本店
アズベルト家を後にした私は再び城門まで戻ってきた。
(ん?あれは・・・)
私は城門付近にいる集団に気が付き、目を凝らしてじっと見つめたのだ。
そこには衛兵に周りを囲まれながら、縄に縛られて歩いている男達がいたのである。
(・・・あ~あの人達、私が捕まえておいた盗賊達だ)
どうやら盗賊の男達は、衛兵に捕らえられ連れていかれている途中のようだ。
しかし盗賊達は何故か私が倒した時よりもボロボロになっており、さらに衛兵達も疲れた様子で歩いていた。
(あれ?どうしたんだ・・・あ、そうか!私、盗賊達を逃がさないように、蔦でグルグルにして宙吊りにしておいたんだった)
その事を思い出し、あれは盗賊達を下ろす時に相当苦労したんだろうなと想像が出来てしまい、ちょっと悪いことをしたかなっと思ってしまったのだ。
そうして少し申し訳ない気持ちでその集団を見ていたら、先頭を歩かされていたあのリーダー格の男がふとこっちを見てきた。
しかし次の瞬間、その男の顔は恐怖で凍りつきわなわなと震え出したのである。
そしてその後ろを歩いていた子分達も、そのリーダー格の視線を追って私の方を見て・・・同様に恐怖に慄いた顔になったのだ。
さらにその男達が揃って口をパクパクと動かしている事に気が付き、よーくその動きをじっと見つめ・・・ぴきっとこめかみに青筋が出来た。
(だーれーがー化け物だって!!!!!!)
男達は私を見ながら怯えたように『化け物』と言っていたのだ。
私はそんな男達の態度に目を据わらせ、手を後ろに隠しながらその掌に風の魔法を展開させると一気に男達の足元に向かって放った。
「うわぁぁぁ」
「ぎゃぁぁぁ」
そんな声を上げ、男達はその場で盛大にずっこけたのである。
「お前達・・・なんでこんな何も無いところで転けるんだ?」
衛兵達は、そんな盗賊達の様子に驚きながらも急いで立たせていたのだ。
(ふふん、私を化け物呼ばわりするから悪いんだよ)
そう心の中でニヤリとほくそ笑みながら、衛兵達に気が付かれないように急いで城門の外に出ていったのであった。
グランディア王国を後にした私は、再び隠れてズボンに履き替えてから飛行魔法で飛び立ち次なる目的地に向かったのである。
そうして途中宿に泊まったりして漸く目的地に到着した。
「・・・うおお!行列が出来てる!」
私がそう驚いた表情で見つめている先には、大きな建物の入口から連なる長蛇の行列があったのだ。
「確か・・・開店してまだ間もない時間のはずなんだけど・・・本当に噂通りの大人気店になったんだな~」
そう感慨深げに呟きながら、仕方がないとばかりにその列の最後尾に並ぶ事にした。
そうして待つこと一時間程経ち、漸く店の入口まで進むことが出来たのだ。
(やっともうすぐ入れる・・・こんな長時間並んだの日本人の時以来だよ・・・ん?あれ?ここにもあの水色の石が建物を囲うようにあるんだ。あ~そう言えば泊まった宿にもあったような・・・どうもこの時代ではこれが流行ってるんだね)
私はそう納得し、綺麗に輝く石を観賞する事にした。
「お待たせ致しました。お一人様ですね。どうぞ中へお入りください」
「あ、はーい」
係りの女の子に案内され、私は店内に入っていったのだ。
その店内はお洒落な内装でありながらも、そこまで敷居が高い雰囲気を出しておらず、誰でも気軽に入れるような作りになっていた。
私は案内されるまま窓際の席に座り、おしぼりとお水を持ってきてくれたウエイトレスからメニュー表を受け取る。
そうしてメニュー表を開き、内容を見て感心した。
(へ~200年経っているのにそんなにメニュー変えてないんだね。まあ、一部派生で新しいものもあるけどベースは同じっぽい)
私はパラパラとメニュー表を捲りながら、一つ一つのメニューに思いを馳せていたのだ。
するとその時、10代ぐらいの一人の可愛らしいウエイトレスが近付いてきた。
「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」
「え?あ~ごめんなさい。沢山ありすぎて迷ってしまって・・・」
「もしかして、当店は初めてですか?」
「ま、まあ、初めて・・・かな?」
私が歯切れの悪い返事をすると、そのウエイトレスは不思議そうに私を見てきたのである。
しかしすぐに気を取り直して、ニッコリと微笑み私の持っているメニュー表のある部分を手で示してきた。
「もし宜しければ、こちらのオススメなど如何ですか?」
「これは・・・」
「こちらは、創業当時からあるチーズケーキです。勿論味も当時のままなんですよ。そして当店一番の人気商品です。良ければどうでしょうか?」
「・・・じゃあ、それ頂きます」
「ありがとうございます。あ、一緒にこの紅茶もオススメですよ?こちらも、創業当時からの取引先で仕入れている茶葉なんです」
「ではそれも」
「はい、畏まりました」
そう笑顔で注文を受けたウエイトレスの女の子は、オーダーをしに厨房に向かって行ったのである。
そうして私は、注文した物が届くまでキョロキョロと店内を見渡す。
(いや~本当に立派になったな~。最初は小さな一軒家から始めたのに・・・お店ジルに任せて本当に良かった)
実は今私がいるこの店は、サラスティアの時に始めた喫茶店のその後の姿なのである。
私がジークと結婚し、喫茶店で働けなくなった代わりにジルが経営を引き受けてくれたのだが、さすが元執事だけあって客商売が特に上手かった。
そうしてジルの手腕のお陰で店はどんどん大きくなり、今ではほとんどの国に支店があるのだ。
ちなみにそのジルは、なんだかんだあって元仕えていた侯爵家の令嬢であるクラリスと結婚し夫婦で差さえあって店を経営してくれたのである。
そんな事を思い出しながらぼーと待っていると、先程のウエイトレスがお盆に注文した商品を乗せてやって来た。
「お待たせ致しました!」
「ありがとうございます。わぁ!美味しそう!!」
「当店自慢の一品ですからね。どうぞごゆっくり食べていって下さい」
ニッコリと微笑まれたので、私も同じように微笑み返しそしてフォークを手にしてチーズケーキを一口に切って口に運んだのだ。
「うん!美味しい!!」
(私が作っていた時と全く同じ味だ!!)
「ありがとうございます。そう言って頂けると父も喜びます」
「え?父?」
「はい。当店のケーキ類は基本私の父が作っているんです」
「へぇ~」
「代々受け継いでいるレシピを今は父が持っていて、一応跡取りである私が今度受け継ぐ事になってるんですよ。なので今は、ウエイトレスをしながらケーキ作りの修業中なんです」
「・・・えっと、もしかしてあなたはここの経営者の娘さん?」
「ええそうです。リサと言います」
「リサさんか・・・ごめんなさい。私てっきりリサさんの事、普通のウエイトレスの人だと思ってました」
「いえ、気にしないで下さい。我が家は代々必ず接客を経験するように決められていますので」
「なるほど。頑張って下さいね!」
「はい!頑張ります!!」
「リサちゃ~ん!こっち注文良いかな?」
「あ、今行きますね!ではごゆっくりしていって下さいね」
そう言うとリサは、別のお客の接客に向かったのである。
(確かにあの子・・・どことなくクラリスの面影があるもんね)
あのジルとクラリスの子孫に会え、私はなんだかほっこりとした気持ちになりながらテーブルの上にあるチーズケーキと美味しい紅茶を堪能したのであった。
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