嘘の私が本物の君についたウソ
四宮あか
第1話 ホントの私はウソの私になる
「フライドポテトとドリンクバー二つ」
「かしこまりました。繰り返します、フライドポテト1つと、ドリンクバーが2つ。以上でご注文はよろしいでしょうか?」
かわいらしい制服ににっこりと笑みを浮かべて注文が復唱される。
「「はい」」
「ごめん、ちょっとトイレ。後先ドリンクとってくる~」
「おう~」
私は座席から立ち上がってトイレへと向かう途中、バックヤードから声が漏れ聞こえた。
「あれは彼女じゃないでしょ」
「えー、でも週に2回くらい一緒に来てるじゃん」
「全然釣り合ってないって。あの恰好は流石に女捨て過ぎ」
聞こえてきた先ほどのウェイトレスの会話が見事図星で私の顔が引きつる。
全部聞こえてますけど……
スカートは学校の制服以外持ってない。
普段着はジャージかスエット。
外に出るときは、チノパンかデニムにTシャツ。
男の子みたいなベリーショートで化粧も当然してない。
可愛い小物類もなんとなく私のキャラじゃないよねって買えなくて。
クレープとかケーキとかマカロンとか女の子が好みそうな甘いオシャレな感じの食べ物を売る店にすら寄りつけない。
並んでタピオカドリンクを購入するなんて夢のまた夢。
そんな私は今年から、恋だの愛だのにうつつを抜かす、花も恥じらう女子高生になった。
正直、こじらせてしまった自覚はある……それが先ほどからウェイトレスに釣り合わないとディスられてる私ユウキだ。
さて、私がなぜこじらせてしまったのかを語る上で外せない人物がいる。
それが、今日一緒にファミレスにやってきてる私の幼馴染であるショウである。
彼との付き合いは、それこそ赤ちゃんの頃までさかのぼる。
ショウの家と私の家は徒歩30秒という近場、そして同じくらいの時期に妊娠が分かったこともあって、産まれる前からお互いの母親同士が意気投合。
とっても仲良しになってしまったのだ。
私達は物心がつく前から一緒に遊んでいた。
ショウはかっこよくて、優しくて、おまけにいい奴だった。
そんな奴が近くにいたから――――そりゃ当然好きになりますよね。
幼馴染で同級生。母親同士が仲良くってお互いの家を行き来できる。私とショウの関係はまるでドラマやアニメ出てきそうな状況だった。
でも、漫画やドラマと現実は違った。
ショウは物語の主人公になれても……先ほどのウェイトレスの会話からお察しの通り、私は彼のヒロインになれるようなツラをしてなかったのだ。
自分のツラ的に彼のヒロインには逆立ちしたってなれないと悟ったのは、私がまだ5歳の時のできごとだった。
ショウのヒロインに私は絶対に選ばれることはない、でも彼の友達としてならずっと私でも隣に並んでいれるじゃないかなって思ったの。
友達でよかった、好きだったから、離れちゃうくらいなら友達としてでもずっと傍にいれるほうを私は選んだのだ。
だけど、ショウの友達として隣にいるってことは私を縛った。
どんなに楽しい時間も、全部私が気持ちを押し殺して、ショウの友達って枠に収まるからこそ成り立つ偽物なんだもの。
中学に入ったらショウはすぐ彼女作るんだろうな、その報告されたらどうしようってずっとその日がくるのが怖かった。
けど、その心配は彼が過酷だと評判の部活に入り青春を部活に打ち込み、忙しすぎたこともあって中学の間はセーフだった。
でも、さすがに高校ではそうはいかないだろう。
ショウに惚れているよく目を抜いてみても恰好よくていいやつなんだから。
高校に入学してみると、周りの女子たちが中学の時と全然違った。
容姿に気を使いだす子が増えたのだ。
でも、私は日焼け止めとリップを塗るくらいでそれ以上のことはできなかった。
女らしいカッコをすれば、ショウに友達の枠から排除されるんじゃないかってずっと思って生きてきたから。
ショウの友達でいなきゃって思いは、長い時間をかけて、いつのまにかおしゃれしたい私の気持ちをがんじがらめに縛っていった。
その人に対するイメージがあると思う。
一度ついた印象やイメージっていうのはずっと固定される。
そして、イメージからずれた時に『○○ちゃんらしくない』と人は簡単にそれを口にする。
だからこそ、ずっとスポーティーな服を着ていた私は、自分自身がそのイメージの枠からはみ出すのが――いつの間にか凄く怖くなってしまっていた。
かわいい服が本当は着たい! 髪も伸ばしていろんな可愛いアレンジ髪とかしてみたい!
キャラクターのストラップとか付けて、放課後友達とクレープ食べたりSNSに上げる盛った写真とか撮ったり女の子らしく遊びたい。
でも、勝手に私が人の目を気にして自粛するの繰り返しだ。
だから、誰に言われたわけじゃないけれど、いつのまにか自主的に『そういう可愛いの興味ないんです!』ってふりをして今日まで生きてきたのだ。
ショウの友達として傍にいるために……
そんな私の女の子としてのはけ口はネットの中にあった。こんな服着たいなとか、こんなの友達と食べに行きたいなとか。
私のことを知らない人たちの前では私は自由だった。
ショウともし付き合えたら、こんな風にデートしたい……とか。
そんな妄想を絵にしていたのだ、私は絵に関しては才能があったのか、私がおシャレできる場所が絵の中だったこともあって、私の絵を通してネットでたくさん友達ができたのだ。
ポーンとスマホの通知音がなる。
DMが届いてた。
『いつもイラスト拝見してます、ジャンルも推しもかぶっているようなので一度お話してみたくて。よかったら一度お会いしませんか?』
いつもだったら、即お断りしたことだろう。
でも、メイクしてSNSに上げられる男装した彼女の姿があまりにも格好よかったので私は誘惑に負けた。
「なんだよ、ニヤニヤして」
スマホをニヤニヤと見つめる私にショウがそう問いかける。
「別に、なんでもないよ」
そして、勇気を振り絞ってリサ姉と出会ったことで――――私の世界は一変した。
◆◇◆◇
「突然DMしてごめんなさいね」
有名レイヤーの人にプライベートで会うなんて初めてだよ……
ガチガチに緊張していた私の前に現れた人は綺麗なお姉さんだった。
私が彼女に会うのを決めた理由は、コスプレしたときにめちゃくちゃ好みのイケメンになるからというゲスな考えだった。
そう、ものすごくその人の顔が私の好みだったのである。
彼女は気さくな人だった、コスプレ姿はイケメンだし、やっぱり普段もきれい系かぁ。
オタトークは盛り上がった。
お茶してからカラオケに移動してオタカラが始まる。
気がものすごくあって、ヤバい一生もののオタ友できちゃった! と思ったのだけれど、この出会いが私の高校生活を激変させることになるだなんて、このときは思ってもみなかった。
忘れもしない2回目に会ったときリサ姉に言われたのだ。
「あのさ、この前もスッピンだったよね……ユウキちゃん化粧しないの?」
突然頬を掴まれたと思ったらそう言われたのだ。
でも化粧なんて私には……と思う。クラスでしているは子ちらほらいるけど。
ユウキのくせにとか言われたらやだなって私にストップをかける。
「この顔、絶対化粧で化ける、保証する。高校生でしょ絶対可愛いほうが人生得すること多いって。ねっ! お姉さんに任せなさい。可愛くしてあげるから」
そういって私は手を引かれるままにずるずるとトイレに連れて行かれた。
いつもはご縁のない、トイレの一角の鏡がドーンとある化粧直しのスペース。
そこで、私はリサ姉に魔法をかけてもらったのだ。
化粧という魔法を……
「ちょっと、えっ……リサ姉……」
「まかせといてよ。実はね、私もユウキちゃんと同じなの。この顔めちゃくちゃ頑張って作られた人工物なの」
こっちのことなんかお構いなしに、まずはベースメイクとか言い出したけれど、ポーチから何色出してるの、白黄緑ピンク紫って多い多すぎ。これだけ入れていたら鞄重くないの?
「あっ、スマホで動画取っておくといいわよ」
そう言われて私は素直に化粧されていく自分を録画し始めた。
適当にトントンとそのいろんな色が次々と顔に伸ばされていく。そのたびに、顔の色が一定になっていく。
「色をベースメークでしっかり均一にすればファンデーションは薄くつけるだけでいいから、フェイスパウダーとかでもOK。肌がきれいだとそれだけで綺麗に不思議と見えるもんよ」
サクサクと説明されていく。それに私は曖昧にうなずく、そして、ファンデーションを塗られる。
あれだけ下地を塗りたくられたのに、薄いほとんど化粧してない素肌のよう。
前自分で一応挑戦してやってみたときなんか、ファンデーションが厚化粧ぽかったのに。塗りたくった今のほうがよほどナチュラルという不思議。
「よし、今の状態で1枚写真撮っとこう」
パシャリととられる。
「リサ姉……これは何に使うの?」
「ユウキちゃんフォトショ使えるじゃない~、というか絵がかなり神じゃん。この顔をベースにして顔というキャンパスに絵を描くのよ。取り込んでどうすればいいかやってみるといいわよ」
「次は目ね。一重ってね特に化粧の魔法がよくかかるのよ。それにぱっちり二重なんて本当は日本ではかなり少ないの。ほとんどが作られた人工、動画しっかりその角度で持って撮ってね」
目に何かをぬられる。
「あの、今って何をしてるんですか?」
「アイプチ、二重にするわよ。それだけで顔がぱっと変わるから」
何回かスマホを操作されて動画を取られていく。私は目をそのまま閉じていろといわれて、つぎつぎと進んでいく。
そんなこんなで20分後。
「はい、もう良いわよ。私、今日完全神作画」
そう言われて私はゆっくりと目を開けたのだ。
鏡の中には、ベリーショートにボーイッシュな服をきているのに、かわいらしい女の子がいたのだ。眼なんか2倍になったんじゃないかと思うほどでかくなっているし。
「なんじゃこりゃぁぁあああ!」
「詐欺メイクってやつよ。顔の薄い我々に許される神が与えた奇跡よ」
元の顔はどこにいったのくらいの激変。
このメイクをされてからは、遊ぶ際に化粧品のお勧めを教えてもらったり、服を選んでもらったりとリサ姉にはめちゃくちゃ学ばせてもらった。
「今度のイベントあんた私に絡む役をすること、私以外の男役に絡むなよ~~ってこれは冗談よ。これからは自分のなりたい顔をイメージしてちゃんとできるように練習しなさい」
そんな遊びが続いた。
私は試行錯誤した。リサ姉の期待に応えたかったっていうのももちろんだけど、何より女の子らしいかっこをしてもいい自分になれたことが嬉しかった。
服はリサ姉のお古を安価で譲ってもらったり協力とアドバイスを受けながらついに完成した。
ぱっちりとした瞳に並行二重。アイラインで猫目。
眉毛でかなり印象がかわるとのことで、これが一番難航した。
まつ毛はなるべくマスカラをぬっても自然に長く見えるように工夫した。
なるべくナチュラルメイクに見えるようにガッツリぬりこみ、素材が可愛いの感を出した。
ウィッグも軽く巻くことでボリュームをだして顔を少し小顔に見せつつ顔のラインを隠す。
服装は、女性らしく。
私の努力のかいもあって、とうとう私はリサ姉から免許皆伝をいただいた。
そんなこともあってその日は浮かれていた。
リサ姉が認めてくれた可愛い姿のまま少しでも長くいたくて、いつもは、隣の駅のトイレなんかでメイクを落として着替えるのに……
今日は家の近くの公園のトイレで手早く着替えようなどと思ってしまったのだ。
ルンタルンタと鼻歌をうたって、スカートが嬉しくてくるりと何度も回りながら歩く私は完全に浮かれていた。
「ハンカチ落としましたよ」
そう声をかけられて、……スカートを履けたことが嬉しくてくるくる回っていたのを見られた!? って恥ずかしさが急激に襲ってくる。
「すみません」
急いで振り返るとスカートがふわっと翻った。
差し出されたハンカチを受け取り、拾ってくれた人物の顔をみて私は凍りついた。
だって、そこには、一番女らしい私を見せたくない人物が立っていたのだから。
茶色に染めた髪と人懐っこい笑顔をみて、ふわふわした気持ちから私はサーッと血の気が引いて現実に引き戻された。
「ありがとうございました!!!」
私はあわててお礼を言って走り出した。
一瞬だ一瞬、こんなに顔が変わってるんだからわかりっこない、ショウには正体はばれてない。
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