第26話 そんなに食べないよ
トンカツはおいしい、おいしいことは正義である。
ダイエットするとしても、トンカツの日だけは無礼講だ。
それほどトンカツというものは、すごくおいしい。
ショウのお母さんの作るトンカツは、ロースカツ、ヒレカツ、豚バラをミルフィーユのように重ねての3つのバージョンがある。
今日は私がいるから、メニューを変更してくれたようで、ミルフィーユカツのほうだ。
間にチーズやキムチが入ってるのがまたおいしいの。
おばさん本当に料理上手で神。
すでに、私の皿には、チーズのとキムチのと2種類が乗せられてる。はい、2枚食べますよもちろん。
ちょこっと食べてお腹いっぱいで……とかはやらない主義。
だってトンカツおいしいし。どうせなら、ご飯は少なめにしてその分一切れでも多くトンカツを食べたいくらい。
ショウのほうを見ると、何味かはわからないけれど私のより大きいものが3枚ものっている。それだけ食べれるっていいなぁ。
私は水着のせいでダイエットというより、くびれを作るべく頑張ってこれだし、何もしてなさそうなのにその身体はずるいと思う。神様は不公平だ。
いただきますの号令がかかるまえに、すでにワクワクとしてしまう。
ショウのお父さんは遅いようで、3人でご飯を食べ始める。
おいしい、おいしい。
「ユウキちゃんいっぱい食べてね。ご飯とおみそ汁とサラダはお変わり沢山あるから。トンカツは足りなかったらショウから取ってね!」
かなりガッツリキープしているけれど、もっと食べてね食べてねが今日も始まる。
途中で電話がかかってきておばさんが気にせず先に食べててというから気にせず食べ勧める。
私の皿に、トンカツが一切れおかれた。
ショウが大好物のトンカツを私の皿になぜおいたの? と不思議な気持ちになる。
ちらりとショウをみると黙々とカツを食べている。
よく考えて……ショウとは長い付き合いじゃない。私の皿にカツをなぜ乗せたのか、ショウの考えを読み取るのよ。
ショウが口に出さずとも幼馴染の私にならわかるはず。
トンカツの味は再確認するけれどキムチとチーズの2種類。私はそれぞれ一枚ずつ。
ショウのは3枚。ということはぱっと見ではわからないけれど、チーズ2キムチ1かチーズ1キムチ2というわけだ。
ショウがよこしたカツを箸で持ち上げてみる、チーズだ。
つまり、ショウの手持ちのカツはチーズ2キムチ1だったにちがいない。ということは、私にチーズを一切れやるからキムチを1よこせということね。
『まったく子供だなぁ』と思いつつも、真中のおいしいところを一切れキムチ味のからとってショウの皿に入れてあげる。
「そんじゃ、はい」
「いや、なんで俺にカツくれるんだよ」
「え? チーズ2キムチ1だったから、キムチもうちょっと食べたいから一切れ交換してほしいのかなって思ったんだけど違った?」
この名推理が外れたというの? えっ……この推理がはずれてしまうと、なんでかさっぱりわからないけれど普通にカツを一切れくれたということになってしまう。
ハルト紹介したから頑張れという叱咤激励的な意味でこの恋勝ち取れよみたいな?
私の頭に『?』が沢山浮かぶ。
「いいから食べとけ」
なんで、私はカツを譲ってもらえたのだろう。
譲ってもらえるようなことをしただろうか? よくわからないけれど、カツはせっかくもらったから食べるけれど。
よくわからないままカツを食べて。そろそろ帰ることになった。
いつもはそのまま徒歩30秒だから玄関先でバイバイなのにショウがスニーカーを履く。
「いいよ、送ってくんなくても、徒歩30秒だしさ」
今までこんなこと一回もなかったじゃん。
「いつもより遅いだろ、一応だよ一応。何かあったら寝覚めが悪いじゃん」
「そかそか……」
いつもと違うパターンに戸惑う。
ショウがスニーカー履くのをまって家から出た。
走っちゃえばあっという間についちゃう我が家。いつもは遊びに行くとき近くていいってずっと思っていたけれど。今日だけは、ちょっとこの短い距離がもったいない。
だって、あの幼馴染で長年好きだったショウがユウではなくユウキのために家まで送ってくれるとかきっと、これが最初で最後だと思うもん。
本当にあっという間に家についてしまった。
あーあーってユウキで送ってもらったからこそ余計に思ってしまう。
「ありがとね」
恥ずかしくて手短にお礼をいってドアを開けようとした。
「あのさ」
ショウが声をかけてきて思わず振り返る。
ちょっと待って、こんな風に呼び止められるパターンも今までなかった、なんだ? あっ、ハルトのことかな……もしかして私には連絡きてなくてもショウのほうには無理そうとか連絡きちゃった?
「……なに?」
「もっと食えよ」
「え? なんだって?」
もっと食べろっていった? どういうこと、何が言いたいの? 私トンカツ2枚も食べたよ人様の家で。
「だから、もっとちゃんと食べたほうがいいと思う」
「はぃ? ごめん、長く幼馴染してるけど、今日はショウが言いたいことが一つもわかんないんだけど」
本当にショウが言いたいことがさっぱりわからなくて思わず真顔になる。
「だから、お前ダイエットでもしてる? もっと食べたほうがいいと思う」
「いや、ダイエットしてる女はトンカツを人様の家で2枚も食べないよ。何言ってんの? いや、どうしてそうなったのかわからないけど。だからトンカツ一切れもしかして交換じゃなくてくれようとしてたの? まるまる私を太らせてどうしたいのさ……彼氏作れとか男紹介しといて、肥え太れとか意味がわからない」
本当にわからなくてポカーンとしてしまう。
「思ったより軽かったし」
そういって、ショウの左手がわきっと動く。なるほど、左手が変だったのってウエストこんなもんかなってしてたのかもしかして……
もっとドーンと落ちてくると思ったら思いのほか軽かったと、私どんだけ重いと思ってたんだよ失礼な。
「あのさ、昔と違って今の私達って身長差何センチあると思ってんのよ」
ショウの近くにいって、私の頭の一番高いところに手をやって、ショウのほうへ思い切りドスっとやってみる。
私の手はショウの鎖骨あたりにドスっときまる。
「グッ」
思いのほか強い衝撃だったようで、ショウが軽くうめき声をあげる。
「中学の途中までは大体同じくらいだったのにね、ショウだけぐんぐん伸びてずるいわ。まぁ、高さが違う分くらいは軽いわよ一応。親友は親友でも男じゃなくて女で有ることを忘れてはいけないわよショウ」
そういって笑うとショウもそうかといってニカっと笑った。
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