第5話 氷のヴァルナ
スケルトンを生み出すつもりが、何処を間違えたのか龍牙兵(スパルトイ)を召喚してしまったけど、スケルトンとは比べ物にならない位強いので、結果オーライだと思おう。
龍の墓場を抜けるには、どうしても力は必要なのだから。
「何か、ロングソードもイカツイ変化しているね」
「龍の牙と融合しましたからな」
伝説級の業物だったロングソードが、紅い刀身の大剣に進化していた。
このロングソードが元になった龍牙大剣やアグニの漆黒の鎧は、それも含めてアグニらしく、アグニの意思で武器だけを召喚したり送還したり出来るらしい。
「某から#主人__あるじ__#に提案があるのですが」
「ん、なに?」
「主人は、バルディア王国を目指していると聞いた。だが主人はまだ7歳の童だ。ならば主人は、ここで暫く力をつけるべきだと某は思う。某が一緒なら龍の墓場の森を抜けるのは難しくない。だが、これから人の住む街へ行くのなら、主人自身の力をつけるべきだ」
アグニから提案された事はもっもとだった。7歳の僕がこのままバルディア王国まで過酷な森を行くのは無謀だろう。それに街の中ではアグニを側に置いておく事は出来ない。僕自身が強くならないとダメなんだ。
「……確かにその通りだな。うん、アグニの言う通りにするよ」
「おお、ならば某から主人にもう一つ提案がある。某の他に、もう一体スパルトイを使役してはどうだろう。素材なら、ここにはそれこそ山程あるのだから。主人を護衛する力は多い方がいい」
アグニがもう一体スパルトイを召喚する事を勧めて来た。確かに護衛は多いに越した事はない。
「分かった。じゃあ龍の牙とか骨を集めようか」
「骨集めは某にお任せ下さい」
アグニには、落ちている龍の骨がどの属性かが分かるらしい。スパルトイを召喚する為に最適な素材を集めてくれるという。
アグニが牙、爪、鱗、骨、魔石に加え、龍に挑んで散った英雄達の武具から、これはと言う物を持って来た。アグニと同じように、鎧や武具も含めて龍牙兵としたかったから。
ここでアグニを生み出した時の事を思い出す。また魔力枯渇で気を失うのは勘弁して欲しい。アレは辛かった。
「なあアグニ、出来ればもう一体のスパルトイを召喚する前に、少し僕のレベルを上げたいんだけど」
「ふむ、確かに主人の魔力量は人としては桁外れですが、某の様なスパルトイを召喚するにはギリギリでしたな」
「うん、また気を失うのは勘弁して欲しい」
魔力を枯渇するまで使用すると、魔力の総量が底上げされるらしいのだけど。あの気持ちの悪さを何度も経験したくない。
アグニに連れられ龍の墓場から近い場所で、僕の食料確保を兼ねた魔物討伐を三日間続けた。
アグニが弱らせた魔物を僕がダークランスや土蜘蛛の力でトドメをさす。それを繰り返しレベルを上げていった。
この龍の墓場近くに棲む魔物は、強力な個体が多く、誕生した時点で高レベルだったアグニまで何度かレベルが上がる程だった。
ヴォンッ! ギャアァァァァァァ!!
アグニが龍牙大剣を振るうと体長5メートルはあるサイクロプスの脚が切断され地に伏せる。そこに僕のダークランスがサイクロプスの喉に突き刺さると、サイクロプスの単眼の光は消えた。
「グッ、けっこう階位が上がったみたい。もう大丈夫かな」
「では新たな龍牙兵を召喚しに参りましょう」
身体の熱さで、高いレベルの魔物を倒した事で、僕のレベルが上昇したのを実感する。
何度ものレベルアップを経験した事で気がついたんだけど、最初の頃の強烈な体が焼けるような熱さは、一度に幾つもの階位が上がったからみたいだ。一つや二つ階位が上がるだけなら、少し身体が熱いかなってくらいにしか感じない事が分かった。
アグニが集めた龍の牙、爪、骨、鱗、魔石、プレートメイル、ラウンドシールドにロングソードが一振りが一纏めにされている。例によって、この武具は龍の墓場を目指し、志半ばで倒れた英雄の持ち物だった。
僕はその前に立ち、深呼吸をして精神を集中させるとウロボロスの神印に魔力を流し闇属性魔法を発動させる。
「サモン、スケルトン!」
アグニの時と同じように、身体からもの凄い勢いで魔力が大量に出て行くけど、階位が上がったお陰で耐えられない程じゃない。
素材となった牙、爪、骨や鱗、魔石と武具が光に包まれ融合していき、光の中から身長180センチ位の漆黒の鎧に身を包み、青味がかった刀身のロングソードと、ラウンドシールドを装備したスパルトイが現れた。
「ご主人のお呼びにより参上致しました」
新しく召喚されたスパルトイが片膝をついて挨拶してきた。アグニと比べて声が高い。
「#主人__アルジ__#、名を付けてやってくれんか」
「うん、ちょっと待ってね。今考えるから」
アグニに促され、名を考える為にスパルトイをよく見てみる。
漆黒の鎧はアグニとは違い青い縁取りで、アグニとは鎧の形も違う。その流麗な曲線から、僕はある事に気がつく。
「あれ? ひょっとして女の人なの?」
「はい、私は雌の氷龍から生まれしスパルトイです」
「そ、そうなんだ」
どうりで鎧のラインが女性らしい曲線を描いている。ヘルムの角は、二本横に伸びたアグニとは違って額から一本前に伸びている。ロングソードの刀身は凍えるような魔力を纏っているのが分かる。
スパルトイの名前を考えている間に、僕の魔力も少し回復してきた。
「うん、決めた。君の名前はヴァルナだ」
僕の内なるもう一人の記憶と知識から古い水の神の名を付ける。
名付けの影響で再び魔力を大量に消費したけど、何とか枯渇ギリギリで気絶をまぬがれた。この事で、レベルアップのお陰で僕の魔力量は、アグニを召喚した時と比べ、倍以上になっている事が確認できた。
「ありがとうございます。ヴァルナは、ご主人の剣となり盾となり、御身に立ち塞がる全てのモノを滅しましょう」
「ありがとうヴァルナ。僕の名前は「シグフリート様ですね」……うん、そう」
僕が召喚して生み出されたヴァルナやアグニには、僕の知識と素材となった龍の記憶と知識が宿っている。
「うん、だからシグでいいよ」
「ではシグ様と」
「某は、今まで通り主人(アルジ)と呼ばせて頂く」
「アグニ、ヴァルナ、よろしく頼むよ」
「主人のご母堂様を弑した奴等を滅するまで」
「シグ様の矛となり盾となりましょう」
こうして僕とスパルトイ二人との生活が始まった。
いつの日か、母さまの無念を晴らしてやる。
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