第469話


「じゃあ・・・?」

「創造主が此の世界を創造した時、先ず最初に生み出したのが神だ」

「・・・」

「其の神に、自らの持つ力の一部であるヒトを生み出す力を与えたのだ」


 その話はラプラスに聞いていたが、確か因子を持つというだけで、粗悪な劣化品しか無理という話だったが・・・。


「その力によって神は、最初の人族を生み出し、現在の世界を形成したのだ」

「でも、神は因子を持つだけでは?」

「ほお?其れはヴァダーから?」

「いや、知り合いに魔人が居まして・・・」


 俺の発言に驚いた様な、感心した様な反応をみせたオーケアヌス。

 ヴァダーからの情報で無い事を告げると・・・。


「どの様な者かな?」

「えぇ。ラプラスという魔人なのですけど・・・」

「おお。奴も復活していたのか」


 その表情を綻ばせたオーケアヌスに、害意を抱く相手では無いと理解し・・・。


「知り合いなのですか?」

「うむ、奴もまた守人と闘う者。我等と根本の目的は同じだからな」

「なるほど」

「本当に、懐かしい名だ・・・」


 目尻に光るものを見せたオーケアヌス。

 対照的にアクアはというと・・・。


「あの変態魔人は今何処に居るの?」

「俺の婿入りしたリアタフテ家の領内のダンジョンに居るよ」

「うわぁっ。リアタフテとラプラスの組み合わせなんて、最悪じゃない」

「・・・」


 眉をひそめて、悪態を吐き捨てていた。


(まぁ、変態ってのは別に否定する必要も無いが、過去のリアタフテもヴァダー曰く好色だったらしいから、アクアから見ると嫌悪感もあるのだろう)


 ただ、それでも守人や楽園の住人の話をする時と比べれば、其処迄酷い反応では無いのだが・・・。


「会ってみたいものだな」

「奴はダンジョンから出ないので、会いに行く必要があるでしょうけど」

「うむ。可能かな?」

「勿論です。ただ、サンクテュエールと我が陛下と、先ずは会談の必要が有りますけど」

「そうか。・・・良かろう」

「ありがとうございます」


 話の流れで、上手い事会談の開催を承認させた俺は、心の中でガッツポーズを作った。

 ただ、今は神の話の途中で、その事の情報を得る必要が有る。


「それで、因子しか無い神が、何故人族を生み出せたのですか?」

「因子のみで生み出したのだ」

「でも、それでは・・・」

「劣悪な粗悪品しか生み出せぬか?」

「・・・っ」


 対面した時には、特段のものを感じなかったオーケアヌスの双眸に、思わず身体を強張らせてしまう程の鋭い光が見える。


(だが、その内容に怒りを覚えるって事は・・・)


「まあ、事実として我等は、楽園の住人達の様に、全ての者が魔法を使える訳では無いし、魔流脈ですら弱い者が多いがな」

「でも、それは最初から・・・」

「そうだ。其れが創造主の狙いだったと思う」

「自身の生み出して無い者なら、殺そうと犯そうとも構わないって事ですか?」

「・・・だろうな」


 短く俺の発言を肯定したオーケアヌス。

 その声から、逆に感情を読み取る事が出来なかった。


(ただ、其れ等の事を考えると、創造主にとって楽園の住人達は、可愛い我が子の様な存在なのだろうか?)


「でも、そう考えると追放者っていうのは?」

「どうかしたのか?」

「ええ。何故、楽園の住人を創造主が追放したのか気になりまして」

「うむ。それは、救世主様の存在があるだろう」

「救世主様?」

「うむ、楽園の禁忌を犯し、我等に救いを与える為に、此のザブル・ジャーチへと降りて来た方だ」


 オーケアヌスの言う救世主とは、ラプラスの言っていたヒトを創り出している女の事だろう。


「その救世主様は、どうして人族を助け様と思ったのでしょう?」

「さてな・・・。儂もお会いした事は無いし、追放者も殆どが会った事が無いからな」

「ヴァダーは?」

「直接は無いと言っていたな」

「直接は?」

「うむ。救世主様から魔法による連絡は有るらしい」

「そんな、魔法が・・・」

「まあ、儂も起きたばかりだし、その間に会った可能性も有るがな」

「私は有るけどね」

「え?アクア?」


 突然、隣で得意げな表情を浮かべ、此方を見上げて来るアクア。


「本当なのか?」

「ええ。秘術の儀式を終えた夜、夢の中でね」

「どんな事を話したんだ?」

「祝いの言葉を頂いたのよ」

「どんな人だった?」

「う〜ん、姿は見えた様で見えて無いのよ。ハッキリしないというか・・・」

「そうか・・・」


 夢の中というのがハッキリしない理由の感じがして、少し微妙な感じだったが、とりあえず救世主の情報は、ヴァダーの目覚める一月後を待つしか無いと納得するのだった。

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