第228話


「どうしてですかっ⁈」

「・・・知らん」

「知らんって・・・」

「当たり前だろうが、其れが分かれば自害なんてさせてねえ」

「まあ、情報漏洩を嫌ったんだろうけどな」

「・・・そうですね」

「とにかく、遺体を王都へ移して司法解剖の結果を待つしかねえな」

「はぁ・・・」


 ケンイチの言う事は最もなのだが、俺はやはり悔しかった。


(奴は族の中で唯一会話の成立する相手だったのに・・・)


 この先、奴等の仲間を捕らえても、情報が得られるかは未知数なのだった。

 

「まあ良い。今はとにかく休め」

「えっ?駄目よ、お父様っ」

「ん?ローズ?」

「もう、屋敷に帰るわよ」

「・・・いや、でも・・・」

「帰るわっ」

「お、おお・・・、そうだな。良し、おいっ、さっさと準備しろ」

「・・・はぁ」


 どうやら、ケンイチはローズにこれでもかと言う位甘いらしく、俺へと出発の準備を急かして来た。

 正直な話、此の国の行く末には興味は無いのだが・・・。


(出来ればシエンヌに、ブラート達が向かったというドワーフの国のヒントだけでも聞き出したかったが・・・)


 最初に聞いた時は断られたが、一応フォールに協力したのだし、何が有ったかは分からないが、フォールとシエンヌは良い関係の様にも見えた。

 今ならもしかすると、何らかの情報を得られるのではと思うんだが・・・。


「司・・・」

「ん?あ、あぁ」

「帰ってくれるわよね?」

「・・・勿論だよ」

「・・・ありがと」

「・・・」


 まぁ、仮面の男達にも俺とローズが屋敷から離れている事がバレているし、即帰宅するのは間違った判断では無いしな・・・。


「では、すぐに馬車の準備を・・・」

「いや、良いよ」

「えっ?司様?」

「アナスタシア達は馬車で後から来てくれ。俺とローズは先に帰るよ」

「は、はあ?」


 馬車の準備をする為、テントの外へ出ようとしたアナスタシア。

 俺はそれを制し、先に帰る事を告げた。


「司、先にって・・・?」

「あぁ、来れば分かるよ」

「え、ええ・・・。あっ‼︎」


 ローズも昨晩の事を思い出したらしい。

 俺がどうやって帰るつもりか気が付いた様だった。


「じゃあ、お爺様」

「はは、慌ただしいなあ」

「ごめんなさい。でも、屋敷に寄ってくれるんでしょ?」

「勿論さ。曽孫と会えるのを楽しみにしてるよ」

「其の手紙は届いてたのね」

「其処迄はね」

「ふふ。じゃあ、屋敷で待ってるわ」

「ああ」

「行きましょ、司」

「あ、あぁ・・・」


 俺の手を引きテントの外へと急いだローズ。

 外に出ると既に陽は昇り始めていて、海からは気持ち良い潮風が吹いていた。


「・・・」


 ローズが眼前に立ち、無言で俺の顔を覗き込んで来た。


「ん?良し、行こうか」

「ええっ」


 弾ける様な返事をしつつも、どうして良いか分からず落ち着かない様子のローズ。


「きゃっ。・・・司」

「行くぞ、ローズ?」

「え、ええ」


 急に俺が抱き抱えた為、短く悲鳴を上げたローズ。

 手と腕には、緊張で身を硬くしているのが伝わって来ていた。


「・・・良し、出るぞ」

「ええ・・・」


 こうして、俺はローズを抱き抱えリアタフテ家の屋敷を目指し、空へと飛び立ったのだった。

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