第3話 ホンモノの君の登場に焦る

 うまい具合に、声をかけてきた男と私が待ち合わせをしていたと勘違いしたようで、先ほどまでしつこくしていた男はショウの登場であっさりと人ごみにまぎれて消えた。

「大丈夫?」

 怖かった、今のは流石にこの後どうしようって思った。

 不覚にも絶対会いたくないショウの登場にも関わらず、この状況から解放されると思ってホッとしてしまった。

 ショウの質問に私は何度もうなずいた。

 安堵から目にじんわりと涙がたまってくるけれど、好きな男の前で泣けるような性格だったら、こんなにこじらせていない。

 泣くな私。顔に塗りたくってるウソが剥がれ落ちるぞと気合いを入れて泣くのを必死に我慢した。



 そして、一難去ると人は冷静になるものである。

 私終わった……



 ポンッと頭の中に。だーかーらー、当分変身して遊びに行くのをやめとけばよかったのよっていう小さな私が現れる。

 ワッフルも1300円も出したのに、慌てて食べちゃったし、今日だけで2000円以上お金使ってますよ~大丈夫なの? 心の中の私がさらに塩を塗り込む。



「顔色が悪いけど、一度どこかに座る?」

 顔色を悪くさせた原因が私にそういうのだ。

「大丈夫」

 そう答えたけれど、全然大丈夫じゃないよ! この秘密の時間をショウにだけは知られたくなかった。

 やっぱりお洒落興味あったのかとか言われたらどうしよう。

 オワタの顔文字が頭の中に流れる。

「そこ入ろう」

 促された先は目と鼻の先のスタバだった。

 あぁ、スタバとりあえず奢れってことですね。把握しました。

 高いんだよなぁココ。コンビニのだと半額くらいだし、さらなる大きな出費が財布へも大ダメージを与える。



「ここ座ってて」

 そう言われて私は観念してカウンタータイプの席に座る。もう駄目だ。

 しばらく待つと、キャラメルフラペチーノとピーチピンクフラペチーノがやってきた。

 グフッ、結構値段するやつ。これ1つで安い同人誌1冊買えるからね。

 グググッ本当に財布へのダメージがえげつない、でも口止めだけではなく助けてくれたお礼も兼ねてだ、私は観念して財布を取り出す。

「いくらだった?」

「いいよ。好きなほうどうぞ」

 まさかの奢りだったのだ、600円はするよ。その期間限定のやつ。

 怖い思いしてるだろうからと気を使ってくれたみたいだ。

 この姿ということもあって、遠慮なく新作を開き直ってとってみる。

 そういうの飲むんだなとか言われるのかと思ったけれど、何も言われない。



「あのさ」

「何?」

「俺のこと覚えてるかな? ってあの、ナンパとかそういうんじゃなくてさ」

 ハァ!?

 しどろもどろな感じでショウは私にそう言ってきたのだ。えっ、どういうこと。早速摂取した糖分を使い考える。

「えーっと」

「あっ、覚えてないかな。そうだよな」

 ぽりぽりとショウが間が持たないと言わんばかりに頭をかいた。

 ちょっと待って、これってもしかしてばれてないんじゃないの? という可能性が私の中にちらつく。


 このリアクション的にショウに私の正体はばれてない、まだ挽回できる。

 この恰好のときは、女の子だからといつもよりワントーン高い声でいたのがよかったのかもしれない。よっしゃーーーーーー!

 よし、私は彼に感謝してお茶を今ここで楽しんで、貸し借りつくるとまずいから、飲んじゃったフラペチーノのお金を払って終わりにしよう。

 女はみんな女優なんだから今一世一代の初対面ですって芝居をするのよ私! 今日の演技にすべてがかかってるんだから。



 しかし、会話がないことに耐えかねてついつい、話題を振ってしまう。

「すぐそこのワッフル食べたことある?」

「食べたことない。あーっと、すごく人気なんだろ?」

 ついつい、いつもの友達の感じで話してしまう。

 いろんなトッピングができること、どうしても食べたくて入ったのはいいけれど、一人で来てるのは私だけだと気がついてちょっと恥ずかしかったこと。

 急いで食べたらワッフルの味が、1300円も払ったのによくわかんなかったこととか笑いを交えてとっても楽しく。


 少年漫画の話を久々にしたりもして、普通に盛り上がってしまった。

 シマッタ私のアホンダラである。楽しく過ごしすぎだよ、一緒にいるのがうれしいからって話しすぎだよこれ。

 財布から1000円取り出して机に置く。

「あっ、別に本当にこれくらいいいよ」

 ショウはそう言うけど、何言ってんのって感じだ。

 いつもお金ないからってコンビニで何買うか学校帰り悩んでるの知ってるんだから600円越えは奢ってもらえない。



「助けてくれてありがとう。でも、もう時間だから行くねじゃっ」

 立ち上がり、飲みきったゴミを片付けて、止める間もなく店を後にする。人がここは多いから巻ける、いける、というかいくしかないのだ。

 早足で駅に向かいコインロッカーからキャリーバックを回収。

 デパートのトイレにかけこみ、着替えて化粧を落として日焼け止めを塗る。



 これで一安心だわ。





 こんなこと話せるあては一人しかいなくて、家に帰ってからリサ姉にラインを送る。 

『リサ姉……この恰好で幼馴染に見つかってお茶してきた\(゜ロ\)(/ロ゜)/』

『ワロタkwsk』

 即既読がつき思いっきりwktk前回の返事が手短にきた。

『もう、絶対面白がると思った』

『ばれた? ばれた? てか、電話掛けるw』

 もう、思いっきり楽しんでいらっしゃる。

 電話はすぐにかかってきた。




「いや~ユウキちゃんもってるねでっ? でっ? どうだったのよ」

 私は前回ハンカチを拾ってもらって逃げたこと、井上さんの家の下りでリサ姉は笑いすぎて息が苦しそうだった。

 今回、ワッフルを食べに来たらナンパに絡まれて、幸か不幸か助けてもらったこと。なんだかんだでスタバでお茶したこと、奢ってくれようとしたこと、ばれてないんじゃないかって話をした。

「教えた私が言うのもあれだけどさ、私たちの顔ってかなりの詐欺メイクだもん。面影ないもんね」

 その通りである。だれが同一人物だと思うだろうか、カラコンの威力が特にすごいと個人的に思う。

 そんな話で盛り上がってるときに、ラインの通知がきた。私は耳から電話をいったん外して、誰からか確認して時が止まった。



 ショウからだったのだ。しかも今時間ある? ときたもんだ。

「ちょっと聞いてる? ラインでもきた?」

「うん、ちょうど幼馴染からラインきた、やっぱりばれてたかもオワタ」

「電話してる場合じゃないじゃん。ほれ頑張れ頑張れ」

「人ごとだと思って、本当にばれたくなかったんですってば……」

「はいはい、ほら返事早くしないと怪しまれるんじゃないですか~またに~」

 そういって電話は切れた。




 私は意を決して、通知画面を開く。やっぱり見直しても、しっかりと来てました。

 今ちょっといい? って。

 あーあーあーあーあーあー、返事したくないけれど既読つけちゃったよ。

 私は意を決して返事を送った『何?』と短い文だけど。


 『明日の放課後時間ある?』

 はい、お話コースである。





 そこで言われた言葉で私は固まった。

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