第十二夜 「ファミレス」とは何であるか?

 あみ 「よっすー」

 みか 「こんばんはー」

 かず 「ばんわー」

 †我†「邪魔をする」

 あみ 「そいえばさー。三人でファミレスったことないよねー」

 かず 「まあ、ないな」

 みか 「ないですー」

 あみ 「いつもスタバかミスドっしょ」

 †我†「おお。いつぞやのあのスタバであるか。ミスドとは?」

 あみ 「ミスター・ドーナッツですよー」

 †我†「そのドーナッツ何某というのはいつでも誰の訪問でも快く迎え入れてくれるのか?」

 あみ 「??? そういう名前のお店なのデスよ?」

 †我†「あ。い、いや。分かっていてお前たちを試したのだ」

 かず 「我がドーナッツを知らない件」

 みか 「そかー」

 あみ 「ドーナッツと言えば、前にテレビで芸人さんが言ってた謎理論が超ウケたし」

 かず 「甘い物のカロリーは真ん中に集まってくるので、真ん中をくり抜いたドーナッツの残りのカロリーはゼロ、空気です、って奴っしょ」

 かず 「じゃあオニオンリングはどうなんだと小一時間」

 みか 「バウムクーヘン!」

 あみ 「どっちもくり抜いたワケじゃないからカロリーありますのよ」

 かず 「サンド伊達さんのカロリーゼロ理論は謎すぎて草生えるwww」


 他にも、カステラは潰すと空気中にカロリーが散るのでカロリーゼロやら、揚げ物はカロリーが熱で燃えるのでカロリーゼロやら、アイスはカロリーごと凍らせているのでカロリーゼロやらの数々の語録が飛び出し、しばしチャットは大草原となった。


 あみ 「んで、ファミレスですよ」

 かず 「何でまたそんなに行きたいねん」

 あみ 「行きたいっつーか、JKが語るにはドリンクバーあるファミレスが最強かなって」

 みか 「行ったことないですー」

 かず 「ほら。またみかお嬢様の知的好奇心を無駄に刺激しちまったろうが」

 †我†「ファミレスとは何であるか?」

 かず 「ファミリーレストランの略ですな」

 †我†「また省略詠唱か……」

 †我†「しかし、家族で食事を摂る場なのであれば、それすなわち我が家ではないのか?」

 かず 「おっと。ファミレス=我が家の食卓理論っすか」

 あみ 「つってもレストランっしょ。なーのーでー食堂なのデス」

 かず 「んでも『家族食堂』ってなると地方の街道沿いにある定食屋っぽいな」

 みか 「レストランってことは、ギャルソンやソムリエの方もいるのかなー?」

 かず 「それはない」

 かず 「ドレスコードのない気軽で安価な家族で通える身近な食堂っつーところっすな」

 †我†「ほう」

 みか 「なるほどー」

 かず 「で、どうしてもファミレス行きたいのですかね、あみっちは?」

 あみ 「もうすぐ中間っしょ。なんで三人で試験勉強したいなーって」

 かず 「うぐ。意外と真面目な回答で返しに困るわー」

 みか 「あみちゃんは結構成績いーじゃないですかー」

 あみ 「ん。マジで頑張ってるしー。ぎゃおー!」

 かず 「そ、それでいうと一番ヤバいのはあたしなんだが」

 あみ 「ほへ? 眼鏡キャラなのにどしてデスかー!」

 かず 「おう。眼鏡なら誰でも頭良いって先入観やめれ! 世の中の全ての眼鏡に謝れ!」

 かず 「みかお嬢様はいつもトップクラスだからなあ」

 みか 「いつも鍛えられてますからねーおほほほ」

 あみ 「やろーよー! しけべん!」

 かず 「けいおん!みたいな響きで言うなし!」

 かず 「……いや、まあ、こちらこそお願いしたいです、はい」

 あみ 「今ならチーズ・イン・ハンバーグが399円!」

 かず 「結局喰うんすね」

 †我†「ファミレスか。成程……これは有益な情報を得たな。うむ」


 しばらく間を置いて、再びチャット。


 †我†「礼を言うぞ、無垢なる少女たちよ。我はまた現れる。その時はよろしく頼むぞ」


 以上、チャット終了。

 我と名乗った存在はその後の会話を知ることはなかった。


「ふむ」


 代わりに今日知り得た情報を整理することにする。



 ファミレスとは――。



 特段着飾ることなく普段の恰好で気軽に通える安価な食堂ということだ。徐々に我も彼女たちの住まう此処とは違うあちら側の人間界の知識を得てきた実感がある。今回もさほど労せずして理解するまでに至った。


 我ら魔族に置き換えれば、この魔王城内にある配下の者たちが日々利用する食堂がそれにあたるのだろう。だが、今までは特段対価を支払わずにして利用できるようにしていた。それは個々の能力や働きに応じて、『賃金』といった具体的な報酬を与える仕組みをとっていなかったからでもある。しかしこれは逆に言えば、我の為に尽力を惜しまない者でも目立った働きの少ない者にも同じように報いていたということにも繋がる。この点は配下の士気向上の為にも大いに見習い、改善すべき点かもしれぬ。


 また、今までの会話で得た知識も役に立っている。『カラボ』とは何であるかを尋ねた際にも登場した、ドリンクバーなるものがこのファミレスにも存在しているということを知った。どんな飲み物をいくら飲んでもタダであるというこの有難い仕組みは、長時間そこに人を留め、足止めする効果があるという。


 いや、閃いたぞ!


 このドリンクバーなる仕組みは、城内のファミレスに設置するよりは、無謀なる勇者たちがやってくるであろうダンジョン内に設けた方がはるかに効果があるのではないか?


 奴らは無限に湧き出る数々の飲み物を堪能しているうちに我が配下に包囲され、無様に返り討ちに会うのだ。これは良い。早速その仕組みと提供する飲み物を検討しよう。やはり絞った果実のような軽い飲み物以外にも、エールのような酩酊感を生む物も必要ではなかろうか。



 結論:今後、我が配下には、月毎に貢献度に応じた一定の賃金を支給することとする。城内の施設の利用時にはその賃金をもって支払うべし。



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