第二十六話

/*** スーン Side ***/


 大主様が、明後日にはご帰還なさる。

 獣人族を、1,274名引き連れてくるようだ。カイ様やライ様から、お聞きした所では、スキルカードや武装をかなりの数、確保されたようだ。


 武装に関しては、大主様しか使わないのだが、人族の作る物の研究になるだろう。


 当初、カイ様とウミ様が来られた時には、反抗的な態度を取って、ボコボコにされたのが懐かしい。”人族カズト・ツクモに仕えないか?”と言われて、頭に来たのだが、エルダー・エントの我を軽く吹き飛ばす、カイ様と、スキルを使いこなすウミ様に、我の眷属であるエントやドリュアスが何もできなかった。

 一方的にやられていたが、一体も倒される事がなかった。カイ様にその事を尋ねたら

『主様から、”無闇に殺すな”と言われている。それに、お前たちは、主様の役に立つ』


 負けた我らなぞ、吸収されて、よくて素材になる道しか残されていないと思っていた。

 ”役に立て”と言われた。その後、大主様の眷属でもいいとは言われたが、我らごときに、大主様の眷属の枠を使わせるわけには行かないと思い。ライ様の眷属になる事にしていただいた。


 それから、カイ様とウミ様とライ様と同僚のヌラ殿、ゼーロ殿、ヌル殿と話をした。

 樹木由来のエントは、ヒト型でいるよりも、樹木でいる状態の方が能力が発揮できる。ドリュアスは、草や花由来であり、ヒト型でも能力を十全に使う事ができる。我らエント/ドリュアスの種族スキルで、ヒト型になれる事もあり、われが、大主様の執事を行う事になった。眷属のドリュアスは、メイドになる事になった。我の知識の中にあった、人族の執事やメイドの様式を取り入れた形にした。

 我の知識に有ったのは、メイドで大事な仕事は、お風呂の世話や下の世話をして、閨を共にする事だったが、大主様は、”それ”は頑なに拒否された。


 役割分担として、エントは大主様の仮のお住まいになる”ログハウス”を守る。ドリュアスたちは、メイド姿で、大主様や、カイ様、ウミ様、ライ様のお世話をする。我が、その統括を行う事になる。大主様からは、いろいろと教えていただいた。”計算”が我たちを驚愕させた。大主様は、数の把握がとてつもなく早かったので、聞いた所、加えていく数え方と引いていく数え方だけではなく、掛け合わせる方法や、分ける方法を教えてくださった。この知識は、人族には無いものだ。


 何度めかの驚愕が、大主様の固有スキルだ。長い年月を生きてきた我でも聞いたことないスキルをお持ちだった。

 眷属化は、スキルカードにあるので知っていた。人族に限らず、魔力に依存して、眷属化できる数が変わってくる事も知っていた。

 固定化と創造のスキルは聞いた事がなかった。大主様も説明が難しいとおっしゃっていたが、実際にやってもらうと、そのデタラメ具合がよくわかった。我ら魔物と呼ばれるものは、魔核を体内に持っている。その魔核に、スキルカードを固定する事ができるのだ。そんなスキル聞いたことがない。また、創造というスキルも、2つのスキルをあわせて、新しいスキルカードにしてしまうようだ。これは、まだ大主様も把握できていないという事だ。


 そして、驚いたのが、”鑑定”のスキルだ。我にも、固有スキルで”鑑定”があるのだが、大主様の鑑定は何かが違うようだ。

 通常の鑑定では、魔核を鑑定した場合には、魔核のレベルがわかる程度だ。魔核に、スキルが付いていると、そのスキルがわかる。上級な鑑定で、何の魔核なのかが解ったり、スキルの利用回数が解ったりする。しかし、大主様の鑑定は、スキルスロットなる物がわかるとおっしゃっていた。そのスキルスロットがあれば、スキルが付与できるのだとおっしゃって、何度か実証実験をしてくださった。人族の知識の中に有ったのは、魔核にスキルを付与するのは、できる場合と失敗する場合があり、強い魔物や長く生きた魔物から取り出した魔核の場合には、成功率が高くなるとあった。

 その話を、大主様に伝えたところ、少し考えられて、低位の魔物の代表である。コボルトの魔核をいくつか取り出して、スキルを付与できる物と、できない物に分類された。大主様が付与すると、実証実験にならないからと、火種のスキルを、ドリュアスが付与してみた。大主様が分類した通りになった。


 大主様のスキルがすごい事はわかったが、知識がアンバランスな御様子。

 その知識を埋めるのが、我の役目だと判断した。


 その大主様が、獣人族の救出をお命じになった。

 大主様の”ログハウス”近くではなく、岩山の下に住まわす事や、ダンジョン探索に使われるという方針を出された。この方針は、我らも賛成だ。


 今日中に、新しく来る事になっている、獣人族が過ごせる場所の確保を行う。

 今の所の人数は、合計で1,400名程度だが、森の中に逃げている獣人も確認している。それらが合流して、交配して子供が増えても大丈夫なように、多少広めに場所を確保する事にする。


 幸いな事に、獣人族の族長と族長代理が、救出には向かわないで、残っているので、話を聞くことができる。


 獣人族は、種族ごとにまとまって生活する事になるようだ。区分けは、曖昧でも問題ないと言っていたので、人族の知識にあるような”街”を作る事にした。


 ブリット殿が、街の中央に部族の代表が集まれる場所があると嬉しいといい出した。


「スーン殿。集落の中央に、種族の代表が集まれる場所があると嬉しいのだが?」

「なぜですか?」

「ツクモ様は、これから、多くの獣人族を束ねると思われます」

「そうですね」

「そのときに、獣人族と言っても、種族によって考え方や習慣が違う所があります」

「そうなのですか?」

「はい。そのときに、いちいち、スーン殿や、ツクモ様に、陳情していては、ダメだと思っています。ですから、代表によるある程度の運営を行いたいと考えております」

「そうですね。確かに、それは一考する価値がありそうですね」


 そう言えば、人族もそうやって同じ人族を支配していると聞きました。

 この場合だと、大主様は、獣人族全員を支配されるのに、少数の代表を支配されればいい事になる。我らの監視も楽になるというものだ。


 しかし、中央というのは少し問題がありそうですね。


 大主様は、獣人族にダンジョンを解放されるようですし、いろいろカモフラージュができるかも知れませんね。


「わかりました。ただ、中央ではなく、岩山に隣接するように作る事にしましょう。そこに、食料の備蓄倉庫や獣人族のみなさんで使う施設を作る事にしましょう。そこから、この様に広がるように街を作っていくことにしましょう」


 ”ログハウス”を作るときに、大主様に言われたもう一つの街の形で作る事にした。

 岩山に隣接するように、集会場や入浴施設、備蓄倉庫を建築する。その周りに、種族代表が住まう場所を作成する。ダンジョンへの入り口も作成しましょう。これは、ゼーロ殿に依頼して、アントに岩山から、続く通路を作成してもらえばいい。

 転移門だけが問題になりそうなので、そこは、大主様がお帰りになってから、ご相談させてもらう事にしましょう。


 これらの説明を行った。

 ブリット殿も、ロータル殿も、問題ないはなさそうだと言っている。


 人族への警戒や、ブルーフォレストの魔物を警戒して、外周部には、戦闘に秀でた種族が住み。内側には、戦闘に向かない種族が住む事になった。戦闘に向かない種族でも、食物の加工や、服飾や、武器・防具の作成に秀でた者たちも居るので、外側を戦闘、内側を生産とした。

 農業を行っていた部族もあるそうで、畑を作りたいということだったが、大主様の計画では、畑はダンジョンの階層を使う事になっているので、保留とした。


 水路や水場も作る。同時に、大主様は、下水道と呼んでいたが、汚物を流す地下水路も作成した。

 集会場近くに向けて、徐々に下りになるように、斜めにしていく。そのまま、ダンジョンの中まで通路を作る。1回層に、溜池を作って、そこに流し込む。ここには、ダンジョンのスライムを放り込んでおく、これで処理は完了となる。ダンジョンに流れ込んだ、汚物がスライムに処理されてから、どうなるのかはわからないが、スライムが増えてしまったら、倒して吸収してもさせてもらえばいい。


 ブリット殿とロータル殿に、居住区の説明を行う。

 そんな事をしていると、奴隷商人に捕えられていた、獣人族が我の眷属たちに連れられてやってきた。


 獣人族の事は、獣人族に任せることにした。

 ダンジョンに入るための建物だけは、我らが管理する事にした。まだ、獣人族には、ダンジョンの事は教えていない。岩山を登る外階段だけは作っておくことにする。


 もう一組の、ピム殿たちも、明日には到着されるだろう。


 さて一番たいせな作業を、ドリュアスたち行いましょう。大主様の部屋の掃除を行いますか。

 その後、大主様に恥をかかせないためにも、ダンジョンに潜って、魔物の肉を確保しておきましょう。


 本当に、大主様からの新しい知識を得られて、楽しい日々を過ごさせてもらって、種族で安全に過ごせる場所。

 その上、餌にも困らない環境を提供してくださる。


 我も、エルダー・エントから先に進化できるとは思っていなかった。


 イリーガル・ナレッジ・エルダー・エント。我の種族だ。


/*** ??? Side ***/


 ブルーフォレストに向かわせた者たちからの定期連絡が途絶えてから、3日が経つ。


 帰還予定までには、30日程度ある。

 教会の豚の多くが、遠征隊に、寄生してくれているのがせめてもの救いだ。今回は、主だった者たちまで一緒に行っている。何かあったら、教会と奴隷商人の暴走で片付けられるようにしたい。


 それでなくても、教会連中と一部の者たちの暴走で、ミュルダの異端認定を出した街となってしまった。俺は了承していないと言ってもダメだろう。もう、物事が動き出してしまっている。

 喜んでいるのは、教会連中と、一部の商人だけだ。


 ミュルダから買っていた、食物が入らなくなって、街の特産の”薪”もミュルダに売れなくなってしまった。

 わざわざ、大回りして、サラトガにまで売りに行かなければならない。食物に関しては、深刻だ。今はまだ、涼しい気候なので大丈夫だが、これから、気温も上がってくる。そうなったら、サラトガから運んでくる事ができる食物の種類が限られてしまう。


 狂信者共は、それまでにミュルダを滅ぼして、獣人族を滅ぼしてしまえば、食料も奪えると言ってきた。

 そんな事をして、ミュルダが滅んでしまえば、この街が立ち行かなくなるとなぜわからない。狂信者共は、自分の手足を食べて、生活できるのだと思っているのか?


 何度話をしても、”神が救ってくださる”。議論にさえならない。都合が悪くなると、思考停止しやがる。

 今まで、神が救ってくれたか?狂信者どもには、わからないようだ。神に、祈っていれば、どこからか、食料が湧いて出てくるらしい。


 ふざけるな。それに、奴隷の問題もある。

 街中で、獣人族の奴隷を、狂信者共が殺しまくっている。俺も、獣人族は嫌いだ。嫌いだが、利用しないと立ち行かなくなっているのも事実だ。自分たちで殺しておきながら、新しい奴隷を補充するために、ブルーフォレストに向かうから”兵”を貸せと言ってきた。断れば、勝手に、兵を先導して出かけようとした。

 慌てて、編成を行って、狂信者や狂信者に近い連中を選抜して、送り出す事に成功した。それでも、街の防御を担っていた連中の、半分近くを持っていかれた。兵1人を成長させるのに、スキルカードがどの程度必要になるか、考えたことが無いのだろう。定期連絡の約束をさせて、三日前までは、連絡が届いていた。


「領主様」

「なんだ?」

「職人街の代表の方が、面会を求めていらっしゃっています」

「要求は?」

「いつものことだと思われます」

「まぁいい。会おう、いつもの部屋に通しておいてくれ」

「かしこまりました」


 奴隷の話になる事は解っている。狂信者どもめ。自分たちの正義を疑わない奴らほど面倒だ。


 会議ができる部屋に通すように言ってある。

 最初は、領主の部屋に通したのだが、二時間も三時間も居座られてしまった。


 部屋に入るなり、職人街をまとめている男が立ち上がって怒鳴ってくる


「領主!」

「まぁ座られよ」

「どうなっておる!」

「”どう”とは?」

「いつになったら、儂の弟子たちを殺した奴らを捕らえるのだ!」


 代表の弟子は、獣人族だ。奴隷ではない、れっきとしたアンクラムの住人だ。殺した奴はわかっている。正確には、殺した団体はわかっているのだ。しっかり、”浄化”と書かれたカードが置かれていた。こんな馬鹿な事をするのは、教会の連中しかありえない。


「わかってる」

「だから、”いつ”儂に、教えてくれる!」


 代表もわかっている。狂信者が弟子を殺した事は、でも、教会に直接言ってしまえば、全てが終わるくらいの分別ができているのだろう。俺に文句を言うことで、ガス抜きをしているのだろう。


「そうだな。明確に、いつとは言えないが、絞り込んでいる」

「そうか、それならいい。それと」


 珍しく、弟子以外の事でなにかあるのか?

 もしかしたら、こっちが本命なのか?


「これは、儂もだが、儂以外の者からの意見と思ってくれ」


 歯切れが悪い。

 代表らしくない。


 頷いて答える。


「職人区で使う、資材が無くなってきている。商人に問い合わせても、次にいつ資材が入れられるかわからないと言われた。それに、酒はこの際しょうがないとしても、食料も無くなってきている。いや、違うな、今まで、レベル3一枚で買えていたパンが、3枚ないと買えなくなっている。パン屋に聞けば、これでもギリギリだと言われた、領主よ、なんとかならないのか?」


 本命は、食糧問題か・・・。頭がいたい問題であることには間違いない。


「わかっておる。今、商人を他の街に行かせた所だ」

「そうか、わかった。期待しておる。街の中には、いろいろな憶測が出ておる。領主も大変だと思うが、儂らにも情報を出してくれ」


 代表も、事情が解っているのだろう。


---

 それから、一週間。

 ブルーフォレストに向かわせた連中からの連絡が入らない。入らない事を不審に思った領主が、冒険者パーティーを雇い入れて、ブルーフォレストに向かわせた。


 凶報が届くのは、それから5日後のことだ。

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