第216話


「・・・」

「え〜と・・・」

「すまんな、無口な男でね」

「い、いえ」

「自己紹介は良いのか?」

「必要無い」

「・・・」


 シエンヌが連れて戻って来た、狐の獣人の若い男。

 肌は女性のものと言っても良い位白くきめ細やかで、耳と長髪がブロンドに輝き、其の双眸は何処迄も冷たいものだった。

 見た目的には20歳前後だろうか?

 ただ、獣人は歳が分かりにくい為、実際はもっと上の可能性もあるのだが・・・。


(まぁ、今は年齢なんかより、この対応だろう)


 以前、ミラーシに行った経験から、狐の獣人が人族の事を徹底的に見下しているのは分かっているが、流石に名前位は教えて欲しかったが・・・。


「彼は『セーリオ』というんだ」

「そうですか、セーリオさんですね」

「・・・」

「セーリオさんはどういった経緯でフォール将軍に協力を?」

「・・・」


 俺の問い掛けに、其の瞳を閉じて答える意思が無い事を示して来たセーリオ。

 途方に暮れた俺は、フォールへと視線を送った。


「うむ。構わんな、セーリオ?」

「・・・好きにしろ」

「・・・」

「紹介は先程言った様に、盗賊ギルドを通じてだった」

「・・・」

「私が仮面の男との戦闘で狐の獣人と遭遇し、其の情報を仕入れる為に、シエンヌを通じて盗賊ギルドと接触した時に紹介されたのだ」

「紹介ですか?」

「ああ、紹介だ」

「其れが、利害関係ですか?」

「ああ。先ず私は彼の持つ魔法の力を利用出来る」

「なるほど」


 其れは分かりやすい理由だった。

 現にこうやってフォールは身を隠せて居るのだ。

 ただ、セーリオはどうなのだろう?


「どうやら、敵の狙いは私らしくてね」

「・・・なるほど。フォール将軍と共に居ればエルマーナ様に会えると・・・」

「・・・っ⁉︎おいっ‼︎」

「えっ⁈」

「今、何と言った⁈」

「え、え〜と・・・?」

「今だっ‼︎」

「落ち着け、セーリオ」


 其の相貌からは不釣り合いな程熱くなったセーリオを、鎮める様にフォールが宥めた。


「・・・エルマーナ様の事だ」

「あ、あぁ」

「何処で会われたんだ?」

「つい最近、リエース大森林跡でですよ。仮面の男やルグーンと言う名の元ヴィエーラ教司祭も一緒でした」

「・・・」

「・・・っ」

「ん?」


 苦々しい表情を浮かべるセーリオとシエンヌ。

 セーリオの反応は理解出来たが、シエンヌは・・・?


「其れは、何時の事かな?」

「え、えぇ、ひと月前です」

「そうか、それなら敵も此の近くに居るかもな」

「あっ、其れは分からないかと・・・」

「どういう事かな?」

「先程話に出たルグーンという司祭ですけど、何らかの移動魔法の様なものを使えるみたいです」

「ほお・・・」

「そもそも、其奴は召喚術師なので、其の関係の魔法かもしれませんが」

「なるほどな。そうなると、敵の戦力の見直しを行う必要があるな」

「そうなるかと・・・」


 そう言って、何か考え込む様に静かに瞼を落としたフォール。

 場に漂う静かな空気が、緊張感を増して行った。


(う〜ん、居心地が・・・)


 俺はフォールの思考の邪魔はしない様、気になっていた事をシエンヌへと問い掛けた。


「すいません、シエンヌさん?」

「あん?」

「・・・ブラートさんは?」

「・・・」

「あのぉ・・・?」

「今、アイツとアルティザンは此処に居ないよ」

「そうですか。何方に?」

「アルティザンの故郷さ」

「えっ⁈ドワーフの国にっ⁈」

「あん?そうだけど、何だい?」

「其れって何処に?」

「・・・」

「シエンヌさん?」

「ブラートはアンタの事を偉く気に入っているみたいだけど」

「そうですか?」

「ふんっ。ただ、此れは仲間の守ってやらないといけない部分の話だ」

「・・・」

「其れを許可無く、アンタに教える訳にはいかないのさ」

「そうですね。・・・すいませんでした」

「・・・ふんっ」


 そう言ってそっぽ向いてしまったシエンヌ。

 ただ、俺が探している神龍の内の1匹。

 土の神龍ゼムリャーの事を知っているらしいドワーフの国。

 俺は目的のヒントを得られた事に心の中で喜んだのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る