第50話~新しい世界へ

 私達は、唖然として目の前を見つめています。ついこないだまでここは、崖の壁がありました。トンネルを掘ろうか? と私が言ったところです。

 そこは穴どころかその崖の壁がなくなっています! そして私が立っている場所は森のはずなのですが、草は踏みつぶされ深い森のイメージではなくなっています。辺り一面そんな感じなのです。


 「いや、聞いてはいたけど、この前とこの変わりよう……」

 「ここだけ別空間に感じるね」


 私がそう言うと、うんとユージさんは静かに頷きました。

 地図を承諾してもらえて、ホッと一安心した後の事です――。



 ◇



 「その代わり……」


 黒板が手に入ると喜んだ時、お兄さんがそう言ってにっこりと微笑んだのです。私達は何だろう? と顔を見合わせる。

 今までの経験で言うと、人がやらない事を押し付け……いえ、お願いされていたのですが。


 「崖の外に行くのなら、迷宮ではなく街の場所の探索の方でお願いしますね!」


 うん? 壁の外? 街の場所の探索?


 私達は意味がわからなくて、また顔を見合わせる。


 「どういう事ですか? 壁の外って?」

 「えぇ!! 知らないんですか? あんなに大騒ぎになったのに!」

 「いや僕達、森の地図を……」

 「え? でも、聞こえませんでした? 爆発の音?」

 「ば、爆発!?」


 私が驚いて叫ぶと、お兄さんはそうそうと頷きました。


 「あ、でも、リアルの時間だと真夜中だったからログアウトしていたかな? いやぁ、流石にここまで音は聞こえなかったんだけどさ、地響きがあって驚いたよ!」


 そう言ってお兄さんは出来事を語り始めました――。


 18日の光の刻になって直ぐに地響きがあり、崖の壁を発明家が爆弾を発明して爆破したのでした!

 その後王様から命令で、そこの瓦礫などの撤去と壁の向こう側に行くルールが作られたのです。


 ギルドは崖の向こう側の探索を優先し、迷宮の探索と向こう側の拠点となる街の場所の探索をする事。

 言われずともそうしたい人たちが、崩れた崖の瓦礫を撤去し、今日19日の朝一斉に向こう側に探索に向かったそうです!


 「何それ……」


 ユージさんが話を聞いて、ついそう漏らしました。

 私達は黒板を手に入れたらこっそりと、崖の壁の向こう側の探索に行くつもりだったのです! ところが道が出き、皆崖の向こう側に……。


 「本当は俺も行ってみたいんだけどねぇ~。だから早く街を作れる場所を発見して下さいよ! あ、手続きは、いつも通りタブレットからお願いします」


 そう言って期待の眼差しでお兄さんに言われました。


 私達は慌てて部屋に、戻りタブレットを覗き込む。

 緊急命令として、選択肢が二つしかなくなっていました!


 出来高で★の数が決まると書いてあり、探索の仕事は壁の向こう側に行けば免除。今年いっぱいはその予定です。と書いてあります。

 地図製作も募集していて、早い者勝ちのようです。


 取りあえず、約束通り街を作れる場所の探索の方を選ぶ。

 すると、探し方というか場所の条件が表示されました。


 硬石層こうせきそうがある地盤に街を作りますので、その場所を探して下さい。探し方は地質調査器を使い調べます。――


 地質調査器は、貸し出しをしているみたい。


 「こうなったら、地図製作しつつ地層探しだね」


 ユージさんの台詞に私は頷く。


 今、崖の壁のこっち側にいるのは、私達と事務仕事をしている職員のプレイヤーだけだと思う。殆どが探索に向かってしまっています。

 もしかしたら街を建てる場所は、すでに発見されているかもしれないです。


 「あ、そうそう。ペーパー黒板も頼まないと……」


 ★四つ消費して、念願の黒板をゲットです!


 「よし! 気を取り直して崖の向こう側に行ってみよう!」

 「うん!」


 私達は黒板と地層調査器を取りにカウンターに向かいました。




 「え? ないの?!」


 黒板は受け取れたのですがなんと! 地層調査器がなかったのです!

 ユージさんが驚くのも無理ないですよね。


 「まあ、それも発明品だから数はないとして、そんなに探索に向かったのか……」

 「あ、いえ……。街の場所探索は、10組ほどです。多分ですが地層調査には使ってないかと……」


 うん? どういう事?


 「その発明品ですが、硬い、柔らかい、そして空洞もわかるものなのです……」


 すまなさそうにお兄さんは言いました。


 「つまり、街の場所探索を選んだのは、それを手に入れる為で、本当は迷宮探しをしているって事?!」


 驚いてユージさんが聞きました!

 なるほどそういう事なのね!


 「……えーと。両方の探索を選ぶ事ができるので、大きなギルドでは数名を街の場所探索をして、メインは迷宮探索だと思われます。多分そっちに使っているだろうと……」


 なんと、ずる賢い……。


 「え? じゃ僕達はどうやって探すわけ!?」

 「いつもの引きの強い運で何とか!」

 「無理言わないでよ!」


 お兄さんが手を合わせ言うも、ユージさんは速攻そう返した。

 運というか、魔法陣で乗り切ってるんだけど、今回は難しすぎます!


 「今、発明してもらっている所で……出来上がったら一番に渡しますので、それまでは地図製作でお願いします。あ、これ、貸し出しますから!」


 頭を下げながら右手を出してきました。私からはお兄さんの手の上に何があるのか見えないけど、ユージさんには当然見えています。


 「何? これ?」


 ユージさんは摘まんで、それを覗き込みました。何か小さな鉱石に先が尖がっている物が付いています。


 「ワープマーカーです。魔力を注いで地面に刺すと、そこに戻る事が出来る物です。手を繋いでいれば、三人までワープ可能な物です! 凄いでしょう? それお貸しますからそれでお勘弁を」

 「わかりました。では探索が終了するまでお借りします」


 こくんとお兄さんは頷きました。


 「あ、ワープした後、回収をお忘れなく」

 「はい。では行って来ます」

 「お願いしますよ~!」


 何故かブンブンとお兄さんは手を振っています。

 実質ちゃんと街の場所を探しに行くのは、私達だけなのかもしれません!


 ◇

 

 こうして今、崖の壁があった場所を見上げていたわけです。


 「行こうか」

 「うん」


 私達は壁の向こう側に歩き始めました。

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