っているとは思いません。思いませんが、私にはアトフィア教の教えを胸を張って論じる事ができなくなりました」

「そうか・・・フラビアやリカルダはどう思った?」


 二人に視線を送る。


「ツクモ様。今、姫様がおっしゃった事や、今までツクモ様がおっしゃっていた事。私たちの行動や考え方。総てが違うと・・・違いますね。ツクモ様は何度も言っていました。”姫様に考えろ”とおっしゃっていました。私も、フラビアも、姫様も勘違いしていました」

「勘違い?」

「はい。姫様のお父上の考えている。理想郷だと思っていました。今のアトフィア教と違う事を考えていました。確かに違います。獣人族がこんなに幸せそうにしている所はありません。人族と獣人がお互いに尊重しあって物事に取り組んでいる所を目の当たりにしました」

「あぁ」

「しかし、根本的な部分では、アトフィア教とこの街は何も違わないのではないかと思ってしまいました」

「そうか・・・リカルダだけじゃなくて、フラビアやシロもそう思ったのか?」


 3人がうなずく。


「なぜ?そう思った?」

「はい。人であれ、獣人であれ、同じだからです。獣人の中にも、アトフィア教だというだけで毛嫌いする人も居ます。それは当然でしょう。アトフィア教が獣人に対して行ってきた事を考えれば毛嫌いで済んでいる事が奇跡です」


 ここで、リカルダは一息入れた。

 フラビアが続くようだ


「ツクモ様。人族だろうと、獣人族だろうと、それこそ、ドワーフでもエルフでも皆それぞれが違うのですね」

「そりゃぁそうだな。違うからこそ、まとまろうとする。そのときに、獣人族は、同じ種族でまとまろうとする。人族はその単位が大きいから、さらに意見が近い者として、アトフィア教としてまとまろうとする。俺は、それが間違っているとは思えないし、間違っているなんて言ってもしょうがないと思う。だからこそ、まとまった集団は、他のまとまった集団に対して不干渉で居るべきだと思っている」

「不干渉?」

「あぁアトフィア教という教えに賛同する者だけでまとまっていれば、お前たちが神殿区で見たような子供は産まれなかった。そして、ギュアンやフリーゼが集落を失うような事も無かった。俺が、いくつかの集落を見捨てたのを不思議に思ったのだろう?」


 3人は何も答えないが、顔が物語っている。


「あれは、アトフィア教の集落だからではない。彼らは”何も”しなかったからだ」

「何も?」

「あぁ”同じアトフィア教”だから受け入れた。考えるのを放棄したのだ」

「「「・・・」」」


「でも、ギュアンは俺たちに助けを求めに来た。集落では何が発生したのかわからないが抵抗した後も見えた」


 3人だけじゃなく、ギュアンとフリーゼも当時を思い出しているようだ。


「なぁシロ」

「っはい!」

「”家畜のように飼いならされて明日殺されるボア”と、”明日戦って死ぬかも知れない野生のボア”とどっちになりたい?」


「カズト様・・・そんなの・・・」

「家畜なら、死ぬ寸前まで、沢山の食べ物と飲み物。安心できる寝床が与えられる。野生のボアは何時襲われるかわからないし食べ物も飲み物も何時入手できるかわからない」


「え・・・」

「お互いがお互いに憧れるだろうな。野生のボアは、安心できて食べ物にも苦労したくない。家畜のボアは、自由という環境に憧れるのだろうな」

「・・・はい」

「シロはどうしたい?」

「僕は・・・野生のボアに憧れます」

「そうだな。生き物は、潜在的に安定を求めて、自由に憧れるのだろうな」


「カズト様」

「それで、シロ・・・どうしたい?」

「僕は、強くなりたい。今の僕では何を言っても行っても説得力なんてない。だから、僕は強くなりたい」

「強くなる?」

「うん。力だけではない。世界を知りたい。もっともっといろんな人に会って、いろんな価値観に触れて、いろんな知識を得て心を強くしたい。僕が僕である事を皆に認めさせたい。そのために、カズト様を利用したい。一緒に・・・」

「わかった。シロの考えはわかった、滞在を許可するし、自由に過ごせばいい。フラビアとリカルダは?」


 二人は、交互にお互いの顔を見る


 フラビアが先に答えるようだ。

「私たちは、姫様の従者です。姫様の手助けをしたい」

「ダメだ。その理由では、滞在を許可する事ができない」

「え・・?」


 リカルダが俺を見る。

 見つめてくる。真意を図ろうとしているのだろう。

「ツクモ様。私も、フラビアと同じです。姫様の手助けをしたい。しかし、それは姫様を甘やかす事でも導く事ではありません。私たちは、私たちの幸せのために、姫様のなさりたいことを助けたいのです」

「そうか・・・リカルダ。シロの幸せの先に、お前たちとの別れが有るのだとしたらどうする?唯々諾々として受け入れるのか?」

「受け入れません。姫様の幸せを邪魔しない範囲で、別れないで済む方法を探します」

「探しても見つからなければ?」

「それでも考えます。足掻きます。使える”モノ”は何でも使います。それでもダメなら、すっぱりと諦めて新しい幸せを探します」


「フラビアは?」

「私は、そこまで割り切れません。しかし、リカルダが言っている事もわかります。私は、姫様の事も大事ですが、同じくらい、リカルダの事が大事です。だから、ツクモ様。私は、姫様やリカルダのやりたい事を守る剣であり盾になります。今、私がやりたい事です。姫様が知識を得たいと言うのなら、私は力を得たい。どんな事にも屈しない力が欲しい」

「力を得て、邪魔者を殺すか?」

「いえ違います。私が得た力は、私の為には使いません。姫様やリカルダの為に振るう力です」

「シロが、自分の気に入らない者を殺せと、願うかも知れないぞ?」

「そのときには、私が姫様を止めます。そのための力です」


「わかった。リカルダ、フラビア。両名の滞在を許可する」

「「ありがとうございます」」


 3人の後ろに居る、ギュアンとうフリーゼを見る

「さて、二人はどうする?」

「ツクモ様。僕たちは、ノーリたちの世話をしたいと思います。あと、できましたら、池で漁を行いたいです」

「わかった。バトルホースの事は、俺からも頼みたい。頼まれてくれるか?」

「「はい!」」


「あぁそれでな。あの池・・・人工的に作った池で、漁ができるとは思えないのだけどな」

「え?作ったのですか?あの池を?」

「あぁそうだけど、なにかあったのか?」

「いえ、少し驚いただけです。そうですか・・・漁は出来ませんか・・・」


「そうだ。ダンジョン内や他の場所の魚の養殖とか出来ないか?」

「養殖ですか?」

「あぁ・・・」


 二人に養殖の簡単な説明をする。


「やってみたいです!」

「そうか、あとは人手が必要だよな・・・」

「ツクモ様。神殿に居た子供たちに手伝ってもらっていいですか?」

「ん?本人たちが望めば大丈夫だぞ?」

「!!わかりました。話をして来ます」


 そうだよな。

 神殿区で大丈夫とは行かなくても、なにか仕事があれば話も違ってくるだろうからな。

 バトルホースの繁殖も養殖も基本的には最初は大変だけど、あとは日々の作業を行う事が基本だからな。


「わかった。二人には、養殖と繁殖を頼みたい」

「「はい!!」」


 二人に関しては、住む場所は今の場所で問題ないという事だ。

 シロ達は豪華すぎると言われたが、自由区とかに住まわれるよりも、宿区のほうが監視ができるし丁度いいのだよな。


 俺から与えるのではなく、分割で買わせる事にした。

 シロは、しばらく俺と一緒に居たいという事なので、許可を出した。

 フラビアとリカルダは、ギュアンとフリーゼの手伝いをしつつ、ダンジョンに潜ってみるという事だ。ダンジョンに入るときには、シロも一緒に行く事になった。

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