第1000話 不法投棄(3)遺棄現場
不法投棄の温床となっているのは、住宅街の真ん中にあるマンションの前だった。2階、3階はワンルームマンションで、1階は以前は新聞取扱店をしていたようだが、閉店。それから空き家となったこの店の前に、ゴミが捨てられるようになったらしい。
役所も、張り紙を貼ったり、撤去したりしたらしいし、警察も張り込んで注意したらしい。それでも、効果は見られないようだ。
今はゴミが見られない。
「試しに何か置いて帰ってみるか?」
「夜にならないとダメかも知れないよ」
言いながら周辺を1周してくると、男がゴミを捨てられていた辺りに向かって手を合わせていた。
「あの、ちょっといいですか」
話しかけてみると、エリザベスの元の持ち主だとわかった。
会社員で、ドラマを見て真似をしたくなったものの、邪魔になって捨てる事にしたと言う。
「それで、拝んでいたのは?」
彼は恐ろしそうな顔をしながら言った。
「だって、人形って、何か憑いたりしやすいって言うじゃないですか。戻って来たのって、そういう事なんじゃないかって思うと……」
僕と直は、意味深に頷いて見せた。
「女をあんな風に捨てるなんて、恨まれても仕方がないですからね」
「秘書ですもんねえ。突然の解雇に不満を持ったのかも」
男はサアッと青ざめた。
「す、済まない、エリザベスゥ!」
「ところで、何でエリザベスなんですか」
「ヘタに日本名だと、アイドルの名前とかぶったりして、俗っぽくなる気がして」
やっていることはドラマの真似で十分に俗っぽいが。
「まあ、今後はちゃんとした方法で捨ててください」
ショボンとしながら帰って行く男を見送り、僕と直は、こそこそと言い合う。
「だめだ。途中で笑いそうになっちゃったよう」
「薬が効きすぎたかもな。でも、まあいいか」
とにかく、夜を待ってみる事にした。
午後10時を回った頃、車がマンションの前で停まり、下りて来た年配の男が、2メートルを超す紅葉の木と石油ストーブを下ろした。
そして車に乗り込む。
それと同時に、それが現れた。作業服の年配の男の霊だ。
捨てられた木とストーブを見て溜め息をついたらしい。そして、車に憑いた。
それに気付かないように車は走り出し、しばらく走ったところで停まった。古い一軒家だ。
男がその家のガレージ部分に車を入れると、霊は車から離れて、確認するかのように家を眺めた。そして、消える。
車から男が降りて来たので、僕と直は、近付いて行った。
「失礼します。警視庁陰陽部の御崎と申します」
「同じく町田と申します」
男はギョッとしたようだが、何も無い風に装った。
「何か?」
「今、植木とストーブを不法投棄されましたよね」
男は言葉を探すように目を忙しくさ迷わせてから、
「知らん!」
と言った。
「写真、見ますかねえ」
直が、捜査車両の中から撮った写真を見せる。
男はそれで、不機嫌になった。
「それがなんだ。わしを捕まえるのか。やれ。好きにしろ」
開き直った。
「それは後の事として、僕達は陰陽部です。霊に関係する事案を受け持つんですよ」
言うと、男は狼狽え始めた。
「霊?何で……まさか紅葉に何かが?」
「まあ、明日の朝になればわかりますが……中でお話させていただきましょうか」
すっかり怯える男を促して、僕と直は家に入った。
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