第427話 サンタクロース大作戦(2)パーティー

 コミュニティセンターに、続々と親子連れが集まっていた。去年、例の事件に巻き込まれた子の親子と、敬のように仲のいい子の親子だ。

「おはようさん!」

「おはよう!」

「おはようだねえ」

 智史、楓太郎、直の人当たりのいい3人が、まずはトップバッターとしてにこにこと登場する。子供達が硬直気味なのは、3人がコントのような鬼の格好をしているからだ。

「お返事が聞こえないなあ?」

 楓太郎が耳に手を当てて、子供番組のお兄さんよろしく言う。

 高槻楓太郎たかつきふうたろう。高校時代の1年下の後輩で、同じクラブの後輩でもあった。小柄で表情が豊かな、マメシバを連想させるようなタイプだ。

「おあよ!」

 敬が大きな声で返事をすると、楓太郎はニコニコと笑った。

「はい、おはよう!元気でいい挨拶ができましたね!」

 それにつられて、トラウマの無い子がおはようと言い出し、次いで、皆、言い出す。

 そばに今は父兄が付いているのも大きい。

 その流れで、3人は「大きな栗の木の下で」「オニのパンツはいいパンツ」など、皆と一緒に歌って踊る。

「おお、乗ってきたよ」

 ここに登場しないメンバーはそれを陰から見て、ホッとした。

「いい笑顔です」

 笑顔の写真を撮りながら、宗が頬を緩める。

 水無瀬宗みなせそう。高校時代の1年下の後輩で、同じクラブの後輩でもあった。霊除けの札が無ければ撮った写真が悉く心霊写真になってしまうという変わった体質の持ち主だ。背が高くてガタイが良くて無口。迫力があるが、心優しく面倒見のいい男だ。

 今日の写真係だ。

「次は私ね」

 エリカが絵本を手にしている。『泣いた赤鬼』の朗読だ。

 立花たちばなエリカ、高校で同じ心霊研究部を創部した仲間だ。オカルト好きで、日々、心霊写真が撮りたいと熱望している。

 このあたりで、鬼に過剰反応するのを何とかしたいと狙っているのだが。

 さり気なく父兄がそばを離れて行くが、エリカの熱演でも、泣く子はいなかった。

「よしよし。いいわね」

 冴子姉と京香さんも、小さくガッツポーズをしている。

「次は親子クッキングだ。ユキ、頼むぞ」

「は、はい!がんばります!」

 ユキはやる気だ。

 天野優希あまのゆき、高校で同じ心霊研究部を創設した仲間だ。お菓子作りが好きな大人しいタイプで、慣れるまでは人見知りをする。

「大丈夫。心配いらないねえ」

「ユキは優しいお姉さんって感じだからな」

「エリカ先輩は?」

「んん……陽気なお姉さん?」

「おかしな?」

「怜、直。エリカちゃんにどつかれるで」

 それでユキはクスッと笑い、緊張もほぐれたのか、型で抜く直前まで僕達で作っておいたクッキー生地を使ってのクッキー作りを主導する。

 お母さん達も手伝っているが、ほとんど型で抜くだけなので、敬のように小さい子以外は、子供が自分でしている。

「かなり、鬼は平気になったみたいだねえ」

「ああ。あとの問題は鬼ごっことチョコレートとサンタクロースだな」

 言いながら、僕達は次の準備に余念がない。

 クッキーをオーブンで次々に焼いている間に、鬼ごっこだ。

 鬼ごっこを怖がってできない子が多いらしいので、これも懸念材料だ。

「次は鬼ごっこしよ」

 途端に、顔を強張らせる子が出た。

「まずはオレが鬼やで。でんしたら交代な」

「でんって何?」

「でんはでんやん。え、言わへん?」

 智史は上手に子供達を「でん」、すなわちタッチに引き付けて注意を引き、笑わせ、鬼ごっこに引きずり込む。そうなれば、普通に楽しいだけだ。

 ここまでは策略が上手く機能している。

 しかし、サンタクロースの方が難敵らしいというのは聞いている。心配だ。

 軽くジュースを飲ませながら、演劇サークルによる『浦島太郎』を見せる。

 白いひげのお爺さんになるくだりで、数人が硬直したが、誰かの、

「ママのアンチエイジングクリームあげる!」

「高いからだめ」

というやり取りに噴き出し、どうやら、泣き出さずに済んだらしい。

 ここで、おやつだ。

 自作のクッキー、ポップコーン、プリン、たこ焼き焼き器で焼いたカステラだが、丸いカステラの中には、チョコレートとカスタードクリームが入れてあり、クッキーの半分は、チョコレートをコーティングしてある。

 さあ、食べろ。チョコレートだぞ。

「敬はこっちな」

「いたらきます!」

 幼児用のクッキーと、プリン、プレーンのカステラだ。

「おいしいね!怜、あーん」

「あーん。美味しいな。ありがと、敬」

 嬉々として食べる敬などに触発されたのか、空腹ゆえか、自分で作ったクッキーだからか、次々と手を出して行く。カステラの中からチョコレートが出て来ても、平気そうだ。

 よし、と僕達は目で頷き合い、合図を送った。

 流石に次は、泣くかも知れないなあと思いながら。




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