第24話 乾杯からの一気っ!

 アロイスと大男に連れられてランチをいただいたお店に入る。

 規模としてはファミレスの3ランク上あたりな感じ。

 超高級なお店ではないが、家族でキャイキャイ入るようなお店ではない。

 まして私の年では保護者なしでは入れない。そんなお店。

 外でランチをいただくのはいいけど、ディナー営業は無理だな。

 はっきり言って、場違いこの上ないが、大男は気にせず店の人に声をかける。


「いらっしゃいませ。お連れ様がお待ちです」


 ギャルソンが店の奥に案内してくれる。開けてくれた扉をくぐると、


「ギルマス、ご老公様!」

「やあ、早かったね。お疲れ様」


 個室にはアロイスの対番のディードリッヒ、ギルマスとご老公様が待っていた。


「どうしてお二人がここに? 今日は大男さんがご馳走してくれるってきいてきたんですが」

「大男って、君はまだ彼女に名乗っていなかったのかね?」

「いやあ、ついチャンスがなくて。エイヴァンだ」


 名乗りながら上座の椅子を引いてくれ、私が着席するとアルたちも椅子におさまる。

 私はご老公様の隣だ。


「この間の宴会には出られなかったからのう。個人的にルー嬢ちゃんを祝いたかったんじゃよ」


 あのあとエイヴァンたちをけん制するのにご自分の鼻にべったり口紅をつけたご老公様。

 しっかり塗りすぎてどうしても落ちきれなくて、執事のモーリスさんに外出禁止を言い渡されたのだとか。


「わしは別にかまわなかったんじゃが。話題作りになるし」


 そう言ってご老公様がパンパンと手を打つ。

 それを合図に全員のグラスにワインが配られる。


「では、僭越ながらわしが乾杯の音頭をとらせてもらおう。ルー嬢ちゃんの探索のチュートリアルと終了新記録の達成を祝って乾杯!」

「乾杯!」


 全員ググッとグラスをあける。横を見るとアロイスもだ。彼は成人しているのだろうか。私はこれを飲んでもいいのかな。


「飲みなさい。今日だけ解禁日だ」

「でも、私未成年ですよ。いいんですか」

「こちらじゃ立派な成人じゃ。それにこれにはちょっとわけがあるんじゃよ」


 ギルマスとご老公様に勧められ、私はちょこッと口をつけた。

 おいしい!


「ところでどうして皆さん集まられたんですか。お祝いは先日大宴会があったじゃないですか」

「エイヴァンは説明しなかったのかい。これは対番会だよ」


 対番会。

 それは対番の対番、その上の対番と、一人の対番から続くメンバーが集まって親交を深める飲み会のこと。

 普段は年に一度くらい行われるけれど、新しい不可が入ったときは、一つのチュートリアルが終わるごとに開かれる。


「前はすべてのチュートリアルを終えた時に開いてたんだかね。途中で挫折してしまう子もいたんで、次のチュートリアルの説明とかアドバイスなんかもするために行われるようになったんだ」

「至れり尽くせりですね。あの、アルの対番はディードリッヒさんですよね。ディードリッヒさんの対番は?」

「俺だ。俺の対番はギルマス」

「私の対番はご老公様だよ」

「ただし、わしが教わるほうじゃったがの」


 ご老公様より10は年下に見えるギルマスを、思わず見つめてしまう。

 ベナンダンティは本来の姿と違うとは聞いていたけど、ギルマス、一体あなた今おいくつなんですか。



 しばらく美味しい料理を堪能させていただいて、一息ついたところでギルマスがところでと言った。


「さて、ここにいるみんなが知っていることだが、ルーの身に困ったことが起きている」

「眠ることができないそうじゃの」

「ご老公様もご存知のように、我々ベナンダンティは現実世界で眠ることでここに来て、ここで眠ることによって現実世界で目がさめる。ここで眠ることができないルーは、現実世界では眠ったままだということになります」


 それはつまり点滴でも入れないと栄養が取れない。動かさないから筋肉が衰えていく。人間として非常に危ない状態になる。


「昨日一昨日とかなり動いて疲れているはずなのに、まったく眠気が来ないってのはヤバイんじゃないか」

「エイヴァン兄さん、向こうで無理やり寝かされているというのはないですかね」

「薬でも飲まされてか? そんなに長く眠らせられるような薬はないだろう。病院でもないかぎり」

「では自発的に眠っているとか」

「やめて。私どれだけ寝坊助なの」


 若者組でワイワイとああじゃないこうじゃないと言い合っている間、年寄組はもう少し落ち着いた雰囲気でグラスを傾けていた。


「どうしたものでしょうか」

「こればかりは寝てくれなければ現状がわからん。あちらがどうなっているのか、それがわかればなんとかしようもあるんじゃが」

「それは・・・現世での接触は基本禁止事項ですから」


 外から取り寄せの高めのワインを、ギルマスがご老公のグラスにそそぐ。


「あちらで寝ているとはいうが、どこで寝ているのかもわからん。家か、治療院か。一番怖いのは」

「どこか人に見つからないところで倒れている、ですね」

「しばらくは様子見として、わしも古い記録を調べてみよう。何かわかるかもしれん」

「お願いします。私たちは彼女が不安で潰されないようにします」


「だーかーらー、私、未成年~」

「ギルマスが今日だけ解禁日と言ったろう。飲め飲め」

「しっかり飲んで酔いつぶれるんだ。間違いなく眠れるぞ」

「兄さんたち、いい加減にして下さいよ!」


 酔いつぶれる? 本当だな? 本当に眠れるんだな?!

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