第343話 復興への足取り

 それからは忙しい日々が続いた。

 待機していた建築ギルドと工兵の皆さんは、城下町の道や建物の修復を急ピッチで行った。

 最初に城壁を破られたシジル地区は壊滅状態だった。

 まずそちらから手を付けようとしたら、シジル地区の顔役であるギルマスから待ったがかかった。


「完全に壊れた物を元に戻すには時間も手間もかかる。ならまだ被害がマシな城下町を優先してくれ。俺たちならダルヴィマール侯爵邸で雨露凌げるから、帰れる奴を早く家に帰してやってくれ」


 地区の住人と話し合った結果だそうだ。

 もちろんお父様はシジル地区が復興するまで避難所は閉鎖しないと約束してくれている。


「どうせここまですっきり無くなっちまったんだ。みんなで相談して新しく住みやすい街を作るさ」


 自分たちの住む街は破壊されたのに、今まで蔑み虐げていた城下町のことを考えてくれたとシジル地区の評判はうなぎ登りだ。

 やることもないからと男衆おとこしががれき撤去を率先してやったのもある。

 私はと言うと一人で城壁修理をしている。

 王都の地下にはなんと、縦横無尽に秘密の通路が走っていた。

 王都の全域をカバーするその通路は、トロッコを使って迅速に移動できるという優れものだ。

 高価な美術品などが隠されているのもここだ。

 ついでにシジル地区の皆さんの家財道具なんかもここに集められている。

 この地下通路を管理しているのがお母様と皇后陛下なので、結婚前にとてもお世話になったのもあって思いっきり身内贔屓をしたそうだ。


「シジル地区って嫌われてるでしょう ? 生活必要品をもう一度集めようと思ったら大変なの。どれも代々大切に使われてきたものなのよ」


 粗悪品を高額で売りつけられたり薬を売ってもらえなかったり。

 そういう歴史があるからこその必要処置だとお母様は言う。

 けれど、この『大崩壊』を通じて少しづつその差別も薄まりつつあるのも事実だ。

 王都では新しい歴史が始まろうとしている。


「でね、秘密の通路のことはあまり知られたくないの。非常事態だから避難につかったけどね。ほら、ルチアちゃんってば土を扱う魔法が得意じゃない ? 」


 お母様と皇后陛下に頼まれて、壊れた個所に目隠しの布を張り、城壁の内側から修復していく。

 石積みにはせずモルタルを使う。コンクリートはまだ開発されていないし、これからも現れない予定だから。

 芯には竹を組んだ物を入れて補強する。

『前と後』の番組見ていてよかったな。

 仕上げはお城の庭園管理部造園課のお庭番の皆さんが石を張り付けて石積みに見えるようにしてくれるそうだ。

 お庭番って言ったら間諜スパイが本業だと思ってたんだけど。


「庭仕事が出来てこそのお庭番スパイです」

「一流の庭師でなければお庭番スパイは務まりません」


 なんか、違うような気もするけれど、お母様は笑顔で「次はあなたが取り仕切るのよ」と言い、お父様は「彼らはアンナとエリカの私兵になってるから」と溜息をついた。

 お母様たちには謎が多い。



 王都が少しずつ落ち着いた頃、色々な噂が飛び交った。

 まず伝説の冒険者デュオの正体が皇帝ご夫妻と宰相夫妻だったこと。

 数十年振りの数字持ちがルチア姫の親戚だったこと。

 それらはそのうち正確な情報として瓦版工房に依頼を出すけれど、今のところは噂の域でしかない。

 そして兄様たちに新たな二つ名がついた。

 ルチア姫の近侍は『黒衣の悪魔ブラック・デビルズ』と呼ばれていたけれど、今は『ダルヴィマールの三貴人』と変わっている。

 民を守り王都を守り主を守った侍従の鏡と言うことらしい。

 そして冒険者としてのエイヴァン兄様は魔王の兄なので『大魔王』に、ディードリッヒ兄様は長い髪をなびかせて戦う姿から『暁の旋風かぜ』。

 アルは隙を見ては皆さんの怪我を直していたので『無声むしょうの治癒師』と言う二つ名をもらった。

 アンシアちゃんは今まで通り『迷子のアンシア』。

 戦っているうちに道に迷って、なぜか危ない目にあってる騎士様や冒険者さんを助けて回っていたと言う。

 その度に「ルチアお嬢様はどこですかー ! 」と叫びながら指示されたのと正反対の方向に走っていたのを見られていた。

 私の『二代目』と『白銀の魔女』はそのままだ。

 消えて欲しかったな、『二代目』。

 ルチア姫はまだ寝込んだままだ。



『大崩壊』の人的被害。

 やはり何人かは名誉の戦死を遂げている。

 特に赤の狼煙の地帯は各村や町で数人ずつが犠牲になった。

 魔物を王都に近づけまいと無理をしたらしい。

 皇后陛下は「だからあれほど言ったのに」と扇子の陰に顔を隠した。

 行方不明者の中にはルゥガさんの名前もあったのだ。

 もっとも彼はベナンダンティだから、そのうち戻ってくるんじゃないだろうか。


 でも、ラーレさんは戻って来なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る