第490話
「何のつもりだ‼︎」
「賢すぎるからですかねぇ?」
「な・・・?」
「それとも、立場故の圧倒的な実戦経験の少なさか?」
「・・・っ⁈」
ムドレーツの言葉に、ユーラーレはやっと察したらしい。
「神に背くつもりか‼︎」
「いえいえ、私の神は貴方の其れとは違いますよ」
ユーラーレは、どうにか自身を落ち着け、ムドレーツへと構える。
(神が違うか・・・)
そんな、ユーラーレに応えたムドレーツの言葉は、奴の立ち位置を示すものといって良いもので、タブラ・ナウティカの衛兵達はオーケアヌスとアクアの守りをより強固にした。
(彼等でも二人を守れるか?)
他国のものとはいえ、流石に俺の目の前で王族に何かあるのはまずい。
(アクアは力を受け継いでいる筈だし、オーケアヌスはその親なのだから、ある程度は自身を守れる筈だが・・・?)
俺が心配から二人への視線を外せないでいると・・・。
「・・・っ」
視界に入って来たのはブラートで、此方を見て静かに頷いて来た。
(・・・助かるなぁ)
そんな安堵を感じつつ、俺は礼の目線をブラートへと送り、ムドレーツへと向き直った。
「此方は準備万全ですか」
「さてな?」
「ひっひっひっ、釣れないお方だ」
俺の気配を感じ背中で応えて来たムドレーツだったが・・・。
「然し、今暫くお待ち下さい」
「・・・」
「此の方々を、先に終わらせてしまいましょう?」
「何を・・・‼︎」
俺に同意を求める様にして来たムドレーツを、ユーラーレは唇を震わせながら見据えた。
(ユーラーレを優先という事は、ヴィエーラ教自体は守人のものにはなっていないのか?其れともその中での揉め事で、此処でユーラーレを消すつもりなのか?)
前者の場合は、此処で余計な情報を与えたく無いし、後者なら何が原因かは気になる。
(ユーラーレの反応を見るに、前者の可能性大なのだが・・・)
「動かない方がいいですよ?」
「・・・そうかい?」
「ひっひっひっ・・・、ええ」
従う必要は無いが、ユーラーレを助ける必要もない。
優先すべきはオーケアヌス達の避難であり、次いでムドレーツの拘束、または処分。
「其れをさせる訳にはいきません」
「・・・」
「此方は手早く済ませましょう」
俺の狙いは分かり易いもので、其れ位ならムドレーツも読み切ってるだろう。
構えを取りながら、警戒を続けながらもアイテムポーチへと触れたムドレーツ。
(未だ、魔力の流れが増す事は無い。此奴は何かしらの得物で闘うタイプか?)
その体格からは想像し難い事だが、俺は詠唱の準備と朔夜を取り出す為にアイテムポーチへと手を添える。
「ひっひっひっ」
此れから戦闘開始だというのに、変わらず気色の悪い笑みを浮かべるムドレーツ。
「さてはて・・・」
「あれは・・・?」
そんな余裕の様子のムドレーツの取り出したのは、何の変哲も無い掌より少し大きな鉄製と思われる箱。
(鈍器では無いだろうし、爆発物的な物か?)
或いは、遠距離に何かを発射する武器の可能性もあるが・・・。
「では、篤と御拝見を・・・」
「・・・っ⁈」
鉄製と思っていた箱は、紙では無いがかなり柔い素材だったらしく、ムドレーツは其れを引き千切り地面へと投げ捨てると、其処を中心に巨大な魔法陣が描かれ、強烈な発光が周囲を眩い光で包んでしまう。
(閃光弾か⁈)
目眩しのマジックアイテムと判断し、耳に魔力を注ぎ動きを探るが、足音は聞こえて来ない。
「司ぁ‼︎」
「無事です‼︎」
「此方もだ‼︎」
声で俺とブラートが互いの無事を確認し合った・・・、刹那。
「がっっっ‼︎」
「がぁぁぁ‼︎」
「ぐっ‼︎」
耳に飛び込んで来たの、聖堂騎士団の団員達の苦痛を示す絶叫。
(何が・・・)
俺が頭を過ぎる疑問の声を、実際に漏らす前に徐々に光は収まり、視界が回復して来る。
「な・・・?」
すると、俺の瞳に飛び込んで来たのは、先程絶叫していた団員達が串刺しになり、絶命した姿と・・・。
「何故、此処に此奴が・・・」
「ああ、そういえば初めてでは有りませんでしたね?」
「ムドレーツ・・・、お前‼︎」
「ひっひっひっ」
団員達を串刺しにした存在に、驚きの声を漏らす俺に、面白そうにしているムドレーツ。
「魔導巨兵・・・」
其処には、アッテンテーターで激戦を繰り広げた魔導巨兵が現れていたのだった。
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