第六話
足のしびれが気になって起きてしまった。
スカーフで作った掛け布団を取ると、カイは俺の横で丸まっている。ライは、寝ているのかわからないが、カイの側でじっとしている。問題は、ウミだ。ウミは、俺の足・・・腿に捕まるようにして寝ている。安心しているのだろう事は解るが、一晩中その体制だったとしたら、足がしびれていても不思議ではない。軽く爪も食い込んで、微妙に痛い。
ウミを起こして、カイとライも起こす。
『カズト様。今日は?』
「あぁご飯を食べたら、新しくできていた場所を確認しようと思う。ゴブリンの残党がいるかも知れないからな」
『わかりました』『アタシたちも行っていいの?』
「あぁみんなで行こう」
果物で腹を満たして、伸びている通路に向かう事にした。
やはり、通路は、カイもウミも知らない様だ。
通路は、それほど狭くは無いが広くも無い。大人が、二人並んで歩けるくらいの広さにはなっている。最初は、カイが先頭を歩いていたが、ライと一緒に、俺の後ろから歩いてもらう事にした。
ウミは、安定の俺の肩に乗っている。それほど重くも無いので別に問題は無いのだが、カイと何か言い争うのだけは辞めて欲しい。
それに、カイやライも、攻撃手段が無いのに、俺の前を歩いて、万が一に備えなくていい。後ろでも、警戒だけしておいてくれれば十分だ。俺も、無理に戦おうなんて思わない。やばかったら逃げる事にしている。
30分ほど歩いたが、終着点が見えない。
軽く下ったかと思うと、上ったりしている。方向的には、一直線の様な気がしているが、歩いてきた方向に、石を投げると、壁にあたる事から、軽く曲がっているのだろう。城下町に見られる作りで、北に進んでいたかと思うと、西や東に誘導されている。それと同じ様な作りになっているのかもしれない。自然とできるようなものではないと思うが、わからない。
1時間程度歩いて、一度休憩する事にした。
ゆっくり確認しながら歩いたので、2kmくらいだろうか?
それにしても、入り口から2kmも歩いて、歩くのに不便が無いくらいに明るいのには違和感しかない。松明代わりに、剣に付与した火種で照らしながら歩こうかと思ったが必要なかった。
「カイ。ライ。どう思う?」
『アタシには聞いてくれないの?』
「ウミ。起きたのなら、降りて自分で歩けよ」
『おやすみなさい』
ウミは、肩から降りる気がないようだ。
『ダンジョンに気配が似ています。ライも同じ意見の様です』
「やはり・・・か」
なんとなく、予感めいた物があった。
洞窟がダンジョンに繋がったのか、新しくダンジョンができたのかはわからないが、洞窟にしては、通路が綺麗になっているし、歩きやすい。それに、幅や高さが一定なのも気になっていた。
雰囲気が変わったのは、それからすぐのことだった。
「カイ!ライ!」
『ウミ!』
カイが、俺の肩に乗っていた、ウミを下ろす。
「カイ。どうだ?」
『間違いありません。ダンジョンになっています。20m先に、ゴブリンが3体います』
「わかった」
3体ならなんとかなるか?
「カイ。距離をカウントダウンしてくれ」
『わかりました。距離15・・・10・・・5』
眼の前に、緑の皮膚を持った、1m程度の生き物が3体見える。こちらに気がついた様子はない。一気に行ける。
「カイ。ウミ。ライ。右側の一体頼めるか?」
『はい』『まかせて!』
中央の一体に狙いを付けて、剣を振り下ろす。肉を切る嫌な感触を手に感じながら、倒れていく、ゴブリンを目の端に捉える。左側のゴブリンが、棍棒を振り上げて襲ってくるのを、胴体に蹴りを入れて、距離をとる。
一息入れてから、剣を構えて、もう一体のゴブリンの腕を落とす。武器が無くなった、ゴブリンの首に剣を突き刺して、ダンジョンの壁に押し付ける。手足が動かなくなった事を確認して、剣を抜く。
カイたちに翻弄されていたゴブリンは、顔をライに覆われて溶かされている。
えげつない絵面になっているが、もうすぐ決着が付きそうだ。
『カズト様。ライが、吸収していいのかを聞いています』
「あぁ任せる。そうだ、カイ。ダンジョンで倒した魔物は、ダンジョンが吸収しないのか?」
『いえ?その様な話しは聞いた事はありません。倒された魔物は、別の魔物が食べたり、魔力を吸収されて放置されるかです。最終的には、スライムや魔蟲が消化します』
「へぇそうか・・・それなら、ライが吸収できるのなら、そのほうがいいな。カイとウミも魔力が必要なら吸収していいからな」
『ありがとうございます』『ありがとう!』
死骸に、カイとウミとライが群がる。
倒されたゴブリンの足元に、カードの様な物が転がっている。レベル2と書かれたカードが一枚と、レベル1と書かれたカードが2枚だ。
内容は、見られないような状況になっている。
取り込まないとわからないのか・・・。3枚のカードを、手の甲に立てるようにして、押し込む。
吸い込まれるように、カードが消えていく。
// レベル1:微風×2
// レベル2:炎×1
微妙に使い道に困りそうな物だな。
火種で十分に役立っているし、微風って何に使えるのだろう。レベル1と2ならこんな物か・・・。
スキルカードの取り込みをして、いる間に、食べ盛りは、ゴブリンを綺麗に消化していた。
『カズト様。棍棒や防具は、ライが持っています』
「わかった。ライ。ありがとう。拠点に戻ったら、確認する」
”わかった”と、いいたいのだろうか、スライムボディをポヨンポヨンさせている。
さて、ゴブリン程度なら、油断したり、不意打ちをくらわない限り倒せそうだ。戦力的に、乏しいので、あまり深い入はしたくない。
安全マージンをとって行動をしたいが、安全マージンをとるのが難しいのも事実だ。洞窟にとどまって、出てきた者だけを狩っているのでもいいかと思うが、(あるかわからないが)スタンピードが発生したときに、逃げる事ができなくなってしまうかもしれない。
スキルカードは、魔物を倒しながら得るしか無いようだし、知識チートをするためにも、最初にある程度のスキルカードは必要になるだろう。
死なないためにも、戦うしか無いのだろうな。カイやウミやライの食事の為にも頑張るか!
もう少しだけ奥に入ってみるか・・・。
/***** ??? Side *****/
「連絡感謝する。ミュルダ老にも、そう伝えて欲しい」
「ありがとうございます。領主ミュルダも、何か動くのなら、ご一報いただければ人員をさくと言っております。ご考慮いただければ幸いです」
30代なかばくらいの男性が、うなずきながら何かを考えている。
「サイレントヒルの光柱は、こちらでも確認している。協議はしているが、何か動く事は考えていない」
「そうですか、わかりました」
男性は、明らかに落胆した雰囲気を出しながら、うなずくしか無いようだ。
「そうだ。使者殿。ミュルダ老の、ご子息のご病気は大丈夫か?」
「・・・わかりかねます。申し訳ありません」
「そうか、ミュルダ老も、心を痛めているのだろう。私個人として何かできる事があれば、遠慮なくご連絡下さい」
「領主ミュルダに変わってお礼申し上げます」
「いやいや。ダンジョン・アタックをするのなら、言っていただければ、許可いたします」
「いたみいります。領主ミュルダに、サラトガ様のお言葉をお伝えいたします」
雑談を交わすことなく、使者の男は立ち上がって、一礼して部屋から出た。
「いるだろう?」
「御前に」
「あいつのスキルは?」
「速駆を持っております」
「そうか、それだと後をつけるのは難しいか?」
「申し訳ありません」
「いや、いい。それよりも、ミュルダの老害・・・奴の街から、来た奴らが、ブルーフォレストに向かったのは間違いないのだな」
「はい。間違いありません」
「そうか、その情報は、老人には伝わっているのか?」
「わかりかねます」
「わかった、街を出るまで監視しろ」
「はい」
/***** ??? Side *****/
強欲が、あいつが、ダンジョンの所有を宣言するだけではなく・・・くそぉ!
サラトガが、レベル7回復を持っているのは解っている。ミュルダ様が、レベル8とのトレードを申し出ても断っておきながら、何を今さら言っているのだ。
監視が付いているが、気にしてもしょうがないのだろうな。
どうする?
ブルーフォレストに向かうか?
ミュルダに戻って報告してから、次の指示を仰ごう。
アイツが、ここに来たのは間違いないようだし、ミュルダに戻ってきていない事から、アイツの事だから、ブルーフォレストに向かったのだろう。
必ず手に入るとは思えないが、レベル7や8のスキルカードを入手できれば、回復のカードとのトレードの可能性が出てくる。
使者は、街を出ると、スキルを発動して、走り去った。
見守る影が2つ。
使者が走り去った方角を確認してから、別々の方向に消えていった。
/***** カズト・ツクモ Side *****/
よし。もう少し進もう。
体力的にも大丈夫だろう。
一本道では無くなってきた。魔物も、ゴブリンだけではなく、コボルトや、魔蟲なのか、蜘蛛や黒い奴も出てきた。蟲は、ライが嬉々?として消化しているし、ゴブリンとコボルトは、俺とライとウミで簡単に倒せるようだ。
何度か、攻撃を受けたがダメージらしいダメージはない。ダメージは無いのだが、倒すときの体液のほうが辛い。それは、カイとウミも同じ様だ。
スキルカードも何枚か集まったが、高い物でも、レベル3でしかない。
物価的な事がわからないが、生活する為には、スキルカードはもっと必要なのだろうな。
余裕だったとはいえ、疲労は溜まっていく、拠点に戻るにしろ、セーフエリアで休むにしろ、考える必要が出てきそうだな。
カイたちは、余裕が見られる。もっとも、ウミは殆どが俺の肩の上にいる。ライは、よくわからない。俺の基準としては、カイになっているが、俺よりも疲れていないように見える。
洞窟が続いている。ゴブリンやコボルトや、蟲はいるが、”ダンジョン”という感じは全くしない。
それから、3回の戦闘が終わった。
下に降りる階段が見つかる。
『カズト様。どうされますか?』
「そうだな。降りてみるか」
カイが先導して階段を降りていく。
階段を降りきったときに、
『1階層を踏破しました』
おい!
「スクルド!どういうつもりだ!」
『え?』
「声を聞けばわかる。スクルド!」
『(っち客人は感が鋭い)なんのことでしょう』
「お前舌打ちしたよな?それでどういうつもりだ?」
『はぁ・・・本来は、こんな神託は必要ないけど、客人に伝え忘れたことがある(それに、このダンジョン少し普通と違うからな)』
「おい」
『まぁ一般的な話からするか・・・。ダンジョンは、階層を降りたときに、ボーナスが入る』
「ボーナス?」
『スキルが何かもらえるはずだ。初めて階層を踏破した者には、特別にいいものを、その人物が初めて踏破した時には、普通の物を渡す事になっている』
「そうか、それを教えに?」
『あと、ダンジョンは、階層を降りた場所まで、転移できる”転移門”が有るのだけど、このダンジョンには、転移門がなかっただろう?』
「そうなのか?」
『そうだよ。それで、転移門を作るのだけど、どこがいいか聞いておこうと思ってね』
「え?あっそうなのか?」
『入り口でいい?それとも、君たちが、ねぐらにしようとしている場所に作っておく?』
「何箇所かに作れるのか?それから、ダンジョンの入り口を他にも作れるのか?」
『え?客人は面白い事を考えるな。・・・入り口を作る事はできないけど、転移門はできるよ?』
「そうか、それなら、俺たちがねぐらにしようとした場所に作ってくれ」
『一箇所でいいの?』
「あぁ入り口が別に作れるのなら、そっちにも配置してほしかったけど、できないのなら、必要ない」
『了解。それじゃ、一つはスキルカードにして、客人に渡しておくよ』
「それなら、二箇所ともスキルカードでくれ。そのほうが設置場所が選べる」
『そうだな。いいだろう。これから、客人には楽しませてもらえそうだからな』
スクルドの声が聞こえなくなった。
気配も無くなったから、神託というのも終わったのだろう。
改めて、2階層を見回すと、今までの洞窟と違って、”ダンジョン”という名前に相応しい雰囲気が漂っている。
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