無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

@takadatakashi

一章 1 『転売できずに転移』

 「また負けたああぁぁぁぁーーーー!!!なんだよ!11月11日でゾロ目だからいけると思ったのによー・・」


そんな事を叫びながら、黒髪で前髪がボサボサになっている一人の男が肩を落としとぼとぼと歩いていた。


「はぁ・・・またやっちまった・・もうパチンコには行かないと決めていたのに給料が出たらすぐ

行ってしまうこの習性みたいのはどうにかならないもんかねぇ・・・」


「もう28にもなってまともな仕事にもつかず、アルバイトを転々として貯金もほとんどないし、特にイケメンでもないから彼女もずっーーーと出来ないしよぉ・・。」


 こんなくだらない愚痴をまるで呪文のようにブツブツと独り言を言ってるこの男名前を 多能 巧という。いかにも才能豊かでなんでも器用にこなしそうな名前だが特にこれといった一芸があるわけでもなく、嫌なことがあるとすぐ逃げ出すような性格のため、周りからは無能の匠なんてあだ名がつけられてしまうようなまさに絵に描いたようなダメ男である。


「ただいまーって家には待ってる人なんていないっつーの。まったくこんな生活いつまで続くんだよ・・はぁ・・まさか自分がこんな大人になるとは想像もつかなかったな。」


 タクミは築20年は超えているであろうアパートに帰り着くなり部屋の明かりもつけずに床にあぐらをかき、帰りに買ってきた缶ビールを手に取った。


  プシュッ・・ゴクッ・ゴクッ・ゴクッ・・・・


タクミはビールを開けるとそれを一気に飲み干した。


 「かぁーーーーっ!!負けた後に飲むビールもまた格別だっ!」


そんなどーしようもないことを言いながら、ビールを飲み干すともう長年替えられてないであろう畳にゴロンと横になった。


 「あーあ・・・俺はこのままこの部屋で孤独死でもしてしまうんだろうか・・・。子供の時はもっと希望に満ち溢れた世界が待ってるもんと思ってたんだがねー・・・。」


 もはや死人のような目をしているタクミが寝転んだままふとすこし開いている押し入れにに目線を送ると、そこには古びた段ボールが見えた。


 「あれっ、あの段ボールなんだっけか。・・そうだ!なんかリサイクルショップとかに売れるようなものねーかな!」


 なぜか急に段ボールに対して希望をみなぎらせたタクミは急いで起き上がり、押し入れを勢いよく開け、段ボールを引っ張り出した。


「さぁーて、お宝はあるかねー!?」


 そう言いながら、タクミは勢いよく段ボールを開けた。しかしあっさりと希望は絶たれた。


 そこには、実家から持って来ていた小さい時のアルバムや卒業文集やらがほこりをかぶった状態で無造作に入れられていた。


 「なんだこれ、俺こんなもん持って来てたっけか? ・・ってか!こんなもんどこにも売れるかーーーっ!!」


 わずかなしょーもない期待を裏切られたタクミは、段ボールの中の一冊の本を壁に投げつけた。


 パサッ!!


 投げつけられた本が音を立て畳に落ちる。それはタクミの小学生時代の卒業文集だった。


 「まったくなんでこんなもんが俺の家にあるんだよ・・こんなもん実家から持ってきた記憶もないぞ。」


 「あーー、小学校の卒業文集か・・そういえばこの時は将来の夢とか書かされたっけか。俺小学校のときはどんなこと書いてたんだ?」


  タクミはさっき投げつけた本を手にとって自分の書いたページを探し始めた。


 「えっーーと・・・俺の書いたページ・・・ページ・・・おっ!あった!あった!。どれどれ・・・」



                 ~~~将来の夢~~~

 6年2組 多能 巧



  ぼくの、しょうらいの夢はプロ野球せんしゅになることです!プロ野球せんしゅになっていっぱーーいホームランを打って活やくしていつかはメジャーリーグにいってそこでもホームランを打ちまくってMVPにえらばれるようなせんしゅになりたいです!そしてきれいな奥さんとケッコンして子どもは3人くらいほしいとおもいます!それから・・・・・。



 そこには幼い時の、まさに夢と希望に満ち溢れている文章が書き綴られていた。


 「なんだよこれ・・いくら小学生でも夢大きすぎだろうよっ!プロ野球選手!?今の俺にそんな要素何一つないぞ!きれいな奥さん!?彼女だって出来たことないっつーの!! くそっ!!」


 タクミは興奮して、また手に持っていた文集を壁に投げつけた。


 「小学生の時からこんな叶うわけもない夢なんて見てるからこんなろくでもない大人になっちまうんだよ。あーあ、こんなもん見てしまってなんか無性にむなしくなっちまったな。・・・今日はやけ酒でもして寝ちまおう。」


 そう言いながら立ち上がり、タクミは冷蔵庫を開けた。 だが冷蔵庫には酒は入ってなく、つまみになるようなものもなかった。


 「あーー!くそっ!こういう時に限ってなんでなんもねぇーんだよ!ったく、しょうがねぇからコンビニでも買いに行くか・・。ちょうどまだ着替えてないしな。」


 タクミはジーパンに長袖のポロシャツの格好でまた外に出た。


「っくし!!あーさすがにこの時間になると寒くなってきたな。もうちょっと厚着してくればよかったかな。」


 少し肌寒い風が吹く。時刻は11時を過ぎたところだった。


「さてと俺の家からコンビニまで地味に遠いんだよなー。寒いからさっさと買い物済ませて帰ろっ!」


 タクミは歩くスピードを速めようとした時だった。


  クーン・・・


  ふと動物の鳴き声が聞こえた。聞こえるというよりも心に直接響いてくる感覚だった。鳴き声がした方に視線を送ると、そこには真っ白い猫が現れていた。周りは街灯も少なく暗いというのにやけにはっきりと猫の姿だけははっきりと見えた。


「なんだ?この猫?なんかみたことない種類の猫だな。てか気のせいかなんか光ってねぇ??」


 タクミが目を凝らすとそれは最初は猫の姿に見えたが、尻尾は猫より長く瞳はなんだか緑色のように見える。なぜか暗闇なのだが瞳ははっきりと見える。背中にはなんだか羽を折りたたんでいるかのような姿をしていた。そして鳴き声が猫のものとはあきらかに違っていた。


 うわっ・・なにこいつ・・・なんかこいつ変な感じがするぞ・・・ 


 タクミがなんだか嫌な感じに襲われたときであった。その猫のような謎の生き物と目が合ってしまった。


 その緑色の瞳を見た瞬間に、その生き物に吸い込まれるような感覚に襲われ次の瞬間にはタクミは一瞬で視界を奪われてしまった。 


 「なっ!?・・まぶしいっ!!!」


 タクミの目の前をまばゆい光が包み込んだ。


「・・・・・っつ、なんだよ。今のは何だったんだよ・・。」


 タクミの視界が徐々に回復してきた。回復してきた視界には自分の足元が映っている。そこに映っていたのは自分の両足だったが、明らかに地面が違っていた。

さっきまでは、アスファルトの上を歩いていたはずなのに、今は赤茶色の土の上に立っていた。目線を上げていくとそこにはさっきまであった満月はなく青空が広がっていた。なんと昼間になっていたのである。そしてそこにさっきの生き物はいなかった。


 そして、自分の置かれている状況を把握してきてタクミは焦りを隠しきれなかった。


 「なんだよ・・・ここ。どこだよ・・・え?さっきまで夜の道をあるいていたよな?・・は?」


 完全にタクミは動揺していた。まわりを見渡してもあきらかに景色は変わっていて、辺り一面が見たことないものになっていた。この景色で変わってないのはタクミのジーパンと長袖のポロシャツだけであった。


「どこなんだよ!?ここはーーー!!!」


 タクミは空を見上げて叫んだ。そこにはオレンジ色の太陽と見慣れぬ緑の月のようなものがあった。

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