第六十七話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


「ウミ。クリスはどうだ?」

「ねぇカズトさん。なんで、ウミ姉に聞くの?僕に聞いてくれてもいいと思うけど?」

「そうか?クリス。どんな感じだ?」

「問題ないよ!」


 だろうな。


「そうだろうな。それでウミどうだ?」

「カズトさん。酷いぃ!」

「はい。はい」


『まだまだだけど、なんとか形になってきた』

「そうか、どの程度だ?」

『エリンといい勝負かな?』

「そうか・・・いい勝負は、負けるって事か?」

『どうだろう。ブレスを使わせなければ、クリスが勝つとは思うよ』

「わかった、それじゃ次の段階にすすめてもいいよな?」

『うん。大丈夫だとは思う』


「え?なに?次の段階?エリンちゃんは、竜族だよね?え?え?」

「パニックになっている所悪いけど、クリス。次は、スキルカードを渡すから、スキルカードと固定されているスキルの並行利用をやってみような」

「えぇぇ!!できないよ。スキルは1つ1つ使うものだよ?」

「そんな事無いぞ?」


 クリスの前に、レベル1火種とレベル2風のスキルカードを出す。


「クリス。レベル1火種とレベル2風だよな?」

「え?あっうん」


 レベル1火種を発動する。同時に、レベル2風を発動させて、火炎放射器の様にする。


「ほらな。今のは簡単な例だけどな。できるだろう?」

「え?あっうん。でも、カズトさん。詠唱は?」

「あぁクリスにも付けただろう、詠唱破棄を付けているから、イメージだけで発動するぞ、もし、詠唱するのなら、詠唱して、発動前で止めておいて、両方のスキルが同時に発動するイメージを固めてから、発動させれば、うまくできるぞ」

「カズトさん。難しいですよ」

「慣れの問題だからな。ウミ。頼むな」

『任されました!』


 クリスをウミにまかせて、ダンジョン攻略を続ける。

 攻略と言っても、俺はほとんどやることがない。ウミとクリスだけで、20階層のボスは余裕で倒せている。


『あるじ』

「ん。ライ。どうした?」

『低位の魔物とか、ここに置いていっていい?』

「あぁいいよ。魔蟲が取りに来るのか?」

『うん。たどり着いたみたいだからね』

「わかった。いいよ。一度セーフエリアに戻るか?」

『うーん。下の階層で大丈夫だと思う』

「りょうかい」


 セーフエリアと聞こえたのだろう、クリスがこっちを振り向いたが、違う事に気がついて、少しだけ残念な表情をしてから、ウミになにか話しかけているようだ。


「クリス。このダンジョンは、50階層くらいじゃないかと言われているのだよな?」

「うん!そう、イサークさん達もそんな事を言っていた」

「今、攻略されているのは、38階層とかって言っていなかったか?」

「うーん。どうだろう。僕が聞いた話では、36階層らしいけど、そんなに苦労するのかな?」

「なぁクリス。サラトガの領主が持っていると言っている、レベル7回復。領主家がダンジョンから取ってきたって事になっているよな?」

「うん。僕は、そう聞いたよ。それで、おじさん達は・・・」

「あぁすまん。別に、クリスを責めるつもりはない。でも、少しおかしくないか?」

「え?」

「宝箱の中に存在したって事も考えられるけど・・・ライ。ここまでで魔蟲やエントに宝箱の探索もやらせてみろよ」

『うん!』

「それで、カズトさん。何がおかしいの?僕にはわからないよ」

「あぁ居住区にあるダンジョンだけどな。階層によって、だいたいでてくるスキルカードや魔核のレベルが決っているのは知っているか?」

「え?あっうん」

「このダンジョンでも同じだよな。大体階層割る10プラス1~2だよな」

「・・・えぇと。1階層から9階層が、レベル1かレベル2で、10階層から19階層が、レベル2かレベル3って事で合っている?」

「あぁそうそう。そんなかんじだよな?」

「うん」

「なぁクリス。まだ2つだけだけど、今20階層では、レベル3かレベル4だよな?」

「ちょっとまって・・・うん。そうだよ」


「な。おかしくないか?」

「え・・・・あっ回復は、レベル7!」


 20階層から29階層が、レベル3かレベル4

 30階層から39階層が、レベル4かレベル5

 40階層から49階層が、レベル5かレベル6

 50階層が、レベル6かレベル7


 ダンジョンを踏破していれば、レベル7回復を得ている可能性はある。確かにあるが、レベルが上の物はレアドロップになっているのか、100体倒して1枚か2枚しかでてこない。このダンジョンがもう少しレアドロップが高かったとしてもそれほど大きくか変わらない。


「そう。このダンジョンの攻略は、40階層までできていない。もしかしたら、領主家は最下層まで行ったのかもしれないが、それなら、レベル7回復を自慢するよりも、ダンジョンの最下層に行った事を自慢するよな?」

「え?うん。僕なら・・・お祖父様でも同じかな・・・お父様はわからないや。でも、最下層に行けるという事は、レベル6か7のスキルカードや魔核が入手できるって事だから・・・そっちを公表して、持っているスキルカードは取引の材料に使うかな?」


 だよな・・・それに、レベル7回復が一枚だけと言うのも気になっている。

 俺のように固定化できなければ、使ってしまえばスキルカードはなくなってしまう。だったら、せっかく降りた最下層で、他のレベル7地図や即死や詠唱破棄は取得しなかったのだろうか?

 確かに、回復は素晴らしいとは思うけど、クリスに使ってみて・・・治療のほうがコスパがいいように思える。それに、同じレベル7なら、即死のほうが相手を脅迫する時に使えると思う。レジストは可能だとは思うけど、それでも即死スキルは強力な物である事は間違いない。


「カズトさん!」

「あぁ悪い。違和感があるよな?」

「うん。そもそも、レベル7回復よりも、レベル8偽装のほうが俺としては嬉しい・・・・けど領主はそのトレードを断ったのだろう?」

「うん。お祖父様がそんな事を言っていると、お父様が愚痴っていた。化物の僕に、レベル8を使うのが嫌だったのだと思う」

「あぁそれは昔の話だ。な、クリス。おかしいだろう?」

「うん。お祖父様たちが持っていた、レベル8偽装は、ミュルダを開拓した時にお祖父様のお祖父様がブルーフォレストから来たイリーガル種を倒したって聞いている」

「だよな。そういう逸話がでてくるのなら解るのだけど・・・ダンジョンから取得したという曖昧な情報だけだ」


 こんな話をしながら、25階層のボス部屋の前まで来た。

 まだ余裕はあるが、魔物がスキルを使い始めている。詠唱破棄はできないのだろうから、詠唱始めた所で、クリスが魔力が集まるのが検知できるので、集中的に狙えば、発動前に倒すことができる。


 低レベルのボア系やディア系や上位種のラビット系やマウス系が交じるようになってくる。食べられる物として食材に見えてくるので、クリスとウミには、なるべく、頭を飛ばす様にスキルを使うように指示を飛ばす。

 倒れた魔物を、ライの分身が、血抜きを行う。そして、収納する。


 いいお土産ができた。


 倒された魔物から出る魔素も、だんだん濃くなってきていると、クリスが言っている。

 どうやって判断しているのかわからないが、倒した者が半分くらいの魔素を吸収して、残りをその場に居る者たちで分け合う形になっているようだ。攻撃しているのが、クリスとウミだけなので、実際に倒した者なのか、ダメージ分量なのかはわからないが、概ねそんな感じだという事だ。


 25階層のボスは、今までの延長だったために、それほど苦労する事なく倒す事ができた。


「さて、30階層まであと5階層だな。急ぐぞ!」

「はい!」

『りょうかい!』


 洞窟スタイルの階層が続くようだ。居住区のダンジョンが特殊なのだろう。


 魔眼は本当に有効だな。

 ダンジョンの道だけではなく、魔物の場所の特定ができる。試しに、レベル5結界に覆った俺たちを見せたら、魔力が把握できたようだ。使う魔力をあげて同じことをおこなった。レベル8結界で初めて見えなくなったという事だから、魔眼はレベル7か8相当なのだろう。

 そうなると、クリスの現在の魔力では発動はギリギリ大丈夫かも知れないが、連続使用は辛いはずだ。今は、クリスが行っている言葉を信じておこう。これ以上は、検証はできないから、そういう物だと思っておこう。


 これから、交渉の席などで結界を展開する時には、レベル8相当の魔力を込める事にしよう。


 本当に、ダンジョンとしては狭いのではないか?

 居住区ダンジョンの60階層の半分以下だぞ?狭くなっても、魔物との戦闘の頻度は変わっていない、連戦が多くなっている。俺たちは、まだ余裕があるが、確かに、セーフエリアの数から考えると、一般的な冒険者だと少しつらい物があるかも知れない。

 それに、スキルの問題が発生してしまうのだろう。この辺りの魔物だと、ウミだと一回のスキル発動で倒せるが、クリスだと2~3回は必要になっている。レベル4程度のスキルだが、魔物が落とすスキルカードは、レアドロップでレベル5、通常はレベル4だ。そうなると、魔物一体にレベル4のスキルカードを2枚使ったら赤字になる。魔核がドロップすれば、トントンになるのかも知れないが、魔核のドロップ率も、レアドロップほどではないが、それほど高くない。

 スキルを発動する時に、魔力を込めるやり方は一般的では無いようだから、赤字覚悟でないと乗り越えられないか、純粋に物理攻撃飲みで乗り切るしか無いのだろう。そうしたら、確かに、30階層か少し下辺りが限界点だと言うのは理解できる。


「ついた!」

「おつかれ」


 30階層のセーフエリアに到着した。


『あるじ。どうするの?』

「そうだな・・・・」


 クリスを見ると、疲労を上回る期待が有るのだろうけど、確かに疲労している。

 疲れても居るだろうし、スキルの連発で精神的にも着ているのかも知れない。


「そうだな。今日は、ここまでにするか?ライ。眷属達に連絡して、リーリアやオリヴィエとエリンに、今日は帰らないと伝えておいてくれ」

『わかった!』

『主様。今日は、こちらでお休みになるのですか?』

「うん。そのつもりだよ。幸いな事に、リーリアが食事をもたせてくれているから、大丈夫だろう?」

『わかりました。お風呂はどうします?作るのなら、ウミにやらせますが?』

「そうだな・・・ウミ!クリスに、風呂の作り方を教えてやってくれ!」

『わかった』

「お風呂!?」

「あぁ風呂に入りたいからな。あぁクリスは嫌なら無理しなくていいからな・・・何を期待しているのかわからないが、別々だぞ?」

「えぇぇぇ・・・あっ僕、お風呂の入り方わからないから、カズトさんと一緒にはいらないとだよね」

「はい。はい。1人で入られるよな。宿区の風呂を満喫していたのだろう?」

「・・・・えぇぇダメ?」

「ダメ。ウミ。頼むな」

『うん。ほら、クリス。お風呂を作るよ!』


 まだなにか、ブツブツ行っているクリスを、ウミが連れて行く。


「クリス。今日は、一緒に寝ような。布団が一組しか無いから狭いかも知れないけどな」

「え?本当!」

「あぁしょうがないだろう。今日、クリスは頑張ったからな。ゆっくり休みたいだろう。布団を、クリスだけで使うのは、カイとウミとライとクリスがイヤだろう?」

「うん!カズトさんと一緒に寝る!」

「わかった。解った。だから、しっかり風呂を作らないとな。布団汚したら怒るぞ!」

「うん。しっかりお風呂作って、綺麗にする。でも、1番はカズトさんが入ってね」

「いいのか?」

「うん!」


 なになら、試行錯誤しているようだが、ウミに言われて、シンプルな作りにしてくれたようだ。

 風呂に水をためて、温めていく。スキルの無駄使いなのは間違いないが、訓練になるので、風呂を沸かす所までやらせる事にする。


「カズトさん。お風呂できた!」


 湯加減が、少し熱いくらいになっている。


「わかった、それじゃご飯食べてから、順番に入るか」

「うん」


 ウミが手早く、テーブルのような物を作成する。

 ライが、リーリアが持たせてくれたご飯を取り出す。


「クリス。どうだ?」

「ん?ご飯美味しい」

「あぁそうじゃなくて・・・スキルは、問題ないか?」

「うーん。よくわからない。今日は、必死だったし、ウミ姉に言われた通りにスキルを発動させるので精一杯だった」

「そうか、今のまま少しやってみて、問題が有るようなら、また調整するか?」

「うん!カズトさんが、僕の身体を好き勝手にいじるのだね」

「クリス。言い方!」

「ハハハ。でも、本当だよ。カズトさんなら、僕の身体好きにしていいよ」

「はい。はい。わかっていますよお嬢様。でも、俺は子供には興味無いからな!」


 食事も終わって、総意を受けて、俺から風呂に入る事になった。

 脱衣所のような物はないが、着ていた物は収納に入れればいい。収納の優秀な部分だが、風呂上がりに発揮する。固定化している収納には、”水滴”を収納できるのだ。ようするに、風呂上がりに、身体に付いている水滴を収納すれば、一気に乾くのだ。髪の毛までは乾かないのだが、すぐに作務衣に着替える事ができるのは嬉しい。髪の毛は、風のスキルを付与した、ドライヤーモドキで乾かせばいい。


 身体を洗って、十分に温まってから風呂を出る。

 ウミにお願いして、小上がりした場所を作って、そこに布団を敷いてある。クリスの寝相はわからないが、悪くても大丈夫なように、柵を作ってある。俺と一緒に入ったカイとライはもう布団で丸くなっている。俺も、そんなに疲れては居ないが、布団で横になる。


 居住区のダンジョンの事を考えている。ダンジョンは攻略してしまうと、どうなるのか?ウルズやスクルドの言い方では、ダンジョンの攻略=死のイメージだが、ダンジョンが死んでしまうことに繋がるのか?なんとなく、モヤモヤする。

 もし、そうじゃないのなら、サラトガの領主が”レベル7回復”を持っている理由が説明できそうな気がする。


 さて、このダンジョンもあと半分を切ったくらいだろう。最下層に何が居るのか楽しみにしておこう。


 それにしても、ウミとクリスは遅いな・・・まぁいいか、アイツらの事だ、勝手に布団に入ってくるだろう。

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