第9話 『真』友人との会食
私は急いでしわしわになった服を脱ぐと、私の服リストのなかで唯一の背広を着た。
香水というのはあまり好ましいとは思っていなかったが獣と触れ合う機会が多いためその臭いが体に染み付いている可能性を考え軽く振りかけた。
香水の中でも割と自然な柑橘系の香りがするオー・ド・トワレを。
私がこれから会うシエラという女性は私の父の友人の娘だ。
私が17の時に
「友人の家に行くからお前もついてきなさい」
と言われついていったところ彼女と出会い、話をするうちに馬があって今でも時々こうやって会うくらいには仲良くなった。
家の近くの道でタクシーを拾い向かうと約束の5分前に予定していたレストランに着いたが彼女はまだ来ていなかった。
結局彼女が姿を見せたのは約束の30分過ぎであった。
彼女は私を見つけると申し訳なさそうな表情で席についた。
「ごめんなさいね、本当なら10分前には着く予定だったのよ。都心は今あんな状況でしょ?想像以上に混乱しててね、タクシーをなんとか拾って安心してたらひどい渋滞に巻き込まれちゃって」
彼女の言いたいことは具体的にはわからなかったが、とにかく何かしらの良くないことがあって渋滞に巻き込まれたと考えることにした。
「いや、私も変なことに巻き込まれてね、慌ててきたから一息つける余裕ができてよかったと思ってるくらいだよ」
「一息どころか十息位になってないかしら」
「正直に言うと約束をすっぽかしたのかと思ったよ、あと十分来るのが遅かったら一人での外食もたまには悪くないと自己暗示をかけるところだった」
「本当に申し訳ないことをしたわ」
「もういいさ、それに完全に君が悪い訳じゃない、たまたまそうなってしまったってだけだ。そんなことより今日は楽しもうじゃないか」
そこまで言うとタイミング良くウェイターがやって来た。
「お酒はどうされますか?」
私はずらりとお酒がならんだメニューにさっと目を通すと彼女に渡して言った。
「なんでもいいけれど食事に合うのがいいね」
「ワインでいいんじゃない?私は白にするけどあなたは?」
「ロゼはある?」
私はウェイターに尋ねた。
「申し訳ございません、置いてありません」
「赤と白を混ぜたらいいじゃない」
彼女は悪戯な表情を浮かべながら言った。
「残念ながら一度試したことがあるんだ、あまり味の分からない私でも良いものではないという結論がでたけれどね」
「本当にやっているなんて思いもしなかったわ」
「そのとき私の頭は逝ってたんだと思う。ああ、すまない待たせたね、彼女は白、私は赤でいい」
ウェイターは私の言葉を聞くと下がっていった。
食事は彼女オススメのコースにした。
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