第427話 サンタクロース大作戦(2)パーティー
コミュニティセンターに、続々と親子連れが集まっていた。去年、例の事件に巻き込まれた子の親子と、敬のように仲のいい子の親子だ。
「おはようさん!」
「おはよう!」
「おはようだねえ」
智史、楓太郎、直の人当たりのいい3人が、まずはトップバッターとしてにこにこと登場する。子供達が硬直気味なのは、3人がコントのような鬼の格好をしているからだ。
「お返事が聞こえないなあ?」
楓太郎が耳に手を当てて、子供番組のお兄さんよろしく言う。
「おあよ!」
敬が大きな声で返事をすると、楓太郎はニコニコと笑った。
「はい、おはよう!元気でいい挨拶ができましたね!」
それにつられて、トラウマの無い子がおはようと言い出し、次いで、皆、言い出す。
そばに今は父兄が付いているのも大きい。
その流れで、3人は「大きな栗の木の下で」「オニのパンツはいいパンツ」など、皆と一緒に歌って踊る。
「おお、乗ってきたよ」
ここに登場しないメンバーはそれを陰から見て、ホッとした。
「いい笑顔です」
笑顔の写真を撮りながら、宗が頬を緩める。
今日の写真係だ。
「次は私ね」
エリカが絵本を手にしている。『泣いた赤鬼』の朗読だ。
このあたりで、鬼に過剰反応するのを何とかしたいと狙っているのだが。
さり気なく父兄がそばを離れて行くが、エリカの熱演でも、泣く子はいなかった。
「よしよし。いいわね」
冴子姉と京香さんも、小さくガッツポーズをしている。
「次は親子クッキングだ。ユキ、頼むぞ」
「は、はい!がんばります!」
ユキはやる気だ。
「大丈夫。心配いらないねえ」
「ユキは優しいお姉さんって感じだからな」
「エリカ先輩は?」
「んん……陽気なお姉さん?」
「おかしな?」
「怜、直。エリカちゃんにどつかれるで」
それでユキはクスッと笑い、緊張もほぐれたのか、型で抜く直前まで僕達で作っておいたクッキー生地を使ってのクッキー作りを主導する。
お母さん達も手伝っているが、ほとんど型で抜くだけなので、敬のように小さい子以外は、子供が自分でしている。
「かなり、鬼は平気になったみたいだねえ」
「ああ。あとの問題は鬼ごっことチョコレートとサンタクロースだな」
言いながら、僕達は次の準備に余念がない。
クッキーをオーブンで次々に焼いている間に、鬼ごっこだ。
鬼ごっこを怖がってできない子が多いらしいので、これも懸念材料だ。
「次は鬼ごっこしよ」
途端に、顔を強張らせる子が出た。
「まずはオレが鬼やで。でんしたら交代な」
「でんって何?」
「でんはでんやん。え、言わへん?」
智史は上手に子供達を「でん」、すなわちタッチに引き付けて注意を引き、笑わせ、鬼ごっこに引きずり込む。そうなれば、普通に楽しいだけだ。
ここまでは策略が上手く機能している。
しかし、サンタクロースの方が難敵らしいというのは聞いている。心配だ。
軽くジュースを飲ませながら、演劇サークルによる『浦島太郎』を見せる。
白いひげのお爺さんになるくだりで、数人が硬直したが、誰かの、
「ママのアンチエイジングクリームあげる!」
「高いからだめ」
というやり取りに噴き出し、どうやら、泣き出さずに済んだらしい。
ここで、おやつだ。
自作のクッキー、ポップコーン、プリン、たこ焼き焼き器で焼いたカステラだが、丸いカステラの中には、チョコレートとカスタードクリームが入れてあり、クッキーの半分は、チョコレートをコーティングしてある。
さあ、食べろ。チョコレートだぞ。
「敬はこっちな」
「いたらきます!」
幼児用のクッキーと、プリン、プレーンのカステラだ。
「おいしいね!怜、あーん」
「あーん。美味しいな。ありがと、敬」
嬉々として食べる敬などに触発されたのか、空腹ゆえか、自分で作ったクッキーだからか、次々と手を出して行く。カステラの中からチョコレートが出て来ても、平気そうだ。
よし、と僕達は目で頷き合い、合図を送った。
流石に次は、泣くかも知れないなあと思いながら。
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