第41話 とりあえず油で
ようやく警視庁での取り調べが終わった。
やっぱり昼過ぎまでかかった。
話せるところだけは正直に話して、あとは誤魔化しておいた。どうせ俺たちの証言なんて単なる裏付けにしかならない。せいぜいあの邸の連中が逮捕されるくらいだろう。黒幕のクルップまでは手が届かない。普通にやればな。
晩秋の晴れ渡った空が眩しい。
適当に停めた人力車に春日を乗せた。こいつ取り調べ中ずっと眠ってたらしい。まぁ無理もないか。一晩中全力で気張っていたんだもんな。
「おい、春日、起きろ」
「え、あ、はい?」
「おまえは先に店に帰って寝てろ」
「え? 師匠は一緒じゃないんすか?」
まだ寝ぼけまなこで春日がいった。
「ああ、俺はちょっと寄るところがある」
俺は車夫に行先を告げ、金を渡した。
さて、俺は眠気覚ましに歩くか。しかしここはどこだ? 日比谷辺りか?
乾いた風が吹く晴天の東京をぶらつきながら、行きつけのパブにやってきた。
銀髪隻眼のマスターは相変わらずの無関心で迎え入れてくれた。
うん、この放っとかれ具合がいいんだよな。
俺はローストビーフのサンドウィッチとポテトとエールを注文した。
もの凄く腹が減ってるんだよね。もうね、干からびてる感じ。体再生したから。
「あとなんでもいいから油、出来ればオリーブオイル」
マスターはあからさまに汚物を目の当たりにしたような顔になった。
いや、だって、手っ取り早くエネルギー補給するには油がいいんだよね。胸やけするけど。
さて、昨夜の出来事は事件になっているのかな。俺は新聞を開いた。
エールと油を交互にがぶ飲みし、サンドウィッチ片手に記事を読む。
そうだろうと思ってはいたが、まったく載っていない。華族の邸が爆発騒ぎだぜ? まぁ夜中の出来事だし、間に合わなかったともいえるか。
肩透かしを食らっていると、店のドアが勢いよく開いた。
「トキジクさんは居るかい?」
勝手知ったように這入ってきたのはマグナス卿の使いっ走りのガキだった。
「手紙を預かってきたぜ」
小銭を渡すと、ガキは嬉しそうに下駄を鳴らして出て行った。
それにしてもあの人なんなんだろうな。俺がこの店に居ることわかってんの? もしかしてマスターがなんか連絡してんのか?
俺はマスターの方をチラリと見やった。それに気付いたマスターは、肩をすくめるだけだった。
手紙には、三日後に会おう、と書いてあった。
今回は大分世話になったからな。とりあえず一言もの申しておかないと気が済まねーな。
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