第22話 やきもち

 実はバイト始めたんだ。飲食店なんだけどね、割引券をもらったからよかったら食べに来てね。

 生クリームとかならモリモリにサービスできるからってことをラインで話したの。


 女性客に玲さんとの仲を疑われないために、ドリンクも一部ソフトドリンクに限り無料にするから一度私に彼氏が間違いなくいるって目撃者がいたほうがもめないから、彼氏さん出入りむしろウェルカムだからと言っていたし。



 私が労働に勤しんでいると教えた次の日にショウはバイト先にやってきた。

 ショウに気がついて私は手をヒラヒラと振れば、ショウのほうも控えめに振り返してくれるが、どうもこのおしゃれな店が慣れないようで落ちつかないようだ。

「早速きてくれてありがとう。こちらメニューになります。ドリンクは内緒だけどコーラかカルピスかウーロン茶だったら1杯無料だから」

 こそっとそう言う。

 玲さんはショウを見つけると私に対してニンマリ笑う。玲さんは接客中はマスクを外しているのだけれど、今日も素晴らしい出来の顔をしていらっしゃる。


 ショウの席からはなれると、玲さんが早速やってくる。

「ユウちゃんメンクイじゃん」

 そういって脇をつつかれる。

「私もソウオモイマス」

 それを肯定する。



 ショウは1時間ほどで手を振って帰ってしまった。行っちゃった~と背中を見送った。



 その日ユウキのほうのラインが荒れていた。

『彼女のバイト遊びに行ってきたんだけど、ヤバい』

『本当にヤバい』

 こちらが返していないのに連続で届くのはヤバいの繰り返しである。

『返事してないのに何回も送らないでよ』

 そう返信する。

 すぐに既読になってしまう。


『だって、バイト頑張ってたしシフトの時はドリンク飲むだけでも店に行けば必ず会えると思ってウキウキだったんだけど……オーナーがヤバい』

 何かと思えばここでも玲さんか……

 確かに、あれは女性って知らなかったらヤバいやつ。でも実際は中身は女性だし、めっちゃくちゃクオリティーの高いコスプレだと思うとすごく楽しいのだけれど、ショウにしたらそれどころではないらしい。


 彼女のバイト先に誘われたからと行ってみたのはいいけれど、店には明らかに目を引くイケメンが一人いてしかも、そいつがオーナーだと彼女が言ってきた。

 様子をうかがうと、仲がいいようでちょいちょい話しこんでいるのを見たそうだ。


 あぁ、ショウが店にきたから、『メンクイじゃんコイツめ~』ってやられてた下りか。



『いや、ほら彼女さんと上手くいってるんでしょ』

 勝手に玲さんは男装してるけれど女性ですとユウキでばらすわけにもいかないし、それらしく返信する。



『あんなの傍にいたらあっち好きにならないかな?』

 明らかな嫉妬の言葉にキュンときてしまった。

 そうだよなぁ、不安はわかるよ私も可愛い子がショウの近くに来たら彼女になったらどうしようってこれまでずっと思ってきたんだもん。

 それがまさか、ついに嫉妬する側からされる側になる日がこようとは。


『彼女信じてあげなよ~』

『財布的に毎日は通えないから、ユウキもさりげなく店に通って、オーナーはすぐみたらコイツだってわかるイケメンだから、店員の女の子と仲よすぎないかとか見てきて……』

『嫌よ、こっちだってお金カツカツなのに、なんで人の彼女を確認しに自分のお金で通わないといけないのよ』

『そうですよね……』




 これはこれで厄介なことになってしまった。ただ、軽い気持ちで玲さんも連れてきていいからというかバイト先を教えたくらいだったのに。


 ユウのほうにもラインは入っていた。

 ただ、こちらはバイトお疲れ様ってことと、働いてるの新鮮だったし、会いたいときはバイトしてる時に会いにいけるというサラっとしたものだった。


 ユウキにぶつけたような気持ちは彼女にはぶつけないんだと思ってしまう。

 すごく心配してたみたいだし……

 まぁ、すぐ返事が来るくらいだからショウは暇よねとユウで電話してみることにした。

 あまり電話したことないけれど、今日くらいはいいかなと……



 電話はすぐにとられた。

「もしもし」

 いつものユウキとの電話とは違って、ショウの声もワントーン高いのが何だか面白い。

「もしもし、ショウ君? あの、今日はお店きてくれてありがとう」

 そこからはアプリの無料通話だからとダラダラと話した。

 すると、しばらくしてとうとうショウのほうから玲さんの話が切り出された。

「オーナーさん凄くかっこいい人だった」

 よし、ここはフォローのチャンスだ。玲さんの男装を勝手にばらすわけにはいかないから、とにかく玲さんは大丈夫ですアピールをしなければ。

「うん、かっこいいよね。でも、玲さんもショウ君かっこいいねって言ってたよ」

「誰かにそういう風に言われるとなんかこう恥ずかしいかも……」



 しかし私は恋愛スキルが低かった。

「えっと、一応玲さん恋人いるから心配とかしないでね」

 直球だった。

「お店にいる女の人のお客さんもその玲さん狙いの人が多いけれど、ちゃんと恋人がいるからってきちんと断ってる人だから」

 あれれ、言えば言うほど、なんかおかしいぞと思う。だけど途中で切り上げていいのかとなる。

 私の弁解のようなことに、ショウはうん、うんと答える。



 結局なんとなく気まづくなってしまって、電話が終わった。

 心配させまいと電話したのにこんなはずではと頭を抱えていると、ユウキのほうに電話がかかってきた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る