今日のミツ

@nozeki

第1話

うわぁ、人がいっぱいいる気配がするよ。緊張して来ちゃった。

おじさん、ボク大丈夫かな。

「大丈夫だ。さあ行くよ」

おじさんはボクを引いて扉をくぐる。

そこはまぶしい場所だった。


たくさんの人がいて、いろんなところから声がかかる。

去年も経験してるし練習もして来たんだけど、やっぱり怖いよ。

早く終わってくれないかなあ。

ついついおじさんを引っ張りそうになる。


そうしてるうちに、ボクの後ろでカンと何かが鳴って、おじさんがたくさんの人たちにお礼をしてる。

どうやら終わったみたい。早く帰ろうよ。

お腹も空いて来ちゃったよ。


部屋に戻る途中で、おじさんにおやつをおねだりしたけど、もらえなかった。

もらえるとは思ってなかったけど、おやつぐらいくれてもいいじゃんって思ってた。

それぐらい怖かったんだ。まだドキドキしてるし。

そこに見たことない人達が何人か来て、ボクと写真を撮るって言う。

おじさんは小声で「ポーズ取って」って言うけど、まだ怖かったからすごく変顔になっちゃった。

それからおじさんはボクに「ミツ、売れて良かったなあ」って言ってきた。

え?

ボクまた売られたの!?


ボクはミツって呼ばれてる。2歳だけど立派なサラブレッドの男の子さ。

ボクにはミツオーっていうすごく立派な兄ちゃんがいるらしくて、生まれた牧場じゃいっつも「お兄ちゃんみたいになるんだぞ」って言われて育てられてきた。

お母ちゃんとお別れして、ボクはおじさんのところに売られてきた。

それからは毎日いろんなことを教えられてきた。そこでも「お兄ちゃんみたいになるんだぞ」っておじさんや他の人たちに言われてきた。

おじさんが言うには、ミツオー兄ちゃんはみんな知ってる強い馬だったみたい。

ボクもそうなれるのかな。少し不安になったりもするんだ。


何日かして、引っ越しすることになったみたい。

車に乗って着いたところは、とっても景色のいいところで、育成場って言うんだって。

着いたとたんに、美人のお姉さんとまぶしいおじさんがボクの体をあちこち触ってくる。

ボクは知ってるんだ。こうやってボクに痛いところがないか調べてるんだって。

そうして部屋をもらって、やっと落ち着いた。

みんな同い年の仔ばっかりだって聞いたから、なんだか安心だよ。

早速お向かいにいる体の大きなのが「よろしくなー」って声をかけてくる。

お隣は見えないけど、なんだかいいニオイがするぞ。

もしかして女の子かなあ。

なんだかワクワクしてきたぞ。


まぶしいおじさんたちが言うには、ボクはここで競走馬になる訓練をするみたい。

ただ速く走ればいいのかと思ってたら違ってて、少しびっくりした。

前にいたところでもいっぱい勉強してきたけど、ここでも勉強するんだって。

いろいろ覚えることが多くて大変だぁ……。


でもね。

ここに来たらご飯がおいしいんだよ。

それに、部屋の寝わらだって食べていいって言われたんだ。

ひと口食べてみたらおいしくて、これならおやつに困らないなぁって思った。

それに、窓の外は景色が良くてお気に入りになったんだ。


それにね、もうひとつ。

お世話してくれるお兄さんがとっても優しいんだ。

兄ちゃんみたいになれって言わないし、ご飯の後に遊んでくれる。

お兄さんが勉強も教えてくれるみたいだけど、きっと楽しく教えてくれるんだろうな。

今から楽しみだよ。


こうして、ボクの新しい生活が始まった。

ここで勉強して、いつかミツオー兄ちゃんに追いつけるようになりたいな。

頑張らなくちゃだね。

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