第368話


「そういえば、エヴェック様」

「どうかしたかの?」

「実はルグーンの事なのですが・・・」

「・・・ふむ」


 俺はエヴェックと落ち着いて話せる良い機会に、ルグーンの事について聞いておく事にした。


「ルグーンはディシプルの内乱の時、間違いなくサンクテュエール軍に捕らわれ、其処で自害しました」

「うむ・・・」

「その後王都で司法解剖を受け、確実に死亡が確認されました」

「そうじゃの」

「遺体は未だ王都に保管されています」

「ふむ・・・」

「ですが、レイノで我々の前に再び現れました」

「・・・」


 正確には飛龍の巣で再会しているのだが、問題は其処ではない。


「ヴィエーラ教には蘇生術が伝わっているのですか?」

「・・・」

「エヴェック様」

「いや、それは有り得ぬの」

「・・・」

「人の生の理に反する術は聞いた事が無い・・・、此れは真実じゃ」

「・・・そうですか」


 俺が真剣な表情で問い掛けた事で、エヴェックもその顔の皺を深くし、慎重に答えて来た。


「もしそんなものが有れば、対価は命だろうしな」

「ブラートさん」

「うむ、じゃろう」

「ただ、それだと遺体の説明がつきません」

「・・・」

「ブラートさん?」

「ああ、そうだな」

「・・・」


 俺からの指摘に内容が内容だけに、ブラートも慎重に答え来たのだろう。

 少し考える間が有ったのだった。


「血縁関係者という可能性は?」

「聞いた事が無いのぉ・・・、ただ儂もルグーンと其処迄、深い関係が有る訳では無いからの」

「そうですか・・・」

「ただ、真田殿の召喚の儀に、ルグーンを推薦して来たのは本部だったがの」

「・・・」

「勿論、それで儂が奴の邪な企みに、気付けなかった事の理由にはならぬがの」

「いえ、そんな事は・・・」

「いや、真田殿には改めて謝罪したかったのじゃ。本当にすまなかった」

「・・・」


 ルグーンの話から逸れてしまったが、深く頭を下げて来たエヴェック。

 俺は彼からの誠意を、黙って受け取ったのだった。


(ただ、ルグーン復活の件がどういう仕掛けか分からないと、再び奴や、或いは仮面の男などを仕留めても、意味が無くなってしまう・・・)


 そんな風に頭を抱えんばかりに悩んでいた俺だったが、意外なところから声が掛かった。


「それで、どうするんだい?」

「え?シエンヌさん?どうって・・・」

「諦めるのかい?」

「・・・」

「奴を再び倒しても復活するかもしれない。だから諦めるのかい?」

「そんな事は・・・、ただ・・・」

「だったら、答えは決まってるだろ?」

「・・・」

「アンタは奴をどうしたいんだい?」

「勿論、倒したいです」

「ふんっ」

「・・・」


 シエンヌは俺があからさまに苦悩する様子が気に入らなかったのか、其れを晴らす様な方向に問い詰めて来て、最後に鼻を鳴らしたのだった。


(確かにそれはそんなんだがなぁ・・・)


「大丈夫よシエンヌ?」

「あん?」

「司はそんなゾンビ風情、必ず倒すわよ」

「アンタねぇ・・・」

「ふっふっふっ」


 俺の代わりのつもりだろうか、シエンヌに胸を張ったアンジュ。

 流石に俺達夫婦の両極端な反応に、シエンヌは呆れ顔だった。


「だが、意外に真理だがな」

「ブラートさん」

「たとえ奴が復活したのであれ、無限では無い。倒し続ければいつかは滅びる筈だ」

「まぁ、そうですが・・・」

「其れに現在、奴以外の者が復活した例が無いしな」

「確かに・・・」


 俺達は現在迄に倒した狐の獣人達の遺体は入手して来たが、ルグーンの件も有りミラーシと協力して身元の確認を進めたが、同一人物のものが有ったという報告は現在のところ無かった。


「そうですね。とにかく今は調査を続けながら、奴の打倒を目指すしか無いでしょう」

「うむ」


 俺は完全に納得出来た訳では無かったが、他の伝手を当たる事にした。


 そして、ディシプルの真田家隠れ家に久々の宿泊をし、翌朝やって来たのは・・・。


「よお、起きてるか?」

「・・・低血圧なのは知ってるでしょう?」

「まぁ・・・」

「ふふふ、まあ良いのだけれど・・・。いらっしゃい、司」

「あぁ、フェルト」


 俺は学院卒業後、ディシプルへと居を構えたフェルトの元を訪れたのだった。

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