第180話
上空へと上がり、仮面の人物と対峙する俺。
(此奴は・・・)
改めて冷静に眺めると、体付きは小柄ながらも、首回りの太さや肩から腕に見られる筋肉から、男である事は分かった。
其れに・・・。
仮面は顔を覆いその下は確認出来なかったが、頭部は覆われておらず、其処には俺やケンイチの様に黒髪が生えていた。
(此奴も召喚された日本人か・・・?)
俺がついついそう考えてしまう程、此の世界では黒髪や黒い瞳は珍しく、出会った人達も街などですれ違う人達も、自然ながらも元の世界では奇抜と言われる髪色や瞳の色をしていた。
「おいっ」
「・・・」
「お前は何者だ?何故俺と同じ魔法を使える?」
「・・・」
「お前も召喚者なのか?」
「・・・」
「何の為に子供達を攫った?目的はっ⁈」
「・・・」
俺からの問い掛けに、一切の反応を示さない仮面の男。
「仕方ないな・・・、装っ‼︎」
俺は此の男の素性も気になったが、此のまま一方的に質問を飛ばしていても仕方がないので、自身の持つ剣に闇を纏わせた。
「・・・」
「・・・っ⁈」
俺が剣を構えるのを見て、仮面の男はアイテムポーチから、これ又俺の物と同じ様な細身の剣を取り出し、其の刃に光を纏わせるのだった。
「何だよ、やる気は有るらしいな?」
「・・・」
「なら、遠慮なく・・・、波っ‼︎」
「・・・」
俺が闇の衝撃波を放つと同時に、仮面の男も光の衝撃波を放ち、ぶつかり合う2つの衝撃波により、生み出された新たな衝撃波により、大気は振動し俺と仮面の男は後方に押された。
「くっ・・・」
「・・・」
其れを堪える様に、そして解消された後の行動の為、闇の翼へと魔力を込める俺。
仮面の男へと視線を向けると、相手も同じ様に光の翼が眩さと大きさを増していた。
「静寂に潜む死神よりの誘い‼︎」
「・・・」
徐々に振動が止んで行き、俺は突撃への布石に不可視の魔法を放った・・・、刹那。
(・・・首っ⁈)
敵へ向かいやや前傾姿勢になっていた俺は、突如として自身の首元に異常な魔力の流れを感じ、空中で右ステップをした。
「・・・っ」
「・・・」
僅かに体勢を崩した俺の左耳へと入って来る鋭い風切り音。
前方では仮面の男も同じ様な体勢になっていた。
「剣っ‼︎」
「・・・」
今度はお互いに剣を生み出し放つ。
俺は剣を放ったと同時に高度を上げ、仮面の男は其の場で襲い掛かる剣を往なした。
「はぁーーー‼︎」
「・・・」
俺は正面から突撃し全力で剣を振り下ろし、迎え撃った仮面の男の斬撃と打ち合い、甲高い金属音が響いた。
(力は・・・、僅かに相手が上かっ‼︎)
高い高度を保つ俺の斬撃を下から受けても、相手は全く体勢を崩す事は無かった。
俺は追撃の斬撃を放つが、仮面の男は悠然と其れを受け流した。
(此の状況を打開するには・・・)
俺は1つの魔法が思い浮かんだ・・・。
其れは深淵より這い出でし冥闇の霧で、此処で使えばもしかしたら此奴を墜落させれるんではと考えた。
(だけど、此の魔法は攻撃魔法に対してしか実験して無いんだよなぁ・・・)
王都でグリモワールに協力して貰い、精度を高めた此の魔法。
此れは所謂遠距離魔法に対しての反応は確認出来ているが、支援魔法などに対しては実験を行なっていなかった。
(こんな不確かな物に命は預けられないな・・・)
俺は自身の不用意さを呪ったが、現在の状況は其れどころでは無く、剣戟へと集中し様とした瞬間、地上のケンイチから咆哮の様な指示が飛んで来た。
「目を伏せろっ‼︎」
「・・・っ⁈」
訳も分からず条件反射的に瞳を閉じると、閉じられた先に激しい光を感じた。
(光⁈・・・仮面の男っ⁈)
俺は眼前の敵の使用する魔法が光の系統の為、一瞬奴の仕業を想像したが、閉じられた先から感じる光が引いた様子に目を開けると、どうやらそうでは無いらしい事が分かった。
俺が疑った仮面の男は、仮面の目の部分を自身の手で塞いでいたのだった。
(其れなら、誰が・・・?)
そう思い一瞬、地上に視線を向けるとバドーがエルマーナを拘束していた。
(やったのか⁈)
俺はバドーがどんな手を使ったのか気になったが、今は此の好機を逃す訳にはいかず、剣を持つ手に力を込めた。
「はあぁぁぁ‼︎」
「・・・」
仮面の男へと降り下ろした俺の剣が、相手の剣とぶつかり合った瞬間、虚をつかれたであろう仮面の男の剣は、力無く地面へと落ちて行った。
「これで・・・、終わりだっ‼︎」
「・・・」
視界は戻った様だが丸腰になった相手に、俺は止めの一撃を繰り出した・・・。
「な、ん・・・っ⁈」
「・・・」
振り下ろして来る俺の斬撃に、仮面の男はアイテムポーチから新たな得物を手にして、打ち合いになる。
「ぐっ‼︎」
「・・・」
仮面の男が手にするのは、月光に映える白銀の刃をもつ日本刀。
其の刀と俺の剣が打ち合った刹那、俺の剣の刃に纏っていた闇は、相手の刀に吸い取られ、刀の刃に妖しい閃めきが映り、俺の剣の刃を破砕した。
「がっ・・・‼︎」
「・・・」
剣を破砕した事で、僅かに勢いを削がれながらも、俺へと襲い掛かる白刃を、斬撃の勢いを助けに半身で躱そうとしたが、白刃は俺の右肩を掠り、翼を吸収した。
宙に舞い散る漆黒の刃の破片と自身の鮮血の中を地面に向かい緩やかに墜落して行く俺。
其の視界の先、上空の仮面の男の足下には、魔法陣が描かれ始めた。
「・・・っ⁈」
「・・・」
追撃を疑った俺は、片翼で何とか地面へと不時着し構えを取ったが、魔法陣は別の人物の詠唱による物らしかった。
「てめぇ‼︎」
「ふふ、今宵は此の辺りが潮時かと・・・」
「ルグーン‼︎」
「ふふ、どうでしたか、妖刀白夜の斬れ味は?」
「えっ・・・、何故⁈」
魔力を吸収し刃を直す刀など、そうは無いだろうと思ったが、やはり仮面の男が手にしているのはフォールの愛刀である、妖刀白夜らしかった。
「フォール将軍は⁈」
「ふふ、あのお方が倒されました」
ルグーンはそう答え、仮面の男を指す。
「・・・まさか」
「いえ、残念ながら死体は確認出来ていません」
「・・・」
「ふふ、ですが状況が状況でしたので既に・・・」
「・・・っ」
ルグーンは詠唱を続けながらも、フォールの生死不明を告げてきた。
「では詠唱も完成しましたので、退かせて頂きましょう」
「待てっ‼︎」
「ふふ、あまり無理はなさらずとも、私達は仕留められなかったですが、お子様達は守れたのですから」
「・・・ちっ」
ルグーンの言葉は憎たらしいが事実で、俺は出血による体力低下と、魔力切れが近い事も理解していた。
「ふふ、それではまたお会いしましょう、真田様」
ルグーンがそう言った瞬間、ルグーンと仮面の男とエルマーナは、魔法陣へと飲み込まれる様に消えて行ったのだった。
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