鍛冶師
漸く落ち着いてくれた三人とリビングに移動し、木のダイニングテーブルで寛いでいると、リムが両手で一生懸命飲み物が入ったコップを持ってきて私の前に置いてくれた。
「レティお姉ちゃん、はいどうぞ!」
「ありがとう、リム君」
私はリムにお礼を言って微笑むと、リムははにかみながら喜び再び台所にいるお母さん・・・レイラの下に駆けて行ったのである。
実は時間も時間だったため、夕飯をご馳走になる事になったのだ。
一応手伝いを申し出たが、案の定お客様だからと言う理由で断られてしまい、結局今はリムのお父さん・・・ダンとテーブルに着いて出来るのを待っている状態なのである。
「そう言えば・・・レティシアさん」
「あ、レティで良いですよ」
「ではレティさん、レイラから聞いたんだが剣を探しているらしいね」
「はい。愛用の木刀は壊れてしまい・・・さすがに武器が無いのはこれからなにかと危ないと思ったので。なので食事の後、ちょっとお店で剣を見せて貰っても良いですか?」
「ああ、それは構わないが・・・・・うん、よし!息子を助けて貰ったお礼も兼ねて、レティさんのために俺が剣を作ろう!」
「え?」
「足もこの通りすっかり治して貰ったし、レティさんにピッタリの剣を作ってやるよ!」
「い、いやいや、それはありがたいけど、そんなわざわざ私のために作ってくれなくて良いですよ。普通に店頭の買いますから」
「いや、それでは俺の気が済まないから!あ、ちょっとレティさんに合う剣を考えるから立って貰って良いかな?」
「は、はあ・・・」
ダンの押しの強さに諦めた私は、座っていた椅子から立ち上りお父さんに見えるように立ってみた。
「ふむふむ・・・身長がそれぐらいなら刀身はあれぐらいだな。あ、ちょっと剣を握る方の手を見せて貰うよ」
「あ、はい。どうぞ」
そう言って私は右手をダンに向かって差し出すと、ダンはその右手を両手で触り真剣な表情で手の感覚を確認したのである。
するとそこに、出来た料理が乗った皿を持ったリムとレイラがやって来たのだ。
「あ~父ちゃん!レティお姉ちゃんの手握ってる~!!」
「まぁ~やっぱりあなたも若い女性の方が良いのね・・・」
「なっ!?ち、違う!こ、これはレティさんの剣を作るための参考で・・・俺が愛している女はレイラ、お前だけだ!!」
「ふふ、分かってますよ。本当はあなたがレティさんに剣を作る話聞こえてましたから。それにそれは相手が男性でもやってますしね」
「よ、良かった・・・」
「でも・・・それが本当は下心ありだったら・・・分かるわよね?あ・な・た」
「っ!!」
レイラのニッコリとした笑顔の裏に見える黒いオーラを感じたダンは、頬を引き攣らせすぐさま私の手を離す。
するとリムも何かを察したのか、無言でささっと持っていた皿を机の上に置きすぐに自分の席に大人しく座ったのであった。
「レ、レティさん、剣の話は食事を終えてからにしようか!」
「は、はい!」
そして私達も急いで席に戻ると、すっかり黒いオーラが消えたレイラも交えて楽しい夕食を過ごす事が出来たのである。
そうして美味しい食事を終えた後、具体的にダンとどんな剣が良いのか話し合い、それからダンは工房に一人籠ったのであった。
──────ダンが工房に籠って3日が経過した夜。
「よし!出来たぞ!!」
そう言ってダンは、顔中煤で汚れながらもとても良い笑顔で工房から出てきたのだ。
そしてその右手には、とても美しい装飾が柄に施されたパッと見た目でも分かる素晴らしい剣を握っていたのである。
「父ちゃんお疲れ!」
「あなた、お疲れ様です」
「ダンさんお疲れ様でした!!」
私達三人は、其々ダンに労いの言葉を掛けたのであった。
「俺の渾身の力作だが、レティさんどうだろう?」
「・・・じゃあちょっと失礼します」
そうして私はダンから剣を受け取ると、その柄の感触と重さを確かめる。
そして三人から少し離れ周りに何も無いのを確認した私は、その剣を素早く風を切るかのように振り回したのであった。
「・・・うん!これ重さも握り心地も最高です!!」
私がそう嬉しそうに感想を述べたのだが、何故か三人は呆けた表情で私を見ていたのだ。
正確には、リムだけ目をキラキラさせているようだったが・・・。
「え、えっと・・・どうかしましたか?」
「いや、リムからレティさんが強いとは聞いていたが・・・ここまで剣の腕があるとは思ってなかったから・・・」
「私も、こんな若いお嬢さんが?って正直心の中で思っていたの・・・」
「だから僕言ってたのに!レティお姉ちゃんは凄く強いんだって!!」
まだ呆けている二人に対して、リムはムッと唇を尖らせながらも何故か自慢気に話していたのだ。
(・・・まあ、普通は私みたいな子がって思うよね)
その二人の反応に、私は苦笑いを溢していたのであった。
そうしてやっと気を取り直してくれたダンから、柄の装飾と同じデザインの鞘を受け取り剣を鞘に納め腰に着けたのである。
「うん!長さも問題ないですね。ダンさん、ありがとうございました!ではお代はいくらですか?」
「いや、お代は良いよ」
「え?いやでも、作って貰ったのにお代無しはさすがに・・・」
「本当に良いんだ。それにレティさん、俺が工房に籠っている間、リムの遊び相手や店の手伝いもしてくれたんだろ?むしろこれでも足りないぐらいだよ」
「いや、それは私が勝手にした事で・・・」
「レティさんには本当に感謝してますのよ。レティさんがお店に立ってくれた事で、いつもより沢山のお客様が来て売上も倍以上になったのですから」
「レイラさん・・・」
「なんかついでにデートも誘われてたよね!それも結構な数!!」
「ちょっ!リム君!!」
「本当に私も、何人かの男性にレティさんを紹介して欲しいと頼まれたのよ」
「ほ~」
レイラが楽しそうにダンに教えると、ダンもニヤニヤした顔で面白そうに私の顔を見てきたのだ。
「・・・本当、断るの大変でした」
「なんだ、どうせなら一人ぐらいデートすれば良かったのにさ」
「いや、興味無いので。でも一番面倒だったのが・・・」
「あ、あの魔法使いの人達だよね?」
「・・・うん、リム君いつもありがとうね」
「あれぐらいお安いご用だよ!」
お店の手伝いをしていた時、どこから聞き付けたのかあのリム捜索部隊にいたであろう魔法使い達が店にやって来て、案の定魔法の事をあれこれ聞いてきたのである。
その時は色々言い訳をしてとりあえず帰って貰ったのだが、あれは絶対また来ると確信していた私はリムにお願いして外の様子をちょくちょく確認して貰い、もし魔法使い達が来そうだったら教えて貰っていたのだ。
そしてリムから報告を受けると、すぐさま家の中に戻り魔法使い達が帰るまで店頭に出ないようにしていたのである。
「・・・なんか分からんが大変そうだな」
「まあ、ああ言う魔法馬・・・いやいや、ああ言う人には嫌と言う程関わって面倒だと知っているので」
「そ、そうか。まあそれはそうとして、結局色々手伝って貰ったんだ、その剣はレティさんにあげるよ。大事に使ってやってくれ」
「・・・はい!本当にありがとうございました!大事に使いますね!」
私はそう嬉しそうに言い、ダンに向かって頭を下げたのであった。
そうしてその日はもう夜だったため、街を出るのは明日にしてもう一泊だけさせて貰ったのである。
その最後の夜は、リムにお願いされて一緒のベッドで眠ったのであった。
そして次の日の朝、私は出発の準備を整えてから店先に出たのだ。
するとその店先にはリム達三人と・・・何故か複数の人が集まっていたのである。
そのほとんどは、よく店に買い物に来ていた男の人達で何度かデートに誘ってきた人達でもあったのだ。
私はその顔触れに若干うんざりするが、一応見送りに来てくれたみたいなのでニッコリと笑顔を向けた。
「皆さん、わざわざお見送りありがとうございます。私は今日でこの街から去りますが、これからもここのお店をよろしくお願いしますね」
そう言うと、男達はとても残念そうな顔をし中には涙を流しだす者までいたのである。
(そ、そこまでか?)
その男の人達の反応に今度は完全に引きながらも、なるべくそっちの方を見ないようにしてもうポロポロと泣いてしまっているリムに顔を向けた。
「リム君、ほんの数日間だったけど・・・私に弟が出来たみたいで本当に楽しかったよ」
「ぼ、僕も・・・レティお姉ちゃんの事・・・本当のお姉ちゃんだと思ってたよ・・・」
「ふふ、ありがとう。これからも、お父さんとお母さんの言うことを聞いて元気でいてね」
「・・・レティお姉ちゃん、また来てくれる?」
「うん!また来るよ!」
「本当?絶対だよ!」
「うん!」
「レティさん、元気でね。いつでもまたいらしてね」
「もうレティさんはうちの家族だと思ってるから、いつでも遊びに来て良いからな」
「はい!お二人ともお元気で!!」
そうして私は三人にもう一度別れの挨拶をして笑顔で去ろうとした時、ふとその見送りの人達の後方からこちらに駆けてくる集団が見えたのだ。
(・・・げっ!あれは!!)
そのちらりと見えたその集団の服装が魔法使い特有のローブである事に気が付いた私は、急いで回れ右をしすぐさま駆け出したのである。
そんな私の様子に驚いていたリム達だったが、その見送りの集団を抜けて駆けていく魔法使いの集団を見てすぐに状況を理解し笑いだしたのであった。
「レティお姉ちゃん~!頑張ってね~!!」
「うん!頑張るよ!またね~!!」
後ろからのリムの楽しそうな声援に、私は走りながら振り返り笑顔で手を振ったのだ。
そうしてすぐに正面を向くと、一直線に城門に向かって速度を速めて駆け出す。
そして城門付近まで近付くと、そこにはあの衛兵のおじさんがいた。
「おじさ~ん!お世話になりました!」
「ん?お、おお!どうしたそんな急い・・・ああ、君も元気でな~!」
大急ぎで走り去る私に驚いていたが、私の後に追ってくる集団を見て納得し手を振って笑いながら見送ってくれたのだ。
そうして私はあっという間に城門を抜け、城門付近でバテて倒れ込んでいる魔法使い達を尻目にアルカディア王国を後にしたのであった。
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