第262話
「真田殿、来たか」
「ええ、フォール将軍。・・・そちらが?」
「ああ、『ナウタ』。挨拶を」
「へいっ、フォールの旦那。はじめまして、あっしが、頭の船の船長を務めさせて頂く、ナウタと言いやす。どうぞ、お見知り置きを」
フォールの紹介してくれた船乗り。
俺の船の船長を務めてくれる男たが、名はナウタというらしい・・・。
歳の頃はフォールよりも上だろう、顔に刻まれた皺と襟元で縛った白髪が、50は過ぎていると思わせた。
上背は俺よりは高いがそれ程でも無かった。
然し、腕や脚の覗く部位は全て逞しく、大小様々な傷が漢の装飾品の様に刻まれていた。
「はい、はじめまして、私は司=リアタフテです。ナウタさん、頭は・・・」
「頭、さん付けなどせず、ナウタでお願いしやす」
「え、いやぁ・・・」
「あっしは頭の部下としてこの船に乗るんですぜ?そこははっきりしとかないといけやせん」
「はぁ・・・」
「ふっ、ナウタ。真田殿も直慣れるだろう、勘弁してやれ」
「へ、へい、フォールの旦那」
フォールからのフォローに、渋々ながら引き下がったナウタ。
流石に、俺の実年齢よりも上のナウタを呼び付けにするのは落ち着かなかった。
「船長っ」
「おうっ、おめぇら来たか」
「「「へいっ‼︎」」」
「・・・っ⁈」
街の方角から此方へやって来たのは、50人位の屈強な漢達。
其奴らは皆自身の膝に手を置き、一斉にナウタへと頭を下げた。
「おめぇら、よく聞けっ‼︎此方が俺達の頭になられる、司=リアタフテ様だっ‼︎おめぇら、しっかり挨拶しろっ‼︎」
「「「へいっ‼︎頭ぁ、よろしくお願い致しますっ‼︎」」」
「あ、あぁ、此方こそ、よろしく」
俺は漢達の威勢の良さに気圧され、何とか挨拶し返すのがやっとだった。
(というか、此奴ら船乗りっていうより、完全に海賊だろうっ‼︎)
「どうなのでしょう、この輩は」
「こんなものでは?」
「不潔そうな方達ですわっ」
「お嬢様、そんな事では冒険者になるのは、諦めた方が・・・」
「フレーシュッ」
「ちゅかさのほうが、くさい」
今回の旅の同行者、アナスタシア、ルーナ、ミニョン、フレーシュ、ディアは其々にナウタ達を見て顔をしかめていた。
「・・・みんな、失礼だぞ」
「いたっ。ちゅかさがぶった〜」
「海の上では、彼等の力を借りなければ、俺達は無力なんだ」
「司様・・・」
「苦手でも、敬意を払うんだ」
「そ、その通りですわっ」
「お嬢様が、一番失礼な事を言ってましたよ」
「むう〜・・・」
「それと、2人もあまり喧嘩はするなよ」
「・・・私は大丈夫です」
「私こそですわっ」
「・・・まぁ、頼むよ」
「・・・ぐすっ、かえったらママにいいつけてやる」
俺は前途多難な船出に頭を抱えるのだった。
季節は夏が終わり始め、木々の葉に紅がポツポツと見え出した頃。
旅の準備も終わり、遂に出航の日が来ていた。
「ローズ様とお子様達だけでも来れたら良かったのですが」
「アナスタシア。ただ、転移の護符は貴重品だからなぁ」
「そうですが・・・」
俺達はリアタフテ家の屋敷で家族や関係者達との別れを済ませて来た。
「凪様があんなに泣かれていたので」
「うっ」
何か感じるところがあったのか、凪は昨晩から俺から離れず、今朝は日課の魔力発散に連れて行けない程号泣し、大変だった。
「大丈夫でしょうか?」
「・・・大丈夫だよ」
「司様」
「ローズが居るんだから。信じるだけさ」
「・・・はいっ」
今は何を言っても仕方なく、ただローズを信じるだけだった。
「頭ぁ‼︎そろそろ行きやしょうっ‼︎」
「えぇ、分かりましたっ」
「真田殿、ご武運を」
「フォール将軍・・・。はいっ‼︎」
こうして俺達は船へと乗り込み、ディシプルの港から出航したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます