第418話 末姫さまの思い出語り・その24
ある日の宰相府の朝礼。
「全員そろっていますね。今日もしっかりと頑張りましょう」
「宰相殿下、お嬢、見習いが一人来ておりません」
女帝陛下の夫。
皇配の宰相殿下があからさまに顔を曇らせる。
「それは問題ありま・・・問題ありまくりです」
「・・・殿下 ? 」
「女帝陛下から叱責されました。宰相府の勤務状況はどうなっているのかと」
◎
『成人の儀』。
十六才になった貴族令嬢が、成人女性としてお披露目される場。
年に一度の晴れの日なので、該当者は一ヵ月くらい前から体調を整えてピカピカに磨かれる。
なのに私ときたら連日の激務でヘロヘロだ。
「マックス君、これは一体どういうことかしら。あなた、姪を殺す気 ? 」
「そんなつもりはありません、姉上。私だって休みを取らせてあげたいですよ。でも、彼女がいないと一日だって保たないんです !」
私の目の下に盛大な隈を見つけた母が、ついに宰相で皇配である叔父にかみついた。
皇族の住居である御所。
仕事中に呼び出されて急いで向かうと、そこには正座されられた叔父とソファーに座って黒い物を纏っている母がいた。
本番二週間前である。
「よそ様のご令嬢は完璧に仕上げてきていると言うのに ! 御三家の、筆頭成人令嬢である
ロザリンデちゃんとは女帝陛下のお名前だ。
私の叔母でもある。
「朝食にも夕食にも出てこないと思ったら王城に泊まり込み。若い娘が殿方に交じって当直室で雑魚寝なんて ! 」
「させてませんよ ! ちゃんと御所に彼女の部屋を用意しています ! 」
「ではこの有様は何 ?! 御所侍女はちゃんと仕事をしているのかしら ! どう見てもおかしいでしょう ! 」
まさか侍女に嫌がらせをされているのではないでしょうね ?
母に睨まれた叔父の後ろに並ぶ御所侍女の皆さんの顔は青い。
「お母様、私、ちゃんとお世話されてます。ただお仕事が終わるのが深夜なので、侍女の皆さんは退勤されているんです。朝も夜明け前に出てしまうので皆さんがお仕事をする暇がないんです」
「それでも一人か二人が朝まで待機するものです。
母にまとわりついていた黒い物が、ズズッと叔父と侍女たちの周りを囲む。
「こんなにやつれて痩せ細って・・・。娘は連れて帰ります。二度と御所には入れさせません。そして今後ダルヴィマール家から侍女も侍従も出向させません。王城勤務の者は本日をもって引き上げさせていただきます ! 」
「そんな ! そんなことをされたら『成人の儀』も『春の大夜会』も ! 」
「自業自得でしょう !
黒いモヤモヤに囲まれて身動きできないみんなを横目に、母は私を引きずって意気揚々と帰宅した。
父は仕事中なので置いていった。
◎
「持って参りました」
宰相府付きの侍従たちが運んできたのは大量の書類の束。
「驚きました。君たちは彼女になんでこんなに仕事を押し付けていたのですか」
「いや、それは全て見習いがやる仕事で・・・」
「見習いが彼女一人なのを忘れていませんか。彼女には彼女にしか出来ない仕事もあったのです。その仕事をこなしながらこんな大量の書類を。一人一人が頼んだ物は少なくても、全員になればとんでもない量になるのは当然でしょう。あなた方はそんなこともわからない愚か者だったのですか」
まあ、いいでしょうと宰相はため息をついた。
「彼女は成人の儀の翌日まで出仕しません。この書類は自分たちで処理しなさい」
「そんな、年度終わりまで二週間しかありません ! 」
「この量を彼女は一人で抱えていました。全員が自分の分を持ち帰れば良いだけです。そして女帝陛下からは、三か月の減棒、児童虐待で投獄、宰相府からの移動、好きなものを選べとのことです」
児童虐待 ?
そんなことをした者がいただろうか。
職員一同が顔を見合わせる。
「・・・宰相府の見習いは半年。彼女がなぜ何年も見習いのままでいたのか考えませんでしたか ? 」
「それは、正規職員になるだけの力がなかったからでは ? 」
「バカですか。実力のない者をいつまでも所属させておくわけがないでしょう。彼女が未成年で正規雇用が出来なかったからです」
みなし成人の見習いという立場で難しい仕事を受けてもらっていたのに、こんな仕事を押し付けて。
宰相は並んだ職員たちを忌々し気に睨み付ける。
「見習いとして配属された時、彼女はまだ十三でした」
「え ?! 」
「成人の儀をもって正規職員になります」
職員たちは一斉に青ざめた。
見習いメイドの制服で童顔だと思っていたのだ。
いい年をして若作りと陰で笑っていた者もいる。
まさか本当に子供だったとは。
「未成年でありながら採用したのは、他の部署に持っていかれないよう確保しておきたかったからです。彼女はあなた方が手掛けるよりも難しい案件をいくつも解決した。本来こんな
さあ、選びなさい。
減棒、投獄、移動。
どれがいいですか ?
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