第三章 潜入

第三十一話

 そうか、ヌラの作った布は、レベル7100万円相当なのか?

 そりゃぁ確かに、気楽に、他人に渡していいものではないな。スキルを固定化した、魔核や武器/防具/道具は、なんとなく、ロロットやヘルズとの話でわかったが、少しだけ自重しようとは思うが、生活が便利になるものだからな。


 レベル3100円レベル41,000円なら問題は少ないだろう。”高い”と言っても、全く見つからないわけじゃないだろうからな。今の所作る事ができるのが、”俺だけ”が、問題になっているのだろう。


 アルベルタからの報告を聞いて、認識のズレがあった事を実感した。


 料理も、それほど凝った物は”まだ”作っていない。焼いただけ、煮込んだだけ、素材の味を優先して作らせた。

 胡椒が、高いだろう事は予想していたが、蜂蜜も、高いのか?蜂蜜なんて、ビーナを、飼育すれば、勝手に集めてくれるし、必要以上に集めた分をもらう様にすれば、問題も少ないだろう。

 スキルなんて便利な物が、ある世界なのだから、なんとかできないのか?


「カイ」

『はい』

「魔核は、常に手に入らないよな?」

『はい』

「魔物は、必ず魔核が有るのだよな?」

『はい』

「うーん。またわからなくなった」

『どうされたのですか?』


 魔物と、魔物以外の区別は、魔核を持っているかどうかだと・・・。いいや、明日、ピム殿たちに聞いてみればわかる事だろう。


「うーん。人族と獣人族は、身体の作りが違うくらいだよな?でも、魔物には魔核がある」

『はい』

「でも、人族も魔物も、スキルを使う事ができる」

『はい。魔力がありますからね』

「そうなんだよな。なんで、人族には、魔核が無いのに、魔力があって、スキルを使う事ができる。その上、固定化する事もできる。魔物ほど安易にする事が、できないようだが・・・」


 実は、いろいろな実験で、わかってきたことがある。

 スキルを、魔核に固定化して、それを、魔物に埋め込むと、スキルが、固定化して、スキルを使うことができる。種族的に、進化する事もある。


 隷属化は、聞いていた通り、かけた本人が、主人になる。その後、主人が隷属化を解除しない限り、隷属状態が、永続的に続くことが、考えられる。実際に、時間経過とともに、隷属化が解けるのかは、わからない。”主人なし”の状態は、隷属化のときに、主人設定を行わなければ、できる事が判明した。

 ”主人なし”状態の、禁則事項は、基本何もない状態だという事もわかった。”主人なし”状態から、”主人”設定を行うのには、スキルカードが必要になる。したがって、”主人なし”にしておくメリットはない。運用を考えれば、何かしらの禁則事項を、設定できなければ、意味がない。

 魔物には、隷属化は効かない事がわかった。主人が死んだ場合にも、”主人なし”になるが、禁則事項が生きた状態になる事もわかった。


 隷属化のスキルのメリットは、念話に似た事が、主人から一方的に送りつける事ができる。通信距離などはわからないが、ある程度なら届きそうな感じがする。そして、スキル使用時に使う魔力によって付与できる禁則事項が違ってくる。スキルカードのレベルでも違うようだ。


 禁則事項を破った時の、罰にも大きな違いは無い。

 基本的には、頭に痛みが出る。呼吸が苦しくなる(肺か心臓へのダメージだろう)。変わった物では、”決められた場所に、痣が出る”なんて物もあるようだ。


 これらの事が、クズどもを使った実験でわかった事だ。


 こう考えると”隷属化”って穴だらけのスキルの様に思えてくる。

 隷属化された者同士が、結託して、交換殺人を行う事ができてしまう。禁則事項には、主人への”反抗”や”暴力”の禁止は、あるが、他の人族への禁則事項は存在しない。それから、”喋らせない”と、言ったような禁則事項は、設定できない。スキルの利用禁止や移動の制限(主人から、離れてはいけないとか、逆に、主人に必要以上近づいてはいけない)とかだ、あと、隷属化は複数行う事ができる。矛盾しているような場合には、スキルとレベルに依存しているように思える。


 スーンがこれらの事を、ライから聞いてまとめている。


「大主」

「あぁスーンか?」


 膝の上では、カイとウミが寝ている。ライは、足元で寝ているようだ。


「大主。お考えの所、申し訳ありません。ゼーロ殿から、居住区から、ダンジョンに繋がる通路が、完成したと連絡が入りました」

「はやいな」

「それで、僭越ながら、大主のお住まいとの間を塞ぎまして、新たに作った待機部屋から、繋がるようにいたしました」

「あぁそれでいいよ」

「ログハウスへの道も、待機部屋に、繋げさせていただきました」

「え?あぁそうだな。その方がいいな」

「はい。それで、ゼーロ殿やヌラ殿、ヌル殿が、待機部屋に居を移すことにし、進化後のエントとドリュアスを交代で待機させる事になりました」

「そうか、わかった。負担にはなっていないのだよな?」

「はい。大丈夫です」

「それならいい。獣人たちへの、公開はどうする?」

「いつでも大丈夫かと思います」

「任せていいか?」

「はい」

「それでは、スーンの都合がいいときに、施設の説明をあわせて、ダンジョンを公開してくれ、あぁ控えの間には誰かが張り付くよな?」

「もちろんです」

「無理しないようにと、何階層まで進んだのかを報告するようにしてくれ、できれば、魔蟲の誰かが、付いていくようにしておいてくれ、安全面という意味でな」

「かしこまりました」


 スーンが、一礼して部屋から出ていった。

 俺も、明日に備えて今日は、寝てしまおう。


/*** ヨーン=エーリック Side ***/


 カズト・ツクモ様の庇護下に入って、数日が経つ。

 アルベルタさんが、族長たちに、中央会議室に集まるように、伝達をしてきました。ここに、住み始めて初めてのことだ。白狼族の居住場所は、一番外側に決まった。移動に時間がかかるが、居住区を守る種族の1つに任命されたことは、単純に嬉しい。当初、外部に繋がる門は、三ヶ所の予定だったが、皆で話し合って、1つにしてもらった、人員的な事もあるが、アルベルタさんから、ダンジョンが公開されれば、わざわざ外の魔物や森のめぐみを、取ってくる必要は、少なくなると言われたからだ。

 どのみち、居住区を仕切る境界になっている石壁は、5km以上もあり、今の種族だけでは、対応ができない。それに石壁は、今でも作られていて、既に高さが10m近くになっている。その上を、ツクモ様の眷属の、ビーナや、スパイダーが、警戒にあたっている。エントたちが、等間隔で、並んで監視を、行っている。


 中央会議室に入ると、既に、獅子族と黒豹族が来ていた。

 これも、皆で決めて、この会議や、中央部分は、兎族が管理する事になった。


「そう言えば、ヘイズ。獅子族の族長を、引き受けるのだな」

「あぁ他になり手が居ないもの事実だが、俺が代理を勤めていたのを、残った長老が認めてくれた」

「そうか、それはおめでとう」

「ありがとう。前なら、もっと喜んだのだがな」

「そうだな。でも、これから、生き方が、変わるからな」


 熊族のロータルが、息子のテイセンを連れてきた。熊族は、珍しく、族長は、同じ名前を引き継いでいる。彼らは、”襲名”と言っていた。

 後ろから、アルベルタさんが、続いて入ってきた


「熊族?」

「あぁすまん。会議の前に、アルベルタさん。いや、違うな、ツクモ様に、族長交代のご許可をいただきに行っていた」

「そうか?それで?」

「息子が、”ロータル=ファン・メーフェル”を継ぐことになった。儂は、隠居して、”ロータル=リーロプ”に戻る」

「そうか、息子殿が、熊族の族長になるのだな」


 ヘルズが、確認をした。

 両者が、うなずく。


「ツクモ様は?」

「本日は、お会いできなかったが、後日襲名の義を、開いてくださると、おっしゃってくれた」

「アルベルタさん。獅子族や、他の種族でも構わないか?」

「えぇ大主様からは、族長とは顔つなぎを、したいから襲名式を、執り行うとおっしゃっていました。ただ、あまりにもバラバラだと時間が難しいから、ある程度まとめてくれると嬉しい、ともおっしゃっていました」


 そう言われれば、当然の事だな。

 今回は、族長が変わる種族が多いから、余計にそう考えてしまうのだろう。


「他の種族が、集まってからだと思ったが・・・。今回、族長が変わったり、新たに襲名する種族を、まとめて、ツクモ様にまとめてお目通りをお願いする方が、いいのではないか?」

「あぁそうだな。儂もそれでいいと思う」


 俺もそれでいいと思う。

 襲名の義は、種族ごとに異なっているが、やることは同じだ。今までは、長老衆の前で名乗りをあげて居たのが、ツクモ様に変わるだけだ。長老衆も、列席してもらえば問題は少ないだろう。


 族長が全員集まった。

 兎族が、皆の前に、飲み物を置いていく。こういう会議での発言権を、兎族は放棄した代わりに、中央での仕事を、兎族が専任する事が、決まってる。


「皆様お揃いですね」


 皆が、うなずく。

 アルベルタさんは、一呼吸入れてから


「お待たせいたしました。大主様からのご許可が、出まして、ダンジョンを、公開いたします。いくつか守っていただきたい事が、ありますので、それらの説明を、行いたいと思います」


 おぉぉぉ!!ダンジョンに、無条件に入る事が、できる。

 これは、獣人族が、今までできなかった事だ。ダンジョンの豊かな恵みを、享受できるのは大きい。守ってもらいたい事と、言っているが、スキルカードや魔物の素材を、納めろと言われても構わない。人族のダンジョンだと、獣人族なら、9割を納めろと言われていた過去がある。それほど、深く付き合ったわけではないが、ツクモ様なら、そんな理不尽な事は言わないだろう。


 アルベルタさんは、粛々と説明をしている。


・ダンジョンに入るのは、成人してからとする。ただし、族長の許可がある場合には、例外とするが、子供1人に対して、大人1人がついていく事

・5階層からの草原では、農園や畜産を行っている。農園の管理を、獣人族に依頼したい。農園と畜産は、ツクモ様も利用するので、取り決めは後日

・行きに転移門を使う時には、控えの間で待ってもらって、順番にドリュアスかエントが案内する。ダンジョン内では、魔蟲が数匹伴う

・ダンジョンから帰ったら、必ず風呂に入って身体を清める事

・食べられない魔物もできる限り持って帰ってくる事。中央にあるダンジョンの入口近くの、エントかドリュアスに渡す事


 質問は、ダンジョンに入ってから、再度集まってしてもらう事になった。

 武器や防具は、人族が使っていた物があるので、その中から選んで欲しいと、言われた。身体のサイズ的に、合わないので、武器だけ選ぶ事になった。防具は、後日狐族が、作る事になった。


 中央にある、ダンジョンに、繋がる通路を通って、ダンジョンに入る。

 今日は、族長だけだが、戦闘主体の者も多い。低階層なら、遅れを取ることは無いだろう。


 5階層まですんなり進む事ができた。今日は、探索をしないで、進む事を、優先させた結果だ。

 階層を、降りるたびに、スキルを得ている。それも、レベル2か3の物だ。これは、このダンジョン特有の物なのだろうか?俺は聞いた事がない。


 アルベルタさんは、”初踏破ボーナス”と言っていた。

 5階層の草原に出ると、柵で囲われた、畑が、目に入ってきた。ダンジョンの中で、畑を、作っていると聞かされていたが、こんなに大きな、それも多種多様な物を、栽培しているとは、思わなかった。

 ここを、俺たちに?草原は、10階層まで続いているので、十分な場所の確保ができると、説明された。

 また、草原ステージと言っても、林程度に、木が生茂っている場所も、あるので、材木が必要になったら、自由に伐採してよいと言われた。


 その後、階層主と戦って、転移門で戻った。

 戻った転移門から、再度6階層に移動して、ダンジョンの説明は終わると、言われた。そして、転移門で、帰ってきたときに、何階層から戻ってきたのか、申告してほしいと言われた。攻略具合を、確認したいとのことだ。


 風呂で、身を清めてから、兎族が用意してくれた、新しい服に着替えてから、会議室に向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る