第22話 熱すぎるドワーフ
迎え撃とうとしている僕達を見て、男のドワーフが怒鳴る。
「何をしておる! 早く逃げるんじゃ!」
「ちょっと待ってお爺! あの人達の武具!」
少女のドワーフが襲われている途中だと言うのに、僕達の武具を指差して目を輝かせている。
「あっ、なんかダメなやつだ」
「骨しかないのに、背筋が寒いのは某だけか?」
「あの目は怖いわね」
「うーん、アレだろ。ドワーフって職人馬鹿ってやつだろ?」
僕達がそんな事を話しているうちに、盗賊らしき男達が周りを取り囲んでいた。いや、盗賊と言うよりも賞金稼ぎ、バウンティハンター崩れのゴロツキってとこか。あとは亜人狩りを生業にしている盗賊達かな。
僕は取り囲む男達の戦闘能力を把握する。
「おい兄貴、俺達ついてるぜ」
「おお、本当だ。ドワーフを追っかけたらターゲットと出くわしたぜ」
「早くやっちゃおうぜ」
ヘラヘラと嫌な笑い方をする狼の獣人が三人、兄貴と言ってたけど兄弟か? まあ、ターゲットって事は、どうせセレネさんを追ってたみたいだから殺すから関係ないけど。
「オイ! お前らぁ! やっ」
リーダーぽい狼人族の男が全部言い終える前に、男の頸が宙を飛んだ。
「あ、兄貴!」
「へっ!?」
残りの二人の狼人族の男の頸も後を追うように空を飛ぶ。
僕は、リーダーぽい狼人族が話し始めた瞬間、バスタードソードを肩に担いだまま、一瞬で間合いを詰めて振り抜いた。そのまま一息で右手に持つバスタードソードと左手で抜いた逆手のショートソードを二振り、狼人族の男達の頸を斬り落とした。
「ヒッ、ヒィィィィーー!!」
呆気なく斃された牙狼三兄弟に、その配下達と亜人狩り達がパニックになる。
ただ、奴等は気付くのが遅すぎた。
アグニが巨大な龍牙大剣を横薙ぎに振るうと、一度に賊三人の身体が上下に泣き別れる。
凶悪な龍牙槍が突かれ、横薙ぎに振るわれ、次々に賊が斃されていく。
ファニールとルカを護るようにヴァルナが縦横無尽にロングソードの龍牙剣を振るい、繰り出されるシールドバッシュは、それだけで賊達の頭を潰す。
セレネさんも落ち着いて皆んなのフォローに徹している。的確に放つ矢が、逃げようとする男達の首や胸に吸い込まれる。
「お前ら邪魔だぁー! 儂が武具を見る邪魔をするなぁーー!」
何故か、訳の分からない事を叫んで戦鎚を振り回して亜人狩り達に反撃し始めた男のドワーフ。
「……邪魔」
ドワーフの少女も金属製らしき六角棒で亜人狩り達を撲殺していく。
ファニールが馬を奪って逃げようと近付いて来た一人の男に極小さなブレスを吐いた。
「ギャアァァァァァァーー!!」
まさか馬がブレスを吐きだすとは思わなかったのだろう。男はアッという間に消し炭になった。まぁ、警戒しても結果は同じだったろうが。
「何かあったの?」
『心配するな。何もないぞ』
小さな手で両目を押さえているルカが、男の断末魔の悲鳴を聞いて、ファニールに何かあったのか聞くが、ファニールは安心させるように優しく声を掛ける。コイツはイグニートに似て優しいからな。
バスタードソードとショートソードの二刀流で、亜人狩り達の剣ごと、鎧ごと斬り裂いていく。
全ての戦闘が終わった時、戦い始めてから五分も経っていなかった。
「ルカ、もう少し待ってね。アグニ、インドラ、穴を掘るから死体をお願い」
「御意」
「ああ、金目の物は剥ぎ取っておくぜ」
土属性魔法で街道脇に穴を掘り、そこに獣人の三兄弟とバウンティハンター崩れ達、亜人狩りの盗賊達の死体を放り込んでいく。
死体の処理が終わった頃、僕は自分に浄化魔法をかけ、アグニ達を送還して召喚し直そうと思って、ふとドワーフが居たことを思い出した。
静かだから忘れてたとそっちを見ると、じっと僕達を凝視する、そこそこ年を取ったドワーフと少女のドワーフがいた。
「えっ、えっと、何か?」
ガバッと二人が揃えたように土下座し始める。
「え、ええぇ、な、何ですか?」
「頼む! お主達の武具を儂に見せてくれ!」
「……お爺より私に見せるべき」
どうやら僕達の武具が、尋常じゃない物だと一目で見抜いたみたいだ。
「主人、返り血を落としたいので一度送還をお願い出来るか」
「あ、ああ、ちょっと待ってね」
ドワーフの二人が怖いけど、先に馬車の陰でアグニ達を送還して召喚し直す。
何とか土下座を辞めてもらい、落ち着いて話が出来るまでになった。
ルカはやっと目を開けたら、髭もじゃのドワーフオヤジとツルペタのドワーフ少女が居たのでビックリして僕にしがみつき、不安からか頭を僕の胸にグリグリと擦り付けている。
「落ち着いてください。あなた達は亜人狩りに襲われていたんですよね」
「そんな事より、お主達の武具は何なんだ! 特にお主のバスタードソードとショートソード、神器と言われても儂は驚かんぞ!」
「……お爺、その革鎧と籠手、ブーツもオカシイ」
「ダメだ、話が通じないや」
ドワーフのオヤジでいいか、オヤジと少女が僕やアグニ達の武具を凝視して気味が悪い。
「主人よ、ドワーフの職人などこんなモノだぞ」
「うそ! ドワーフはみんな変態なの?」
「頼む! ちょっとでいいから!」
「お願い。見るだけだから」
仕方ないので僕のショートソードを見せようとするけど、僕の剣はクセものなんだ。僕のバスタードソードとショートソード、革鎧や籠手にブーツもだけど、僕専用の装備になっている。イグニートが僕を護る為に、気持ちを込めて創り上げて強化の付与魔法をかけた武具は、僕にしか装備出来ない特殊な武具になってしまっていた。
二人のドワーフが、それこそ穴が空くほど僕のショートソードをガン見している。
「……これは、ただの魔法金属じゃねぇな。竜種の牙か? いや、牙や爪を削った訳でもねえな」
「……お爺、エンチャントも凄い。こんなに付与魔法が重ねがけされたモノを見た事ない。感じる魔力が尋常じゃない」
もう僕やアグニ達の事も目に入らないみたいだ。
「シグ君、ごめんなさいね」
「どうしたんです?」
抜き身のショートソードを持ち続ける僕に、セレネさんが誤ってきた。何の事で誤っているのか分からない。
「たぶんあの牙狼三兄弟は、私への刺客だと思う。あの話を広めないように寄越したんだと思うわ」
「ああ、その事ですか。セレネさんの所為じゃないですよ。僕も支部長と揉めましたし、威圧して脅したのは僕の方でしょう」
あの獣人の三兄弟は、牙狼三兄弟と呼ばれる元凄腕のバウンティハンターで、悪逆非道の数々がバレて、現在では逆に賞金首だそうだ。
何時迄もキリがないので、剣を鞘に納めると二人のドワーフから悲鳴があがる。
「ああっ、もうちょっと、もうちょっとだけ」
「あっ、あぁ~……」
「いや、何時迄もここに居る訳にはいかないので」
僕にしがみついていたルカが、いつの間にかうつらうつらと舟を漕ぎ始めている。早く馬車の中で寝かせてあげたい。
「よし! 儂は決めたぞ!」
「……うん! 私も決めた!」
「「一緒に着いて行く(ぞ)」」
「ちょっと、あなた達何を言ってるの!」
セレネさんが咎めているけど、聞く耳を持たない二人のドワーフは、亜人狩り達の乗っていた馬を引いて戻って来た。牙狼三兄弟が乗って来た馬らしい。借り物かもしれないから確認しないとな。まあ、もうハヴァルセーには行かないけど。
「行こうセレネさん。ルカはもう眠くて限界みたい」
「もう……そ、そうね」
話を聞かないドワーフ達に怒っていたセレネさんに、馬車に乗るように言う。
ファニールにインドラが騎乗して、アグニが馬車の御者席に座り移動を再開する。
ふぅ、やっと港町パルミナへ行けそうだ。海が見たいと思って行き先を決めたけど、紆余曲折があって遠回りしてセレネさんという同行者が増えた。
馬車からチラッと後ろを見ると、二人のドワーフが二頭の馬に乗って着いて来る。
何処まで着いて来るんだろう……
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