第998話 不法投棄(1)戻って来る
「わあ!」
凜がおもちゃを袋から出して、袋はその辺にポイと放る。
「ちゃんとゴミ箱に捨てないとだめだろ、凜」
僕は隣にしゃがみこんで、それを拾った。
「ごめんなさい」
「ん」
お正月のお年玉で刀が欲しいというので、おもちゃの刀を買ってきたところだ。
「名刀シリーズでしょ」
美里が言う。
「シリーズ?ああ。たくさんあったもんな。
まさか」
「別の刀を欲しがるかもね」
僕と美里は苦笑して、土方歳三の刀でポーズを取る凜を見た。
男は、それを眺めて溜め息をついた。
「邪魔になったなあ。捨てようかなあ」
それはマネキン人形だった。ドラマで、マネキン人形にコートをかけ、カバンをひっかけ、サングラスを掛けさせているのを見た時、カッコいいと思ってマネキン人形を買って来た。
しかし、それなりのコート、かっこいいサングラス、いいデザインのカバンだったからかっこよかったのだと思い知らされた。おまけに、それを置くのが雑然としていながらも計算されていたフローリングの探偵事務所だったから良かったのだ。和室の六畳間に似合わない事この上もない。
「うん。そうしよう」
年末の大掃除で捨てて置けば良かったが、その時にはコートやセーターやマフラーや帽子などがいっぱいかけられていたので、思い付かなかったのだ。
「大型ゴミっていつだろう?まあ、いいか。あそこなら」
近所に不法投棄のやまない場所があるのだ。年末に撤去されたが、もうすでに新しいゴミが置かれ始めている。大体いつも、きれいな状態は、1、2週間が限度なのだ。
「明後日には熱帯魚飼育セットが届くからな。今晩のうちに行っとくか」
男は深夜を待って、マネキン人形を近所の不法投棄の無法地帯となっている、閉店した新聞屋の前にこっそりと捨てに行った。
そして、飼い始める予定のアロワナの事を考えているうちに、眠りについた。
翌朝。会社に行こうとした男は、玄関を出たところで足を止め、ドアに前に立つそれをまじまじと見つめた。
「え!?俺、昨日の夜、捨てたよな?」
そこにはマネキン人形が、澄ました顔で立っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます