新たなる力
「ゼクス起きてる?」
「ああ起きてるぞ」
「なら果物切ってきたから食べる?」
「頂こう」
ゼクスの言葉を聞き、私は瑞々しい黄色い果物が乗った皿を持ちながらゼクスが横になっているベッドに近付いた。
するとゼクスはベッドから身を起こし私が来るのを微笑みながら待っていたのだ。
「・・・ゼクス、起きて大丈夫なの?」
「ああもうだいぶ良くなってきたからな」
「それなら良いけど、無理はしないでね」
「分かっている」
実はゼクスはあの力の暴走のせいで体の調子を崩してしまい今は療養中なのである。
だがリカルドの話では、どうやら強化版ガザールから力をだいぶ吸収していたお陰で寿命自体が短くなる事は無かったそうだ。
むしろ逆にちょっと延びた程らしい。
しかし無理な魔力の放出をした事で体に負担が掛かり、その体を回復させるため暫く体を休ませる事になったのだ。
さすがの私も傷では無いので治癒魔法は使えず、その代わりゼクスの看病をさせて貰っているのである。
私はベッドの横にある椅子に座ろうと近付くとスッとゼクスの腕が伸びてきて私の腰を抱きベッドの縁に座らせてきたのだ。
「ゼクス!?」
「この方がそなたを近くに感じられるからな」
「っ!」
ゼクスが微笑みながら愛しそうに私を見てきたので、私は顔を熱くさせながら俯いてしまった。
しかしそんな私の顎にゼクスが手を添えてきて顔を上げさせられてしまったのだ。
「ふっ、どうした?顔が赤いが熱でもあるのでは?ならば我と一緒に寝た方がいいな」
「ち、違うよ!!これはゼクスが!!!」
「我が?」
「っ!もういいよ!それよりもほらせっかく冷えて美味しそうな果物が温くなっちゃうよ!」
「くく、そうだな。では頂こうか」
「はいどうぞ。一応食べやすいように一口サイズに切っておいたからこのフォークで刺して食べてね」
「うむ」
しかし私が果物の入った皿とフォークをゼクスに差し出しているのだが、何故か全然ゼクスは動こうとはせず私を楽しそうに見ながら受け取ってくれなかったのである。
私はそんなゼクスの様子に小首を傾げながら不思議そうにゼクスを見たのだ。
「ゼクス?」
「・・・本当にそなたは愛らしいな」
「なっ!?いきなり何言い出すの!!」
「ふっ、無自覚なのもまた良い」
「意味分からないから!!それよりも早く食べて!」
「うむ、頂こう」
「・・・・・なんで受け取らないの?」
「レティが食べさせてくれるのを待っているからな」
「え!?」
「我はレティの手から食べたい」
「っ!!べ、べつに腕怪我してるわけじゃ無いんだから自分で食べれるでしょ!!」
「それでも我はレティから食べたいのだ」
そう愛しそうに私を見つめながら言ってくるゼクスに、私は心臓が早鐘を煩くて打ち鳴らせているのを感じながらもぎゅっと持っているフォークを握りしめ一つ小さく深呼吸した。
「・・・分かった」
そう私は恥ずかしそうに返事を返すと、皿に乗った瑞々しい果物をフォークで刺してゼクスの口元に持っていったのである。
「はい、あ~ん」
「うむ」
ゼクスは一つ返事をするとその口を開けてきたので、私は落とさないように気を付けながらもその口の中に果物を入れてあげる。
そうしてゼクスが口を閉じたので慎重にフォークを引き出しゼクスの口からフォークを取り出した。
そしてゼクスは口の中に残った果物を咀嚼したのだ。
「・・・うむ、美味いな」
「それは良かった!これ魔族の民からゼクスへのお見舞いで貰った果物なんだよ」
「そうなのか。では体が良くなったらお礼に行かねばな」
「そうだね!あ、まだ食べる?」
「うむ、貰おう」
だがやはり口を少し開けて私をじっと見てくるので、私はもう諦めたと観念してそのままゼクスの口に果物を運ぶ事にしたのである。
そうして段々餌付けしている気分で楽しくなりながらゼクスに食べさせていると、最後の一欠片になった時突然ゼクスが果物の刺さったフォークを持った私の手を握ってきたのだ。
「どうしたのゼクス?もういらない?」
「いやまだ食べれるが・・・そなたはこの果物は食べたのか?」
「え?ううん、まだ食べてないよ。あ、だけどまだ沢山あるから私の事は気にせず食べて良いからね」
「・・・ならば、せめてこれだけでも食べてみるか?」
「え?う~ん、まあ確かに凄く美味しそうだし・・・ならそれだけ」
「うむ、分かった」
あまりにも美味しそうな見た目と、先程から漂ってくる果物独特の甘い匂いに正直凄く食べたかったので私はコクリと頷いたのである。
するとゼクスはそんな私を見て楽しそうに笑い、そして何故か私の持っている果物の刺さったフォークを奪っていったのだ。
「え?」
「ほら、あ~んと言うのだろう?」
「っ!ゼ、ゼクス!!じ、自分で食べれるから!!」
「いいから、ほら、あ~んだ」
「うう・・・あ~ん」
凄く恥ずかしくなりながらも渋々私は口を開き、その口にゼクスが果物を入れてきてくれた。
そして私はゼクスに見つめられながら口の中に入った果物を食べたのだ。
(・・・うわぁ~!甘酸っぱくて美味しい!!!)
私はそのあまりにもの美味しさに頬を緩めニコニコとしながらゴクリと飲み込んだのであった。
「レティは美味しそうに食べるな」
「だって、本当に美味しかったから!」
「ふむ・・・では我ももう少し味わうかな」
「あ、ならもう一回切って・・・」
「いや、これで十分だ」
「え?・・・んんん!?」
ゼクスがまだ食べたそうだったので私はもう一度台所で果物を切りに行こうとすると、突然ゼクスが掴んでいた私の腰をさらに強く引っ張りそしてその勢いのまま私の唇がゼクスのそれに塞がれてしまったのだ。
私はその突然の出来事に目を見開いて驚いていると、さらにゼクスは私の口の中に舌を入れてきて口内を嘗め回してきたのである。
「んんんん!!」
その激しい行為に私は口を塞がれながら抗議の唸り声をあげるが全く聞いてもらえず、むしろ益々口づけが深くなっていったのだ。
そしてその口づけに翻弄されている間に、いつの間にか持っていた皿やフォークがゼクスの手でベッド横にあるサイドテーブルに置かれ私はそのままベッドに押し倒されてしまった。
しかしそれでもゼクスはその口づけを止めてくれず、結局私がぐったりと力が抜けるまで続いたのである。
ゼクスは唇を離したあと体を少し離して上からじっと私を見つめてきた。
そして私を見つめながら深い口づけによって濡れた唇をペロリと嘗めたのである。
その妖艶な様子に私は目を反らす事が出来ず思わずドキッと心臓が大きく跳ねたのだ。
「うむ、美味であった」
「っ!!」
ゼクスは熱を帯びた瞳でニヤリと笑い私の濡れた唇を親指で拭ったのである。
「では・・・次はレティ自身を味わわせて貰うかな」
「なっ!?ちょ、ちょっと待ってゼクス!」
「待てぬ」
そう言うと同時にゼクスは再び私に覆い被さりペロリと私の喉を嘗めたのだ。
「ん!」
「ふっ、可愛らしい声だ」
「っ!は、恥ずかしいからそんな事言わないでよ!」
「くく、まあもっと聞かせて貰うがな」
そうしてゼクスは含み笑いを溢しながらさらに胸元に向かって口づけを繰り返していく。
私はその行為に恥ずかしさとなんとも言えない感覚に耐えながらも、好きな人と一緒になれる喜びを感じ私はそのままゼクスに身を任せる事にしたのである。
しかしその時───。
「・・・ゴホン、お世継ぎを早く作られるのは大変宜しい事なのですが、さすがにそれはゼクス様の体調が戻られてからにして頂けませんか?」
そんな声が聞こえ私は驚きながら慌ててその声がした方に首を捻って確認すると、そこには薬の入った小瓶と水の入ったコップが乗ったお盆を持って呆れた表情でこちらを扉付近に立って見ているリカルドがいたのだ。
「リ、リカルド!!」
「・・・リカルド、出来れば気を利かせて欲しかったのだがな」
「そうして差し上げたいのは山々なのですが、ゼクス様の治療をさせて頂いている身としては、ゼクス様のお体に負担が掛かる事はお止めしなくてはいけませんので。ですのでお体がお戻りになられた時は気兼ねなくお世継ぎをお作り下さいませ」
「き、気兼ねなくって!!」
「まあ確かにその時は遠慮などしないがな」
「っ!ゼ、ゼクス!!」
「だが・・・一度くらい良いではないか?」
「いえ、まだ完全に良くなられてはいらっしゃらないので」
「うむ・・・残念だ」
リカルドのキッパリとした言葉と態度に、ゼクスは渋々ながら苦笑しリカルドが現れてもまだ私の胸元に顔を乗せていたその顔を離してくれたのである。
しかし顔は離してくれたが何故か私の上から退く気配を見せないゼクスに私は戸惑っていたのだ。
「ゼクス?そろそろ退いて欲しいんだけど・・・」
「・・・・」
「ゼクス!」
「・・・断る」
「ちょゼクス!離して!リカルドが見てるから恥ずかしいんだけど!!」
「見せつければ良い」
そうゼクスは言いながら楽しそうに口角を上げぎゅっと私を抱きしめてきた。
私はそのゼクスの抱擁に激しく動揺しながらもチラリとリカルドの方を見ると、リカルドは肩を竦め諦めた表情になっていたのだ。
(ちょ、リカルド助けてよ!!)
そう私は目でリカルドに訴えるが、リカルドは小さく首を横に振ったのである。
「まあこれぐらいなら大目にみます」
「なっ!?」
「そうか、では遠慮なくレティの抱き心地を堪能する事にするかな」
ゼクスはそう楽しそうに言うとさらに私を抱きしめる力を強め、そして何度も私の頬に口づけを落としてきたのだ。
「ちょ、ゼクスお願いだから止めて!恥ずかしいよ!!」
しかしそんな私の訴えなど聞こえていないかのようにゼクスは止めてくれない。
そしてリカルドはそんな私達の様子を呆れた表情で見ながらも、黙々とサイドテーブルに置いてあった皿を横に退かしその横に薬の乗ったお盆を置いていたのである。
(も~!なんなのこの状況!!ああ!!今すぐここから抜け出したい!!!)
そう心から願った瞬間、奇妙な浮遊感と共に一瞬視界が暗転しそしてすぐに視界が開けた。
「・・・・・え?」
私は突然自分の身に起きた出来事と目の前に見える光景にポカンと口を開けて固まる。
その私の目に映っている光景と言うのが、何故かリカルドの後ろ姿とベッドでなにかを抱きしめている形で固まっているゼクスが見えたからだ。
そして私の驚きの声に二人は一斉に私の方を見てきたのである。
「「レティ!?」」
その二人の驚きの声に肩をビックと震わせ私は何度か瞬きをしてゆっくり小首を傾げた。
「な、なんで私ここにいるんだろう?」
「それは我が聞きたい。突然我の腕の中からそなたが消えそしてそこにそなたが移動していたのだからな」
「や、やっぱりそんな感じだったんだ。確かに一瞬転移魔法と感覚が似てたけど、でも今私一人だし・・・」
私は先程の状況を思い出し顎に手を添えながら考えこむ。
するとそんな私の側にリカルドがじっと私を見つめながら近付いてきたのである。
「転移魔法によく似た感覚・・・もしかして」
「リカルド?・・・うぎゃ!」
リカルドは何かを考えながらブツブツ呟くと、突然私の両頬を手で挟むとグイッと強制的に上を向かされてしまった。
その強引な動かし方に思わず変な呻き声を上げてしまったが、リカルドはそんな事気にも止めずさらにじっと私の目を見つめてきたのだ。
「・・・リカルドどうした?」
そんなリカルドの様子にゼクスはガウンを羽織ながら怪訝な様子で近付いてきたのである。
「・・・やはりそうですか」
「・・・リカルド一体何?正直首痛いんだけど・・・」
「少し我慢して下さい。ゼクス様これを見て頂けますか?」
「なんだ?」
ゼクスはリカルドに促されじっと私の顔を見てきた。
「レティの瞳・・・よく見るとうっすら赤みを帯びているのが見えませんか?」
「・・・・・確かに。だがよく見ないと分からない程だな」
「はい、ですから今まで気が付きませんでした」
「だが、それがどうしたと言うのだ?」
「ゼクス様・・・私の血をレティに少し飲ませたのは覚えていらっしゃいますか?」
「うむ。レティを助けるために仕方がなくやったと言っていたな」
「はい。一応私の血を飲ませたのですぐにレティの体に変化や不調がないか調べました。しかしどこにも異常が見当たらなかったので問題ないと思っていたのですが・・・」
「・・・・・その血の影響で転移魔法が使えるようになったと言うことか」
「そのようです」
その二人の会話をリカルドに顔を掴まれながら聞いていた私は、その思いがけない言葉に目を見開いて固まったのだ。
(・・・・・え?・・・転移魔法を・・・私が使えるように・・・なったって事!?・・・・・やったぁぁぁぁぁ!!!)
私はその事に心の中で歓喜の雄叫びを上げたのである。
「リ、リカルド!ほ、本当に私転移魔法使えるようになったの!?」
「え、ええ恐らくですが・・・」
頬を掴まれた状態のまま私が食い気味にリカルドに聞くと、リカルドは若干頬を引き攣らせながら肯定の返事を返してくれた。
私はその事に顔をニマニマと緩ませて喜ぶ。
「・・・ゼクス様」
「くく、レティには全く問題では無いようだな。むしろ喜んでいるようだ」
リカルドは戸惑った表情でゼクスの方を向くと、ゼクスはそれはそれは楽しそうに笑みを浮かべていたのである。
しかしそんな二人の様子よりも、私はさっそく憧れだった転移魔法が使いたくてウズウズしていたのだ。
「よし使ってみよう!!とりあえず・・・お城の庭に転移!!!」
そう私は叫び移動先である薔薇の咲き誇った庭をイメージして転移魔法を発動させたのである。
そうして先程感じた奇妙な浮遊感と暗転が起こりすぐに視界が開けたのであった。
「よし!庭に到・・・・・あれ?」
私は目の前に広がっているであろう薔薇園を期待していたのだが、何故か目の前には両開きの扉がありそして回りを見渡すとどうも廊下に立っているのである。
さらに目の前の扉はついさっきも見たばかりの扉であったのだ。
するとその扉がガチャリと中から開き、そこからリカルドが顔を出してきたのである。
「え?ええ!?ここってゼクスの部屋の前だよね?なんで!?」
「・・・・・どうやら貴女の転移魔法は効果範囲が狭いようですね」
「そ、そんな馬鹿な!いや、たまたまかもしれないしもう一回挑戦しよう!!」
そう私は言うとすぐに転移魔法を使って再び薔薇園をイメージしたのだ。
だが・・・・・やはり先程いた場所より廊下を少し行った先に転移したのであった。
「・・・うわぁ~これ使えない」
そのあまりにも期待外れの転移魔法に私はガックリと肩を落とし項垂れたのだ。
そしてそんな私の姿をゼクスとリカルドが廊下に出て苦笑しながら見ていたのであった。
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