第二話

「その時に、金銭を要求するのか?」

「しないよ。するわけない」

「なんで?」

「え?頼まれたら嬉しいし、僕を必要としてくれているからね」

「そうだろう。ユウキに仕事を頼むときには、その"頼られて嬉しい"と言う気持ちが対価になっている。これは解るよな?」

「うん。なんとなく・・・」

「それじゃ、農家さんが何を対価に、野菜を渡してくれる?」

「タクミ。僕を馬鹿にしすぎているよ。そんなの、お金にきまっている!」

「そうだろう。農家は、お金を対価に、野菜を売ってくれる。それは、"頼られて嬉しい"という気持ちではない。業社で働いている人たちも同じだ!そんな人たちが、1ヶ月以上先輩方のために動くのだよ。自分の生活ややりたい事を削って、安くやらなければならない」

「それくらい分かる。でも、困っている」「いいよ。ユウキ。私たちが甘かった」


 やっと話ができるくらいになってきたようだ


「タクミ君。私たちが、全面的に悪い事は理解出来た。そして、考えが甘かった事も、なんとなくだけど、理解出来た」

「はい」


 ユウキに向けていた視線を、生徒会長に戻した。

 それに気がついて、立ち上がっていたユウキも座り直した。


「タクミ君。その上で、お願いしたい。どうしたらいい。知恵を貸してください。支払える対価があるかわかりませんが、私たちでできる事なら、なんでもします」

「ありがとうございます。それなら、話が出来ますし、"お願い"を受諾出来ます」

「タクミ!僕も、手伝う!僕ができる事なら言って!」

「はい。はい。ユウキは、黙って座っていて!」


 なにか、ユウキがブツブツ言っているが無視して、生徒会長に話を続ける。


「さて、最初にいいます。一番簡単な方法は、"気にしない事"です。メリットしては、気にしなければ、今後相手が何を言ってきても、無視出来ます。デメリットは、流出した写真が今後何に使われるかわかりません。そうですね。相手の手元にあるのなら、最悪晒されるでしょう。もしかして、先輩方この写真をネットにアップしたりしていませんよね?」

「え?」「??」


 こりゃぁしているって顔だな

 そこから説明か・・・その位のリスクは考えていてくれると嬉しいのだけれどな。


 テレビの電源を入れる。同時に、テーブルの下に置いてある、キーボードを持ち出して、待機状態になっているパソコンに火を入れる。

 テレビの画面に、皆の視線が集まる。


 適当なTwitter画面を開いて、そこから適当に出会いを求めるワードで検索を行う。出てきた画像を元に、Chromeブラウザにある。Google画像検索を利用したサービスで取得した画像の類似画像を検索する。

 検索結果が、俺が考えていた物だった。


「いいですか。今やった事の説明は省略しますが、ネット上にアップしてしまった画像は、拡散されるだけならましな使い道で、酷い場合には」


 それらしく加工している画像を選択して、ソースを表示する。404エラーにならずに表示された。やはり、一見普通のサイトに見えるけど、出会い系やアダルトビデオへの誘導がなされるようになっている。ジャンプサイトの様だ。


「一見普通のサイトですが、メッセージを送ったりしたら、出会い系に誘導されたり、酷いサイトではクリック詐欺が仕組まれている場合があります」

「え?」「なんで?あんな普通の娘が、こんな事をしているの?」


「副会長。違いますよ。あの娘も被害者なのです。不用意に、友達と遊んで、少しだけ普段やらないような写真を撮影して、仲間に見てもらおうと公開しただけです。それを使って、詐欺集団や違法な出会い系サイト作成者が、あたかも、"普通の娘"が、求めている様に偽装したサイトを作っただけです」

「そんな・・・」「なんで、そんな事が・・・」


「はぁ・・・。さっき、副会長が、ご自分で言ったセリフが答えですよ」

「??」


「"あんな普通の娘"が、こんなサイトを作っていたら、信用しませんか?」

「あ!」

「まぁ今は本筋とは違うので、説明は省きますが、ネット上に晒すということは、そういうリスクも考えるべきです」

「・・・はい」

「特に、先輩方の様に、テレビに出て、名前が出たりしたら、検索するだけで、簡単にアカウントが解ってしまったりするのです」


 しょぼくれる二人を追い詰めてもしょうがないとは思うが、リスクを認識してくれないと、これからの話も出来ない。

 テレビの電源を落とした。ユウキに、冷蔵庫から、適当な飲み物を持ってくるように依頼して、部屋から追い出した。


「それで、先輩方。本当は違いますよね?」

「え?」「なんの事だ?」


 副会長の素はそっちのようですね。男装の麗人は、コスプレかと思ったけど、本当に"そっち"なのかもしれない。


「これってユウキがいた為の説明ですよね?本当は、もっと深刻な状態ですよね?」

「なんで、キミはそう思うのだ?」

「簡単ですよ。会長と副会長が、俺なんかを頼った事で、そのくらいの事は想像出来ます」

「なら、なんで!」

「そうですね。正直な話をすれば、面倒だと思ったからです」


「タクミ!ジュースないよ!おじさんが飲む物しか冷蔵庫に入ってないよ。珈琲か紅茶いれる?」

「あぁユウキ。悪い。キッチンテーブルに、5千円置いてあるだろう?それで何か買ってきてくれ!」

「いいの?」

「あぁお前が好きな物でいいぞ!それと、なにか摘めるものも頼むな」

「解った!」


 パタパタと廊下を走ってくる音がして、ドアが無造作に開けられた。


「それじゃ行ってくる!先輩!ちょっと行ってきます。タクミ!先輩に失礼な事言わないように!」


「はい。はい。解っているよ。それじゃ頼むな。俺は、いつものでいいからな」

「わかっているよ」


 ユウキが玄関から出ていくのを確認して、話を進める事にした。


「話が途中でしたね。先輩方は、犯人の目星が着いていますよね?多分、俺に見せていないDMに犯人が特定できるような事が書かれていたのではないですか?そうですね。"いつも見ています"とかそれに類する事が告げられたり、その人物しか知らない事が書かれていたりしたのではないですか?」

「・・・」「キミは」


「多分、ユウキが戻ってくるのは、10分位かかるでしょそこまで時間があるとは思わないで下さい。それまでに、俺が納得できなければ、本当に話は終わりです」

「・・・解った。いいよな。美優」


 やっぱり、普段は、副会長が主導権を握っているのだな。


「それで、キミはどうしたら納得してくれるのだ?」

「そうですね。いくつか質問させて下さい。それに答えてくれて、最後に俺からの、対価に対する要求をします。それをお二人で考えて、承諾していただければいいです」

「解った。でも、最初に、対価を教えてくれないのか?」

「それでもいいのですが、最初に対価を提示すると、どうしても全部コミコミになるので、高くなりますよ。副会長様!」

「っつ」「いいわよ。祥。私たちは、お願いしている立場で、けして対等ではないのですから、タクミ君の言う通りにしましょう」

「ありがとうございます」


 これで、二人は顧客になった。だから顧客に対するマナーで接する事にする。 


「いくつかお聞きしたいのですが、先輩方の最終到着点を教えて下さい。罰するとか、糾弾するとか、言われると、俺では出来ません。やめさせる事も難しいです。俺に出来そうな事は、相手を特定するか、これ以上の流出を防いだり、先輩方に防御の方法を教える事です」

「美優。私は、相手の特定をしたい。そうしたら、その証拠を持って、糾弾できると考える」

「そうね。でも、祥。防御方法が解らないと、今後同じ様な事をしてしまわないかしら?」


「あぁ言葉が足りませんでしたね。相手の特定は、サイバースペース上の事ですし、リアルが特定できるかは保証できません。その上で、その相手が複数だったり、俺以上の知識や技術があれば出来ない事もあります。だから、先に本当の現状を知りたいのです」

「そういう事なら、わかった、包み隠さずに離そう。いいよな美優」

「うん。祥がそう考えたのなら、私はいいわよ。でも、タクミ君できれば、この話は、私と祥とタクミ君だけの話にして欲しいのだけれど・・・ユウキにも黙っていてもらえる?」

「えぇ勿論です。だから、ユウキには買い物に出てもらいました。あぁ先輩方が、付き合っているとか、俺にはどうでも良い事ですからね。最初に言っておきます」

「な!」「タクミ君。なんで?」

「あぁ気がついた理由は別にいいでしょう。だから、LGBT的な事は気にしなくていいです」

「解った。それならありがたい。キミの言う通り、私と美優は付き合っている。肉体関係があると思ってくれていい」

「はい。それは、Twitter や ネット上に書いたりしていませんよね?」

「当然だ!」


 ふむ・・・そうなると、もしかしたら、話は簡単になるかも知れない。

 ネット上に転がっている情報から、二人が付き合っていると"類推"する事はできるかも知れないが、断定する事は難しい。実際に、そうしている場面を目撃したか、話を聞いたかする必要が出てくる。先輩方とリアルに接触している可能性がある。そうなると、一気に対象が絞り込める。同じ科の人間か、生徒会関係者か・・・。


「お二人の肉体関係が確認できるような写真を撮影した事はありますか?」

「・・・」「ない!」

「そうですか、それで学校で二人きりになった時に、そういう行為をした事はありますか?」

「・・・」「生徒会室で二人きりの時に、何度か「タクミ君。キスだけだよ。それ以上は、していないよ!本当よ!」」


 生徒会長は、真っ赤になって俯いてしまった。

 これでは、俺がセクハラをしているように見えてしまう。実際、それに近い事を言っている自覚があるから、余計に悪いような気がしてくる。


「最後の質問ですが、先輩方。その問題は発生する少し前あたりから、そうですねテレビに出演した辺りから、スマホの動作が重くなったり、バッテリーがすぐに無くなると思った事はありませんか?」

「うん。私のスマホは、変えたばかりだけど、なんか言われている様な、待ち時間じゃないのよね」

「買い替えた?」

「そうなの。前に使っていた物は、中学生の時に買ってもらった物で、かなり古くなっていて、バッテリーも半日も持たなくなっていたからね。それで買い替えたのだけど、最初の数日は良かったのだけど、1週間位かな、急に一日位で一桁になってしまう事が多くなったのよね」

「副会長は?」

「私のも同じだな。テレビに出る前は、1日は余裕で持っていた、使わない時には、2~3日は大丈夫だったが、今では、1日持たなくなってきている。でも、しょうがないのではないか?迷惑メールも多くなっているし、TwitterでのレスやDMも多いからな」


「メールやTwitterは関係ないですよ。前から、設定は変えていないのですよね?」

「変えてない。というよりも、変えられるのか?授業中は電源を落としているから大丈夫だが、部屋に居る時に、邪魔くさくてたまらない。サイレントにしていると、美優からの着信が分からなくて困るからな」

「もう。祥。でも、私も同じだよ」


 はい。はい。

 カミングアウトしてしまえば、急にいちゃつくのは辞めて欲しいのですけどね。


「ありがとうございます。大体整理出来ました。要求する対価の話をする前に、対策と作業を説明しますか?」

「そうしてくれ!」

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