第85話 いざ 起て ヒルデブランドの強者よ !

八月にスタートして、なんとか半年続けられました。

無事に新しい年を向かえることが出来ますのは、読んで下さる皆様のおかげです。

この後お休みをいただきまして、次回は一月三日の朝を予定しております。

皆様もどうぞよいお年をお迎えください。

それでは大掃除とおせち作りに参戦してまいります。


========================================


「え、えっと、すまなかった」

「申し訳ない。年甲斐もなく怯えてしまった」


 いい年した殿方が一斉に頭を下げる。

 まあ、あの状態を誰かに見られたら集団暴〇と見られてもしょうがない。貸しを作っておくことにする。


「もういいです。今度は黙って触れないでくださいね。それよりも気になることがあるんです」


 アンシアちゃんを探していた私だけど、もう一つ、なんだか嫌な反応を見つけていた。


「アンシアちゃんから離れたところにですけど、変な集団がいるんです」

「変な集団 ?」


 指示を出しにいこうとした市警長と警備隊長が扉のところで止まる。


「人間じゃないと思います。でも百以上の集団で行動しています。ピンクウサギはもういないから、それ以外の何かだとは思うのですけど」

「・・・まさか、一角猪 ?」

「もう一回見に行きましょうか ?」

「・・・いや、いい」


 え、別に私だけで行けば良いだけの話なんだけど。

 でも全員プルプルプルと首を振って止めさせようとする。

 なんでだろう。

 とにかく場所は確定された。

 アンシアちゃんは結構堅実な方だから、ボーっとしていなければ、ちゃんと道なりにいくはず。

 その場でショートカットする班と道を行く班をわけられる。

 冒険者と警備隊はショートカット。

 常駐騎士団は道を騎馬で進む。

 市警おまわりさんの皆さんは、人手の少なくなった警備隊の補助をする。

 私は兄様やアルと共に、一直線にアンシアちゃんのところに行く。

 装備を確認する。

 この間お取り寄せした真剣のついた長刀。

 冒険者の袋に入っていてすぐに出せるようにする。

 でも森の中では邪魔になるだけだ。

 取り扱いも慣れていないので、できれば出さずに済ませたい。


 西の門に到着するとなぜかご老公様がいる。


「各上部から説明があったと思うが、今回の合同訓練は迷子の確保。迷子の居場所は判明しているが、相手は一筋縄ではいかぬ方向音痴じゃ。またどこぞへ移動しておるやもしれん。その辺りを考えてよく連携して対処してくれ。また今年は一角猪を誘導せずともよい。見つけたらその場で討伐せよ。では諸君らの健闘を祈る !」


 そうか。たった一人の迷子のために動かせないから、合同訓練ということにしたのか。

 各集団がざわざわと動き出す中、私はご老公様に駆け寄る。


「ご老公様 !」

「おお、ルー嬢ちゃんか。小娘がまたぞろやらかしたそうじゃのう」


 小娘。ご老公様はアンシアちゃんをそう呼ぶ。別に小っちゃくないけど。


「嬢ちゃんも苦労するのう。面倒ごとにばかり巻き込まれて」

「そんな。半分は私の責任です。しっかり指導できないから。アンシアちゃんは頑張り屋さんのいい子です。ちょっと時々違う方向に行ってしまうだけで」

「街の外にまで迷い出るのはちょっととは言わんぞ」


 うーん、確かにそうなんだけど。きっと考え事していて気が付かなかったのよね。うん、そうだ。


「ところで行かんと良いのか。皆、動き出しておるぞ」

「本当だ。急がなくちゃ。ご老公様、みんなを励ましてくださってありがとうございました。アンシアちゃんを無事に連れ帰ってきますね」

「お茶会の回数が減りまくっておるぞ。帰ってきたら顔をだしなさい」


 ご老公様に見送られて、私は兄様たちと森に入った。



 広めの道をポコポコ歩く。

 馬車がすれ違えるくらい広いから、多分ここは街に来る時に通った街道だ。

 でも、いつまでたっても森が終わらない。

 もしかして、街と反対方向に向かってたのかな。

 あたしは今来た道を戻ることにした。

 しばらく歩いていると、なんだか近くに変な雰囲気を感じる。

 旅人の感じはしないし、もちろん乗合馬車とかでもない。

 少し速足にしてみる。

 付いてくる。

 ゾクッとする。

 とにかく先を急ごうと足を前に出したとき、あたしは自分がぐるりと囲まれているのに気が付いた。

 角の生えた猪に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る