第8話
僕の日課に新たな項目が増えた。
僕は毎日散歩をするようになった。けして健康のためなどではない。元より僕に健康という言葉は似合わない。瀕死だからね。
君からの返事が途絶えて、僕は焦っていた。
もしアレが、君からの最後の言葉になってしまったら……
その先を考えることを僕の無意識が拒む。
今の状況から1つの解が導き出される。それは単なる1つの可能性というだけなのだが、そこへ行き着きかけると急に考えがまとまらなくなり、僕はいつもロビーへと向かい、ありもしない君からの返事を確認していた。
ふと時計を見るとさっき確認してから1時間も経っていなかった。
バカじゃないのか僕は……
一日に何度も往復する僕は、知らない人から見れば不審者に思えるかもしれない。それでもよかった。君からの返事を僕は切望した。
2週間が経った頃、僕はメモに追記した。
Q.私が死んだら悲しいですか?
A.悲しいと思う。よく分からないけど、僕は君のことが気になっている。だから、今ここで君がいなくなったら、やっぱり僕は悲しいと思う。
君は、もうここにはいないのかい? 僕は、毎日、何回も何十回も君からの返事を確認しにここに来ているんだ。悪戯のつもりなら、もう降参だよ。
君がいなくなるのが、僕は怖いんだ。
僕は君に会いたい。
今の気持ちを正直に並べた。
悩んだ末に僕は最後に一文を書き加えた。他の文字よりも少しだけ大きくなってしまったのは、心から、強くそう思っていたからだろう。
僕にできることは待つこと以外になかった。病院の関係者に、君のことを聞くということもできたけど、それをやっていいのかがわからなかった。僕なら嫌だ。他人に詮索されるなんて最悪だ。もしかしたら、君もそうかもしれない。
僕は君のことをなにも知らないのだ。君が僕と同じように余命わずかと言うことも僕は知らなかった。
例の質問から察するに、実際に病状はあまりよくないのかも知れない。僕はあんな質問浮かびもしない。質問の意図はわからないが、必ずあの質問には意味があるはずだ。
そう思った……
だから、僕はその先を考えてしまい、怖くなった。
僕は自分の死よりも、彼女がこの世界からいなくなることを恐れていた。
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