第四話 調査

 原先生からの依頼を聞き終えた所で、丁度、美優先輩と梓先輩が、生徒総会室を訪ねてきた。


 原先生は、先に建築科のサーバが置いてある部屋に移動するという事で、先輩たちに一言断って、部屋から出ていった。


「キミ。また厄介事かい?」

「梓先輩・・・えぇそうです。上地という馬鹿の置き土産です」

「え?上地ってあの、上地か?僕の美優を脅してきた?」

「えぇその上地です」

「あ!建築科のパソコンの設定とか、彼が担当していたわ」

「美優先輩。それを、昨日の段階で思い出してほしかったですよ。そうしたら・・・」

「そうしたら?」

「今日、学校休んで、オヤジに代わりに来てもらいました」

「ハハハ。そりゃぁ災難だったな。でも、もう引き受けたのだろう?」

「えぇ残念な事にね。それに、中途半端な知識でなにかされていると困りますからね」

「キミは、相変わらず辛辣だな。そうだ、ユウキは来るのかい?」

「部活が終わったら来ると思いますよ?」

「わかった、待たせてもらおう。今日、僕は、ユウキに用事だからね」

「珍しいですね。美優先輩は?」

「私?梓の付き添い?」

「美優。僕は、解っているよ。僕から離れたくなったのだろう?僕も同じ気持ちだよ」

「はい。はい。それじゃ後は任せました。ユウキが来たら、建築科に行っていると伝えてください。来なくていいから、ここで待っていると行ってくれると助かります」


 部屋に、先輩たちを残して、Surface GOと、ポケットwifiだけを持って、建築科に向かった。


 サーバが置いてある部屋は、美優先輩から聞いて解っている。

 教員室の隣だと言っていた。


 明かりが付いている部屋ある。部屋まで近づくと、原先生が中で何やら片付けのような事をしていた。


「原先生?」

「あぁ篠崎くん。少し待ってください。今、作業する場所を作りますから」

「いいですよ。それよりも、サーバはどこですか?」


 片付けを待っているほど暇じゃない。

 解っているのなら最初から片付けておいてほしいとさえ思ってしまう。


「こっちにあります」


 市販されているパソコンだ。

 F社の物だ。家庭用のパソコンをサーバとして使っているのか?


 HDDを外付けでつないでいるようだ。

 2TBかな?かなりの容量だけど、ミラーリングなどの設定はされていないようだ。


 ディスプレイやマウス/キーボードもそのままだ。

 さて、大蛇が出てくる予感しかしないけど、しょうがないな。


 スクリーンセイバーが起動している。マウスに反応して、画面が切り替わる。


 あぁダメな奴・・・決定。


 Windows7 Professional が動いていた。


「原先生。これがサーバで間違いないのですよね?」

「あっはい。上地くんが設定した物です」

「使い方のマニュアルなんかありますか?」

「え?ありません。彼が言うには、特殊なOSを使うと、操作に苦労するので、そうならない物を使うのがいいと言っていました」


 ふぅ・・・少し落ち着こう。

 USBを使えなくしている事は評価するが、ログイン画面ではなく、ログイン後の画面になる事や、無条件でアクセスできる権限にしている事が意味がわからない。これでは、流出してくれって言っているような物だ。

 それに、ライセンス違反になっているだろう。


「原先生。このパソ・・・サーバに触れるのは誰ですか?」

「え?」

「管理しているのは、原先生ですか?」

「いえ・・・」

「起動していなかった時には、誰が起動するのですか?」

「気がついた人がいれるようにしています」


 だめだ、根本的な見直しが必要な状況になってきている。

 セキュリティの考え方だけじゃなくて、ライセンスに関しても教えないとダメだろう。でも、おかしい・・・上地が”やめた”あとに、俺が入って、野良パソコンは一掃したはずだ。


「原先生。このサーバなのですが、基本は、上地さんが作ったのでしょうけど、”誰が”ここに設置したのですか?」


 サービスの状況を確認しながら、先生に聞いてみる。


「あぁそう言えば、上地くんの事が合ったときに、村上くんが引き継いだのでした。一時的に、部室に置いて設定をし直すとか言っていました」

「はぁ?いえ、失礼。もしかして、それって、電子科から、パソコンの一斉検査をすると言った時ですか?」

「そうです。そうです」


 逃したな。

 確かに、あの時は、美優先輩の事もあったから、建築科は徹底的に調べたはずだ。オヤジからもそう聞いている。


 一応確認しておくか?

 メッセージアプリで、簡単な事情を伝えて、オヤジに問い合わせを投げておく。


 さて、次は・・・スマホを取り出して、美優先輩に電話する

『美優先輩』

『なに?タクミくん』

『村上ってクズ知っていますか?』

『クズって・・・村上くん?知っているわよ。彼がどうしたの?』

『どんな奴ですか?』

『どんなって言われてもね。梓の方が詳しいと思うから、代わるわね』

『どうした?村上なんて懐かしい名前だな』

『率直に聞きます。村上って、上地と仲が良かったですか?』

『なんだ・・・そういう事か、それならYESだ!上地にパソコンの事や、裏サイトなんかを教えたのは、村上だと、僕は思っている』

『ありがとうございます。徹底的に調べます。先輩方、村上との関係は無いですよね?』

『ないよ。僕も美優もね』

『わかりました。最悪は、刑事事件にまで行くかも知れませんが、いいですか?学校側が許すかも知れませんが、そういうレベルの話ではなくない可能性が高いです』

『わかった』


 電話を切った。

 今見ているフォルダは、このパソコンで共有されている場所だ。

 問題は、見つけたフォルダの1つ、外付けHDDのに入っていた物だ。これは、後回しにしよう。


 共有ファイルの1つは、試験の問題や、過去問や、建築関係の資料なんかが入っている。問題はあるが、内容としての問題はない。

 成績に関するフォルダもあるが、隠し共有になっている。その上で、権限が教師のアカウントにだけ与えられているが、ローカルからのアクセスには制限がされていない。ちなみに、先輩たちの世代の成績も保存されている。


 先生に見せる意味もあるので、試しに、美優先輩の成績評価を、梓先輩に送ってみた。

 5分後、すごい勢いで、サーバルームに、梓先輩と美優先輩が駆け込んできた。


「キミ!これだけなのか?もっとないのか?」

「タクミくん。どうして?なんで?どうやって?ダメだからね!」


「原先生。これが手口です。見ていましたよね?ログを全部調べてみないとわかりませんが、この端末からなら、全部のファイルに触る事ができます。上地や村上が、どう説明したのかわかりませんが、少しでも知識がある人間なら簡単にできます」


 方法は複雑ではない。

 F社のパソコンには、Bluetoothが存在している。俺のスマホを認証して、ファイル転送を行う。持ち出せないように思えるが、そんな事はない。簡単にできる状態になっている。そこまでしないでも、リバースケーブルを持ってきて、直結してもいい。そんな事しなくても、建築科のネットワークにつながっているパソコンからならファイルにアクセスできる。

 これらを全部試して、全部で、成績評価から、提出した文章や、問題/過去問を取り出してみせた。管理者権限を持っていないアカウントでも取り出せる事が確認できた。


 ハッキングでもなんでもない。ただ単に、設定されている、共有フォルダに入ってファイルを持ち出しただけだ。


 オヤジから返事が来た。

 建築科で行われた設定とパソコンの情報が乗っている書類も合わせて送ってくれた。やはり、このF社のパソコンは野良だ。他にもあるかも知れない。上地や村上の置き土産を徹底的に探した。

 全部で、3台のパソコンが帳簿に乗っていない。

 他には、帳簿に乗っていないプリンタも見つかった。


「キミ。それで、僕へのご褒美はまだかい?」

「タクミくん。絶対にダメだからね。本当に怒るよ」


「はい。はい。もうやりませんよ。美優先輩に送ろうとして、間違えただけです。他意はないですよ。本当に!」

「本当に?」

「えぇ本当です。だから、上地がこのパソコンに、どっかの誰かを盗撮した写真や動画を見つけましたが、処理に困って、とりあえず、このパソコンからは削除しましたけど、それでいいですよね?」

「なぁななぁぁなんてことを・・・キミ。バックアップは?バックアップは有るのだろう?いくらだ?いくらで譲ってくれる?」

「タクミくん。バックアップなんてないのよね?もう無いのよね?」

「はい。一応、中身を全部さらいましたが、なさそです。バックアップは、あぁ間違えて、ユウキが今日使っているパソコンに送ってしまいました」

「ユウキだな。わかった。ありがとう。この礼はきっとするからな!」「タクミくんのバカ!」


 二人は、着た時と同じく、嵐のように部屋から出ていった。


「さて、原先生」

「え・・・あっ何でしょう」


 二人の勢いに、びっくりしたのだろうな。学校に居た時には、あんな感じじゃなかったからな。


「まず、手口と言うべき物ではありませんが、方法はおわかりになったと思います」

「そうですね。1年間は、建築科は」

「そうなります。成績表や問題を誰でも見られる状態になっていたという事です。成績表は、個人情報でしょうし、問題が流出していたとしたら、テストの成績があてにならない事になってしまいます。そちらは、先生方で考えてください」

「え?あっそうですね。わかりました。緊急職員会議を行います」

「はい。実は、それ以上の問題があります」


「まだあるのですか?」

「えぇこちらの方が本命です」


 1つの隠し共有になっていたフォルダを開く、2TBのHDDまるまる使っている物だ。


「原先生。問題点の指摘の前に、お聞きしたいのですが、ここで見つかった、パソコン3台とプリンタ1台の予算はどうしたのですか?」

「あぁ上地くんと村上くんが建築科で使うからと申請してきて、生徒会に審議を依頼して、許可された物です」

「このHDDもですか?」

「え?そうだと思います」


 さて、美優先輩でいいよな


『美優先輩!』

『ダメだからね。ユウキ。絶対にダメ。梓も諦めてよ。え?ホテル』

『美優先輩!』

『あっごめん。それで何?』

『先輩方が生徒会のときに、建築科のパソコンを買うからって予算申請が来て、許可した記憶はありますか?』

『え?私は無いかな?ちょっとまって』


(梓。建築科から、パソコンの申請なんて有った?)

(タクミからかい?)

(そう)

(ちょっと変わってくれ)


『キミ。すごいね。ありがとう』

『いえ、報酬の前渡しです。それで、なにか、思い出したのですね』

『あぁ生徒会が許可した物はない。正確には、有ったのだが、僕が却下した。理由が不透明だったし、サーバなら学校の物を使えばいい。プリンターもだ。それが、なぜ建築科で用意する必要がある?そう思ってな』

『ありがとうございます。でも、それじゃ』

『あぁ思い出したのは、この後だ。僕と美優がTVに取り上げられるちょっと前に、建築科にパソコンが導入された』

『ほぉ。もちろん、上地に聞いたのですよね?』

『あぁあの頃は、親切でできるやつだと思っていたからな。そうしたら、奴は、僕たちがTVに出る事によって、報酬が入ってそれで準備してもらったと言っていた』

『ほぉ。怪しいですね』

『あぁ怪しい。僕は、今から、生徒会に行って、書類を確認してみる』

『お願いします。あっそれから、同級生で急に成績が上がったりした人に心当たりはありませんか?』

『・・・・ほとんどの男子だ!』

『ゲームとか急に沢山やりだしたり、そうですね。DS系のゲームですね。とかの人は?』

『・・・・ほとんどの男子だ!』

『パソコン持っていて、急に、MS社のoffice製品を使いだしたり、アドビ社の画像編集製品を使いだしたり、市販の高校生が持つような物ではない製図ツールや3D制作ツールを使いだしたのは?』

『・・・・パソコン持っていた男子全員だ!』

『クズですね』

『すまん』

『いえ、梓先輩が悪いわけではありません。もちろん、美優先輩もですよ』


 さて、先生に説明しましょう。

 長い話になりそうだ。

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