第218話 迷い(2)少年A
少年Aの弁護人にあった事を話すと、絶句した。しかし、立ち直りは流石に早い。人生経験の差か。
「あるのよ、そういう事」
「あるんですか!?」
「ええ。人前では反省とか親としてどうのこうのとか言って涙まで流して号泣して、ウラではケロリ。アカデミー賞真っ青よ」
うわああ……。
「恐ろしいねえ……」
「で、被告人にお守りの札を渡す。そしてガードする。そういう事ね」
「はい。接見の同伴、お手数ですがお願いします」
「ええ、いいわよ。気にしないで」
僕と直は、剣持冬華弁護士と、接見室に入って並んだ。
しばらくすると、アクリル板の向こうに僕達と同年代の男が現れた。
「何。眠いんだけど」
ドサリとパイプ椅子に座り、ふんぞり返る。
「てか、そいつら誰」
「霊能師の御崎です」
「同じく町田です」
「被害者の女性の霊2体が、目、指、歯を取り戻そうと、あなた達のところに来る可能性が高くなりました。あなた達の目、指、歯を代わりに取るつもりかと思われますので、札を入れた守り袋を差し入れますので、必ず、肌身離さず持っていて下さい」
言うと、彼は身を乗り出した。
「はあ!?何言ってんの!?困るよ、そんなの!おい、霊能師だろ。祓えるんだろうな。俺の事、守れるんだろうな!?」
隣で、剣持弁護士の眉が、ピクリとした。
「……全力を尽くします」
「それと、弁護士先生。ちゃんと無罪になるんだろうな」
「無罪は無理ね。言ったでしょ」
こいつ、無罪を主張してるのか!?
僕と直は、目が点になった。
「じゃあ、なんでもいいから軽いやつで。早く出たいんだよ、詰まんないんだから、ここ」
「……当然でしょ。自分のした事を自覚してるのかしら」
「もういいよ、そういうの」
ふてくされて、彼は立ち上がる。
「もう寝るわ」
僕達3人は残されて、同時に溜め息をついた。
「何というか、フリーダムな人ですね」
「必死にオブラートに包んだ努力は買うわ。でも、今は言っていいわよ。クソ野郎って」
剣持弁護士は口元を歪めるように笑った。
その後、刑事立ち合いの下、守り袋に札を入れ、少年A達の数だけ用意して預けた。
「大変ですなあ。その上これから、張り込むんでしょう?」
「まあ、仕事ですから。それに、彼女達にそんな事をさせて、悪霊になんてさせたくはないですから」
「確かに」
刑事は、何度も頷いた。
「もしかして、弁護士さん?」
背後から、声がかかる。
そこにいたのは、泣きはらした目の中年夫婦だった。
「あのケダモノの弁護をする弁護士?どこに弁護する余地があるの?あれで、まだ更生の可能性があるとか言うつもりじゃないでしょうね?環境が云々とか言うつもりかしら?」
「お母さん」
刑事が、しまった、という顔をして夫婦を離しにかかる。
「可哀そうなのはうちの子であって、あいつじゃないわ!」
「お母さん、行きましょう、ね。法律で、弁護士が付かないと裁判できないんですから、ね」
「ああ、しまったなあ。すみません、先生」
「いえ。慣れていますから」
「はあ」
刑事に急かされるように、泣き崩れる遺族から離れ、帰る剣持弁護士を玄関まで送るべくついて行く。
剣持弁護士は毅然として、真っすぐに顔を上げていた。
「ああいうの、あるんですか」
「ええ。よく。怒鳴り込んで来られたりね」
「……」
「これが私の仕事だからよ。私は私の仕事に恥じる事はしていないわ。だから平気よ」
雷に打たれたような気がした。
玄関前の駐車スペースには白い国産車が止まっていた。
「ここでいいわ」
「ありがとうございました」
直共々、90度上体を曲げる。
「あらあら。やめて、ね」
困ったような声がする。と、聞き覚えのある声が重なる。
「おう。御崎に町田。夜遊びか?」
「ん?寺崎先生!?」
「何でここにいるんですかねえ?」
「かみさんを迎えに来たんだよ」
「かみさん?」
視線を辿る、と。
「剣持さん?」
「ホホホ。仕事では旧姓なのよ。色々面倒だから」
「へええ」
「というわけだ。じゃあ、夜更かしするなよ」
手を振って、2人は白い国産車に乗り、帰って行った。
「何か、へええ」
「驚いたねえ」
「あの2人が」
「まあ、お似合い、かねえ?」
毒気を抜かれたような感じで、僕達は戻って行った。
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