第84話 復讐予告(2)1つ目小僧の人形

 友野は、今日見舞いに行った浦川の事が、頭から離れなかった。夜中に変な歌が聞こえて、駅の階段から突き落とされただなんて。

 しかも、聞こえた声が、あの益田の声と似ていただって?

 それじゃあ、益田の幽霊がやったみたいじゃないか。恨みを晴らすために。

 俺達は杉沢に命令されて、仕方なくだし。それに、死ぬなんて思わなかったし。

 でも、謝った方がいいのかな、お墓に参るとかして。

 益田の声か。どんな声だったかな。


     2つの人形がありました

     ひとつは踏んで目が潰れ

     一つ目小僧になりました


「えっ、益田!?」

 友野は思わず飛び上がって、後ろを振り返った。

「誰もいない?でも、今確かに――!」

 背筋が冷たくなるという感覚を、初めて知ったのだった。


 3学期期末テストが終了し、明日からのテスト休みの事を考えて、ほとんどの生徒がホッとしている。

 そんな中、帰りかけの中田を呼び止め、昨日の話の顛末を軽く話しておいたのだが、中田は恐縮しきりだった。

「いや、気にするな。料金で折り合わないとか、反対されるとか、あるだろうからな」

「それでも、本当にすまん。

 あいつら4人は、中学でも好き放題してたんだ。高校生になって少しは常識を身につけたと思っていたのに」

 いい流れだ。

「へえ。あの4人は大抵一緒だったんだな」

「ああ。リーダーは杉沢だ」

「そう言えば、事故死かなんかしてなかったかなあ。確か、益田?」

「ああ、益田。かわいそうなやつだったよ。元々父子家庭だったんだけど、入学早々、人形作家の親父さんが事故で亡くなってな。近くの施設に入ってたよ。形見の3体の人形を大事にしてたらしい。

 まあ、俺はクラスも違ってて、話をしたこともないんだけどな。

 人形を3体抱きしめるようにして、夜、近所の空き家で爆死したんだよ」

「爆死?」

「そう、爆発の爆死。粉塵爆発だって」

「何でまた」

「そこ、工場があって、何か粉がいっぱいだったんだよ。で、益田は寂しさを紛らわせるために、そこで人形と過ごしてたんだろうって。夏で、扇風機をつけたりなんてしたからだよ。ばかだなあ」

 中田はしんみりとしてそう言ったが、僕と直は、目を合わせて頷いた。

 と、中田に着信があった。

「あ、ごめん」

 出た中田だったが、すぐに、顔色を変えた。

「大変だ。その4人組の1人、友野が、転んで片目に釘が刺さって失明だって。痛そう」

「う、想像したくないよぉ」

 直が顔をしかめた時、僕に着信があった。

「はい」

「あ、あの、中内と言います。昨日、病院で」

「はい、覚えていますよ。僕に何か」

「助けて下さい。きっと次は俺だ!」

 電話の向こうで、中内がパニックになっていた。


 友野は、浦川と同じ病院に入院していた。

 聞いた話では、夜中に益田の声で歌うのを聞き、そして今朝、自宅の庭で転びそうになって、たまたま踏んだ板が割れていて跳ね上がり、突き出た長い釘が眼球に突き刺さったという。

 そしてこちらも、いつの間にか覚えのないカードがポケットに入っていたという。大きさも質感も浦川のと同じで、


     2つの人形がありました

     ひとつは踏んで目が潰れ

     一つ目小僧になりました


という文面になっていた。

 中内はガタガタと震えながら、

「次は俺だ、次は俺だ」

としきりに繰り返している。

 依頼の話になると、中内はひったくるようにしてサインをし、付いて来ていた母親も、保護者欄にサインをし、

「お願いします、なんとか命だけは」

とこちらを拝んできた。

「益田君というのは、事故死したとされている、益田優斗君で間違いありませんね」

「はい、はい」

 親子で半泣きだ。

「どうして、あなたたちが襲われるのか、理由に心当たりがありますか」

 ここで2人はためらう様子を見せたが、腹をくくったらしい。

「いじってたんだ」

 いじめだろうが。

「大人しいし、ウジウジしてるし、学校以外ではいつも人形を抱えてて」

 形見を大事にしてて悪いか。

「あの日、杉沢が、理科の時間に習った粉塵爆発を試してみようぜって。益田の人形を、中に置いて。そうしたら益田が、人形を取りに中へ、中へ入って行って・・・爆発が・・・」

 益田は一層ガタガタと震え、母親はワッと泣き出した。

「で、事故死だと」

「そうだよ、事故死だよ!」

「だったら益田君に、事故死だから逆恨みはやめてくれといってみるか?」

「ヒッ」

 大きく息を吐いて、とにかく冷静にと努める。

「他に何か、ありましたか」

 中内はプルプルと首を振った。

「では、中内さん。あなたに歌は、届きましたか」

「まだ、まだだ!なあ、それ、今日か?」

「さあ、それは……。

 後、益田君に関わっていたのは、誰と誰ですか」

「杉沢と、浦川と、友野と俺」

「次が自分だと言うのは、なぜですか」

「だって、ラスボスは最後だろう。だから杉沢が最後に決まってるじゃないか。俺達は杉沢の命令でやっただけなんだから」

 被害者面して、中内が顔を歪めた。




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