第501話 鬼の棲む家(4)鬼

 僕と桂さんは、スマホを覗き込んでいた。そこに小石川夫人が通りかかる。

「ロックがかかってるなあ。暗証番号か」

「電話で話していた通りなら、壺に向かって殺すように命じた所が動画で残ってるんですよね」

「ああ。それと、錠剤をゴリゴリと粉にしていたところもな。殺人の状況証拠にはなるから、そこを足がかりにして、徹底的な捜査に入れる。これは重要だ。まさか、教師に借りたスマホが本当に役に立つとはなあ。

 今から鑑識に行って、ロックを解除してもらおう。行って来るから、後は頼む」

「はい」

 僕は桂さんに言って、顔色を変えて仏間に急ぐ夫人を横目に、悠々と玄関へ向かった。そして、ゆっくりと靴を履き、玄関を出る。

 と、仏間で感じた気配が近付いて来るのがわかった。

 首に手を伸ばして来るのをギリギリまで待って、準備していた札で拘束する。


     なに!?


「はい、捕まえた。殺人未遂の現行犯です」


     放せよ!俺は命令に従っただけだ!


「命令?誰の」


     当主の嫁だ!


「長女を殺したのも?」


     当主の嫁の命令だ!

     俺は当主夫婦の命令で動くだけだ!

     俺は小石川家の家守だからな!


 身をよじって、僕が近付ける浄力から逃れようとしている。

 背後で、ガタンと音がした。

「家守が――!?」

 小石川夫人だった。

「あ、あなた、何者?」

「強行犯係係長、それから、霊能師です」

「霊能師……」

 反対側からも、声がした。

「何事だ!?」

 小石川氏だった。

 無視して、夫人に訊く。

「笑子さんを襲わせましたね。理由は何ですか」

「理由……」

「待て。襲わせた?証拠は?小石川家の人間に、何を言ってるかわかっているんだろうな」

「わかっていますよ。勿論。

 この霊は小石川さんの命令だと言っていますが、あなたも知っていた事ですか」

「まさか、娘を。ばかな」

 夫人はキッと般若のような表情の顔を上げた。

「娘?娘だなんて思った事もない。お母さんと呼ばれる度に虫唾が走った!」

「雅子!チッ」

 小石川さんはふらりと動いて、霊を拘束する札を引きちぎった。

「何を――!?」

「知られた。2人共、殺れ」

「あなた!?」


     命令の通りに


 霊は自由を取り戻した体で僕と夫人を見た。

 僕は呆然とする夫人の所に走った。直がいればなあ。そう、つくづく思う。


     殺す


 手を伸ばして来る。

「遅い」

 刀を出すと、余裕を持って振る。霊はアッサリと斬られ、何の手ごたえも無く消えて行った。

「弱いな」

「……」

「全部撮れた?」

 呼びかけると、玄関から桂さんが、木々の間からは黒井さんがスマホを持って現れた。2階の窓からは、下井さんが手を振る。

「小石川さんまで登場して、びっくりですよ」

 下井さんが笑い、小石川氏は蒼白になって膝を着いた。

「雅子さん、笑子さんに睡眠薬を砕いて飲ませましたか」

「言うな!」

「寝ながら歩いて事故に遭えばいいと……」

「笑子さんを襲わせましたね」

「ええ。孝信がいるから」

「小石川さん。知っていましたか」

「私は……」

「家の事なんて知らんぷりよ。どうでも良かったんでしょう。跡継ぎがいれば」

 小石川夫妻はすっかり表情がひび割れ、夫人は冷笑を小石川氏に向けた。小石川氏は、

「私は、小石川だぞ」

と言っていたが、誰も反応しないので、諦めたらしい。

「べ、弁護士だ。いや、国家公安委員長に連絡を」

とぶつぶつ言うだけだった。

「では、署で事情をお伺いします」

 そう言った時、辺りを冷たい気配が覆った。

「これは……笑子さん?」

 僕は、門から入って来てそれを眺めていた宗と笑子さんを見た。




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