交番


「きみちょっとやばいよ」

「なんで? おれ全然やばくないよ」

「だってきみ、さっきからこの部屋には一人しかいないんだぜ?」

「んん? それってどういうこと?」

「だからさ、自分一人しかいないの、それなのにこんなふうに会話が成立してるって………それってどういうこと?」

「よくわからないな、もうちょっとわかりやすく説明してくれればわかると思う」

「だからあ、この会話は最初から自分一人が喋ってるだけなんだよ」

「うん」

「わかった?」

「だいたいわかった」

「それってやばくない?」

「なんで?」

「なんでって………だってそんな人間、普通いないだろ」

「そうかな? そんなことないよだっておれ聞いたことあるよ多重人格ってやつ」

「………そうなの?」

「うん、そういう小説を読んだことあるもの、最後まできちんと読まなかったけど確か女子高生とかの読者が多いやつだったよ」

「へーそいつは知らなかった、おれの認識不足」

「もてるんだよ」

「もてるのかよ?」

「ああ、もてるんならいいのか?」

「もてるんならいいよ」

「よし」

「で、そのおれたちをもてさせてくれる女たちは一体、何処にいるんだよ?」

「………さあ」

「さあってことはないだろ、実際もてるんだから」

「そりゃそうだな」

「街にでも出てみるか?」

「おう」

「それでさ、今こうやって話してるみたいにさ、一人でぶつぶつと喋ったりすればいいんだな?」

「そういうことだな」

「それで、もてもて?」

「ああもてもて」



そうしておれたちは街へ出て渋谷とかいう場所のスクランブル交差点のど真ん中でぶつぶつと見えない誰かと会話をしていたら

「きみちょっと来てくれないかな」

と呼び止められ今、交番にいる


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