第404話 末姫さまの思い出語り・その13

「強制力 ? 聞いたことがないが、なんなんだ ? 」

「そのままの意味です。行動や出来事を強制的に起こさせる力です」


 魔法 ?

 違うのかな ?

 ディーおじ様が私をチラッと見た。


「『大崩壊』で眠れる神が目覚められたことで、我らは女神からこの世界を取り戻したと思っていました。もう干渉されることはないと。だがそれは勘違いだったようです」

「勘違いとは ? 」

「続きがあったのですよ、アレの」


 おじ様は机に出した本のうちの一冊を取り上げ、しおりを挟んだページを開いた。


「私たちは正直アレにもう関わりたくなかった。なので一切情報を遮断していました。知ってしまったらまた色々とやらされるのではないかと心配で」

「あ、はい。私たちもです。絶対にその手の仕事を受けないようにってマネージャーさんにお願いしていました」


 母が父にそうよねと言う。

 父もおじ様にそうだと頷く。


「私たちは『ネクスト』で完結したと思っていました。ですが、あまりに人気が出たために、いくつかの新作が作られていました。この調査はマールが引き受けてくれました。助かったぞ、マール」

「恐れ入ります」


  お茶の支度をしていたマールが小さく頭を下げる。


「その中の一つが他国からの陰謀物です。これは時期的には『夜の女王のアリア』事件の後になります」


 開かれたその本には、先月まで通っていた王立精華女学院の絵が描かれていた。

 その前にはどこかで見たような人たちの姿絵が。


「あの、もしかして、これって・・・」

末姫すえひめちゃん、今日は聞いているだけでしょう ? 」


 母が口に指をあててシーっと言う。

 そうだ。

 黙って聞いているだけって言われていた。


「これは『ネクスト』の続きで、王都の平和を取り戻したヒロインが、いよいよ女学院に入学して同年代の令嬢と友情を育むはずが、学院内に隠された陰謀を暴く物語になっています」


 仲間は教師や侍女として潜入。

 横領や成績改ざん、賄賂や虐待にも似た授業。

 一見穏やかに過ぎる学生生活の裏を、ヒロインは一つずつ暴いていく。

 そしてその悪の大本が他国の政府であることを突き止めるのだ。


「令嬢たちを低いレベルに育て上げ、優秀な貴族を減らす。長期計画での国の弱体化、そして乗っ取りを計画していました」

「弱体化と乗っ取り ? 」

「遥か昔に似たような言葉を聞いた覚えがあるのだけど」


 ディーおじ様はもう一つの本を開く。


「それは皆様が解決された『奴隷解放運動』ですね。この物語ではそれが発端となっています。ヒロインは前作の恨みで学院でいじめられるんですよ」


『エリカノーマ・コンクルシオ 出会いは春の嵐のように』


 開かれたページにはそう書かれている。

 冒険者姿の男女四人が描かれている。

 今の絵画界では少数派だが若い人の間で人気のある『動画派』と言われる絵だ。

 正統派に比べて顔や手足を誇張して書き、躍動感があるのが特徴だ。


「ギルドの案内人たちの断罪劇。それもイベントとして存在しました。お二人はその選択肢のままに行動されていたのです。つまり、ゲームの強制力に従わされたということです」

「そんな・・・。あたしたちはその時その時で一生懸命に生きてきただけなのに」

「でもエリカ、あの時の出来事はあまりに早く進み過ぎていたわ。わたくしだってあの愚行がなければ信じたくないけれど」


 おばあ様と上皇后陛下の顔色が悪い。

 マールがどうぞとお茶を差し出す。


「さて、ここで問題です。女学院は十才から。成人の儀の終わったヒロインは入学出来るはずもない。こちらでは『大崩壊』もあって誰も女学院について考えもしなかった。ですが私たちは気づいてしまった」

「ええ。最初に気づいたのはエイヴァンですけど」


 スケルシュのおば様が本のように閉じられた紙の束を取り出した。


「まずは春の大夜会で騒ぎを起こした夫人たち。次にお茶会や夜会。西の使節の歓迎の夜会。前年に比べて注意しなければならない婦人が多すぎました。ことごとく低位貴族の夫人と令嬢。たまに伯爵位。そしてそのほとんどが女学院出身」


 お庭番によってこっそり回収された卒業生名簿。

 そこから数十年分の記録を総ざらいしたそうだ。

 宗秩そうちつ省職員の皆さん、お疲れさまでした。


「ここまで長期で間違った教育がされていて、誰も気付かないはずがない。学校ぐるみにしても隠ぺいされ過ぎている。その時に例の『奴隷解放運動』を思い出したのです。キーワードが同じだと」


 国の弱体化。

 そして長い長い調査が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る