魔王と元魔王

 ガザールが荒い息をあげ持ってる剣で体を支えながら憎々しげにゼクスを睨んでいた。


 しかしその睨まれている方のゼクスは、余裕の笑みを浮かべながらガザールを見ていたのだ。




「ゼ、ゼクス・・・何で貴様はそんなに平然としてられるんだ!!」


「ふっ、我とお前とでは力の差が違うからな。まだまだ童のお前などに我が負けるはずなかろう」


「なっ!童だと!?だったら貴様はじじいじゃねえかよ!!」


「むっ、我はまだまだ若いぞ」


「見た目だけ若いだけだろうが!!」




 ゼクスのとぼけた言い方に、ガザールが目くじらを立てて怒鳴ったのである。




「そもそも何で今頃俺の前に現れた!」


「だからお前に話があると言っていたであろう」


「話だと~?一体なんだ!!」


「・・・お前・・・同族である魔族達を己の私欲の為に殺しているそうだな」


「はぁ?それがどうした!俺より弱い奴が俺に使われて死んでいるだけだ。そもそも弱い魔族などべつに居ても居なくても変わらねえだろうが!それなら俺が有効利用してるだけだ。それよりも何で貴様はそんな事を知ってる!」


「・・・やはりお前に王の座を譲ったのは間違いだったな。いくら力があっても、王としての器が全く出来ていない。これは確かに我が怒られるのも無理はないか」




 そうゼクスはガザールの質問に答えず、一人自嘲気味に呟いて笑ったのだ。




「一体貴様は何言ってやがる!それに誰に怒られるって言うんだ!」


「我の愛しい人だ」


「はぁ?」


「そうそうそれでお前に話と言うのは・・・この城を返して貰うぞ。ついでに王の座も」


「・・・・・はぁ!?なに馬鹿な事言ってやがる!!」


「馬鹿な事ではない。我は本気だぞ?この城を我が愛しい人と住む新居にしようと思ってな。ついでに王妃にでもなってもらおうかと思っておるから、お前のその地位を返して貰おうとやって来たのだ」




 ゼクスはうっすら笑みを浮かべながら、ガザールの様子を伺い見ていた。


 そしてそのガザールは、最初ゼクスの言葉にポカンとした顔をしていたが次第に体を震わせ怒りの形相でゼクスを激しく睨み付けたのだ。




「ふ、ふざけやがってーーーー!!!」




 ガザールはそう叫ぶと、再び剣を構えてゼクスに向かって襲い掛かっていった。


 しかしゼクスはそんなガザールの剣を余裕で避け、そしてすれ違い様ガザールの横っ腹に闇の玉を撃ち込んだのである。




「ぐぁ!!」




 そうガザールは苦痛の声を上げながら、壁に向かって吹き飛び壁に激しく激突したのだ。


 だがしかしさすが最上級魔族なだけあり、苦痛の表情を浮かべ口の端から流れ出た血を腕で拭い取りながらすぐさま立ち上りゼクスを睨み付ける。




「やはりこれぐらいではやられんか」


「舐めんじゃね!!そもそも貴様の言う愛しい人って言うのも俺を馬鹿にするための戯言だろうが!!!」




 そうガザールが叫んだその時、突然地面から大きな衝撃と共に城全体が一瞬激しく揺れたのだ。




「な、何だ!?」


「ふむ・・・なかなか派手にやったようだな」


「はぁ?もしやゼクス!貴様何か知ってるのか!!」


「いや、この揺れは何によって引き起こされたのかは分からぬぞ」


「嘘を言え!なら何故そんな楽しそうな顔をしてるんだ!!」




 ガザールがそう言った通り、ゼクスはガザールと対峙しているのにとても楽しそうに笑っていたのだ。




「・・・さて、もう少しだけ相手をするか」


「なっ!?」




 ゼクスがボソッと呟くと同時に、ゼクスは背中に黒い大きな鳥のような羽を出し一気にガザールの下に飛び立つ。


 そしてあっという間にガザールに詰め寄ると、その首を掴んで持ち上げそのまま謁見の間の中央まで投げ飛ばしたのだ。




「ぐがぁぁ!」




 ガザールは床の上を何度か跳ね飛んだのである。


 しかしガザールは、痛みに堪えた表情で剣を支えに立ち上り眉間に皺を寄せながらゼクスを睨み付けた。




「くっ、貴様・・・まだ本気をだしていなかったな!!」


「ふっ、これでもまだまだ本気では無いのだがな」


「なっ!」


「我を本気にさせたいのであれば、お前も死ぬ気で掛かって来る事だ」


「くっ!!」




 ゼクスの余裕の笑みに、ガザールは歯を噛みしめ悔しそうに唸ったのだ。




「ああそう言えばお前、我の愛しい人を戯言だと言っておったな」


「・・・それがどうした」


「ふっ、ではお前に紹介しよう・・・」


「あ、ゼクス!お待たせ!!」


「この者が我の愛しい人だ」


「へっ?」




 突然ゼクスの近くにリカルドの転移魔法で現れたレティシアを、ゼクスは腰を抱いて抱き寄せ驚いているレティシアを無視してガザールに見せつけるように抱きしめたのである。


















     ◆◆◆◆◆




 私は救出した魔族達を安全な場所まで避難させた後、リカルドの転移魔法ですぐにゼクスの下に向かった。


 そして相変わらず慣れないその転移魔法で飛んだ先にゼクスの姿を見つけ、私は笑顔で手を振りながらゼクスの下に走り寄ったのだ。


 するとそのゼクスは何故か急に私の腰に手を回してきて、私を抱き寄せきたのである。




「この者が我の愛しい人だ」


「へっ?」




 そのゼクスが私を抱きしめながら突然そんな事を言い出したので、私は全く訳が分からず驚きの声を上げたのだ。




「ゼ、ゼクス!?一体何言ってるの!?」


「ん?我はおかしな事など言っておらぬぞ?そなたは我の愛しい人だからな」


「っ!!」




 ゼクスが私を見つめながらそんな事を言ってきたので、私は一気に顔を熱くさせ激しい動悸に襲われた。




「な、な、何をいきなり!それもこんな時に!!」




 私は激しく動揺しながら、ゼクスの腕から抜け出そうと藻掻くがゼクスはそんな私を楽しそうに見ながら全然離してくれなかったのである。




「・・・ああ!お前は!!あの時侵入してきた人間の女!!!」




 急にそんな叫び声が聞こえ私はその声のした方を見ると、ガザールが驚いた表情で私を指差しながら瞠目していたのだ。




「あ、どうも」


「ど、どうもじゃねえ!!何でお前がここに!!それもお前がゼクスの愛しい人だと!?一体どう言うことだ!!!」


「いや来て早々私も、いきなり言われて状況がよく飲み込めていないんだけど・・・」


「はっ!そうかお前・・・ゼクスの手の者だったんだな!だからあの研究室をこっそり調べていたんだろう!!なるほど・・・お前、人間の女に化けている魔族だな!ふん、俺の目は誤魔化されんぞ!」


「・・・・」




(いや、何言ってるんだコイツ。私が魔族とかどうしたらそんな発想になるんだろう?)




 私はそう思い、呆れた目をガザールに向けたのである。




「な、なんだその目は!」


「いや、同じ最上級魔族の魔王なのにこうも違うものかと・・・」




 そう言って私はガザールとまだ私を抱き寄せたまま黙って楽しそうに笑っているゼクスを見比べた。




「・・・何が言いたい!」


「・・・馬鹿だと」


「なっ!?て、てめえ!!」


「そもそも私普通の人間で魔族じゃ無いよ。それさえ分からないなんて馬鹿としか言いようが無いんだけど」


「また馬鹿と言いやがったな!!そもそもお前の力がおかしいんだ!普通の人間が俺の攻撃を避けて逃げれるはずが無い!!それなのにお前は俺から逃げおおせた、そんなのを見れば人間じゃ無いと思うだろう!」


「・・・あなたが知らないだけで人間だって強い人いるんだよ」


「そんなはずは無い!」


「ほぉ~じゃあちょっくら試してみる?」




 私は段々イライラしてきたので、笑顔を浮かべながら額に青筋をたて指をポキポキと鳴らしだしたのだ。


 しかしそこでゼクスが私の腰を強く引き私を後ろに隠したのである。




「ゼクス?」


「奴の相手は我がするからレティは下がっておれ」


「え?でも・・・」


「あれでも一応王の座に座っている者だ。レティが強いのは認めるが・・・そなたにもしもの事があったらもう我は立ち直れん」


「・・・ゼクス」




 一瞬見せたゼクスの辛そうな表情に、私は何も言えなくなったのだ。




「それに・・・どうやら騒がしくなりそうだ」


「へっ?」




 チラリとゼクスが入口の扉を見て言ったので、私は不思議に思いながらその扉を見るといきなり大きな音を立ててその扉が開いた。


 そしてそこから全身焦げてボロボロになった服を着たダザリアが険しい表情で駆け込んできたのである。




「ガザール様!大変ですじゃ!捕らえていた魔族共が逃げ出しました!!」


「なんだと!!」


「それにワシの研究室も破壊されましたのじゃ!!」


「一体誰にだ!!」


「それが例の人間の女に・・・・・なっ!人間の女!お前何故ここに!?それにゼクスも!?」




 焦った様子でガザールに報告していたダザリアが、私達に気が付き驚きに目を瞠った。


 そしてすぐに目を吊り上げて怒りの表情で私を睨み付けてきたのだ。




「き、貴様!!よくもワシの研究室を破壊してくれたな!!!」




 そうダザリアが私に向かって怒鳴り付けてきたのだが、そんなダザリアを見てからゼクスが呆れた表情で私を見てきたのである。




「・・・レティ、派手にやったのだと思っておったがなかなかやっていたな」


「えへへ、ちょっとあの地下牢の状況見たら我慢出来なくてやっちゃった」


「・・・えへへではありません!ゼクス様、このレティは慎重に事を運ぶ予定だったのを面倒だからと言って強引に事を進めたのですよ!」


「まあまあリカルド、結果全て上手くいったんだから良いじゃない」


「そう言う事では無いのですよ!!」


「・・・珍しい。リカルドが声を荒げて怒っているなど」




 今までじっと黙ってゼクスの側に立っていたリカルドが、私の言葉に反応して不機嫌な顔でゼクスに訴えたのだ。


 するとそんなリカルドを見て、ゼクスが僅かに驚きの表情を見せる。




「珍しいでしょ?でも私はいつもの無表情よりこの方がずっと良いと思うんだよね」


「レティ!!」


「ふむ、確かにな。まあリカルドそんなに怒るでない。どちらにしろ我がこの城に再び住む事になったらあの研究室は壊すつもりでいたからな。それが早まっただけだ」


「ゼクス様・・・」




 ゼクスの言葉に漸く落ち着きを見せてきたリカルドと違って、ダザリアはゼクスの言葉にさらに目を吊り上げたのだ。




「なに!?ゼクスが再びこの城に住むだと!?ガザール様一体どう言う事ですか!?」


「そんな事俺に聞くな!そいつが勝手にやって来て王の座と城を返せと言ってきたんだ!!」


「なんですと!?」


「それよりも、研究室が破壊されたのは本当か!?それもそこの人間の女がやったと」


「そうでございます!」


「女・・・お前絶対許さねえ!ゼクス共々なぶり殺してやる!!」




 そう目を血走らせながらガザールが叫んできた。


 するとその時、開け放たれた扉から沢山の武装した兵士達が雪崩れ込んできたのだ。




「ガザール様ご無事ですか!?」




 そう兵士の一人がガザールに声を掛け、不審者である私達に向かって武器を構えた。


 しかしそこにゼクスがいる事に気が付いた兵士達は困惑し動揺しだしたのである。




「ゼ、ゼクス様?何故ここに?」


「おい貴様達!何をしている!ガザール様の敵であるこの侵入者を今すぐ殺すのだ!」


「し、しかしダザリア様・・・」


「・・・そこの者共を殺した者には、褒賞と其なりの地位を与える事を約束するぞ!」


「・・・・」




 そのダザリアの言葉に、動揺していた兵士達の目の色が変わったのだ。


 そして皆いやらしい笑みを浮かべながらギラギラとした目で私達を見てくる。




「・・・はぁ~これはもう説得とかしても無駄なレベルだよね」


「そのようですね」


「では、そっちはそなた達に任せるぞ。我はガザールを相手にしよう。リカルド、レティを頼むぞ」


「御意」


「・・・ゼクス、無理はしないでね」


「レティ、そなたもな」




 そうして私とゼクスはお互い背中を向け、リカルドは私の横に並び立つと私は徐に腰に挿していた剣をすらりと引抜きダザリアと兵士達に向かって剣を構えたのであった。

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