第51話 英雄の話
「「はっ!」」
「やっと起きたか。おい、バド、何か話があるんだろ?」
「え?...あぁー、うん!」
「ならこっちに来て話せ」
そう手招きをしながらセリスとメイがいる部屋に連れていく。
すると、茜がセリスを見た瞬間、目に涙を浮かべ抱きついた。
「うわぁぁぁん!怖かったよぉぉぉぉ!」
「わっ!何!?どうしたの!?」
「ソウタ君が怖かったのぉぉぉぉ!」
「あー、そういうことか」
セリスは茜の頭を撫でながらソウタの方を見た。
「覇王はやりすぎだよ!」
「仕方ねぇだろ。あれぐらいしなきゃ気が済まなかったんだよ」
セリスは次に茜の方を見て何があったのか聞いた。
「ソウタに何したの?」
「バド君と一緒にからかったの」
「でも普通にからかうだけじゃソウタはあんなに怒らないでしょ?」
「...うん」
「何を言ったの?」
セリスが優しく聞くと、茜はババ抜きをして負けたソウタに罰ゲームとしてセリスとの話を聞いたことを知ると顔を真っ赤にした。
「うぅ、確かに体目当てだなんて思わないけど...」
「だってさ!ソウタ君!」
「あんた今まで泣いてただろうが!なに元気になってんだよ!」
茜は笑いながらソウタに向かって言うと、セリスの本音を聞けて嬉しかったソウタは照れながら茜に言うと、セリスがソウタに近付いた。
「...我慢しなくていいからね」
「は?」
小声でそう言うと恥ずかしくなったのかセリスは茜さんの方へと行ってしまった。
その時、ソウタの頭の中ははセリスの一言でいっぱいだった。
「あの〜、そろそろ話していいかな?」
「え?あ、あぁ、話してくれ」
完全に空気になっていたバドがようやく話を切り出してくれた。
「えーと、何から話せばいいかな?」
「とりあえず英雄の話を聞かせてくれ」
「ソウタさんもこの世界の歴史に興味があるんですね!」
「そんなもん興味ねぇよ」
「え?」
メイが凄く嬉しそうにしていたのにソウタの一言で固まってしまった。
「ソウタ!」
「な、なんだ?」
「メイにいじわるしたらダメ!」
「いじめてねぇよ!」
「話して、いいかな?」
何も話していないのにもうすでに疲れているバドを見たソウタ達は、さすがにもう真面目に話を聞こうと思った。
「まず英雄と呼ばれた人達は十人いるんだ。そして僕達英雄はこのままじゃ世界が滅びると思ったから魔王がいる本拠地に行ったんだ。でも、」
「魔王は討てなかった、だろ?」
「その通り。でも致命傷を負わすことはできたんだ。あの傷ではもう戦えないだろうと思い、みんな必死になって特攻したんだけど、魔王の息子に邪魔されて倒せなかったんだ」
「じゃあ今の魔王はその息子なのか?」
「そうなっているだろうね。僕達を四人も殺したんだ。新しい魔王になっていてもおかしくないよ」
みんな黙って聞いていたが、知っているように見えた。
「みんなはこの話を知っていたのか?」
「はい。たぶんこの世界にいる人全員が知っています」
「英雄の話だもんね。私もギルドの人から聞いたよ」
「私は師匠から聞いたよ」
「ヤエさんも英雄の一人だからね」
「そういえば百年前ってヤエは産まれてないんじゃないのか?」
「え?普通に産まれてるよ。あー、なるほど、ヤエさん年齢を若く言っていたのか。ヤエさんの本当の年齢は二百は超えてるよ」
「えぇー!!」
ヤエが英雄だと聞いていなかったセリスはその事でも驚いていたが、師匠の本当の年齢を聞いてもっと驚いていた。
「あんなに私のことからかったくせに!師匠のバカ!」
「まぁまぁそんなに怒るなよ。英雄のことを黙ってたのは年齢を隠したかったのもあるだろうしな」
「今度あったら怒る」
「そうしな」
セリスと話しているとバドが困ったように俺のことを見ていた。その目は「続きを話してもいい?」と言っているようだったので黙ることにする。
「それで僕達六人はもう無理だと判断して撤退しようとしたんだ。でも魔王軍がそんなに簡単に撤退を許してくれる理由もないから凄く追いかけられたんだ。それで、もうダメだ!と思ったらゼルっていう男の人が囮になるから逃げろ!って言って僕達五人を逃がしたんだ」
「その時はまだ、ヤエは生きてたんだな?」
「うん。でもヤエはゼルと凄く仲がよかったから悲しかったんだと思う。帰った後は一人でどこかに行ってしまったんだ」
「その後のヤエはもう知らないのか?」
「僕は知らない。みんなで大迷宮を作るって決めてたからその事で忙しかったんだ」
「ん?待てよ。大迷宮は四つだろ?もう一人は何してたんだ?」
俺が聞くとみんなが黙り込んだ。まさか...
「...シルは魔王軍に洗脳されたんだ」
「なんで洗脳なんてされたんだ?」
「「「ソウタ(君)(さん)!!」」」
「今は理由を聞かなきゃダメだろ?もしかしたら次は俺らの誰かが洗脳されるかもしれないんだぞ」
「シルは魔王軍に完全に囲まれて捕まってしまったんだ」
「殺されはしなかったんだな」
「それはシルが強かったからだと思う。僕達に半数以上倒された魔王軍としては即戦力になる人材が欲しかっただろうしね」
魔王軍を半数以上倒した英雄十人か。ならあいつのことを知っているのか?
「ヴァイスのことは知っているか?」
「もちろん!あの時の魔王軍の司令官だった人だもん!」
「それならヴァイスは魔王軍の中で強い方なのか?」
「強かったよ。あいつの限界突破は次元が違う」
「...」
「ソウタはなんでヴァイスのこと知ってるの?」
「戦ったことがあるからだ」
「え!?」
バドはものすごく驚いたような顔をしている。そんなに驚くことなのか?
「な、なんであいつと戦って生きてるの!?」
「なんでって言われてもなぁ」
「一回はボロボロにされて、二回目は追い払ってましたよね」
「負けたことは言わないでくれよ」
「.....」
バドが信じられない物を見たような顔で俺を見てくる。こいつはなんでオーバーリアクションなんだよと思っていると、
「一度追い払ったって本当?」
「あぁ」
「限界突破は使ってた?」
「あぁ」
「それは何色だった?」
「真っ黒だったぞ」
「...ヴァイスはまだ全力じゃないから気を付けてね」
「わかってるよ。ちなみに本気のヴァイスの色は何色なんだ?」
「黒色のオーラの回りに赤色のオーラが纏った状態だよ」
「ソウタさんと同じ、ということになりますね」
「厄介だなぁ」
「!!??...はぁ、もう驚かないようにするよ」
もう呆れたような感じのバドだが、ソウタの強さを信用しているのか、その雰囲気は話す前と比べると穏やかになっている。
「そうだ!君達にはお礼を込めて魔法を教えてあげるよ!」
「どんな魔法なの!?」
「ふっふっふ、それはね?」
セリスが魔法と聞くと目の色を変えてバドに近付くと、バドはそんなセリスを見て楽しくなってきたのかノリノリである。
「治癒の魔法だよ!」
「「「「おぉー!」」」」
「さぁ!回復が得意な子は誰かな!」
「「「「...」」」」
俺がみんなの顔を見ると首を横に振った。
「すまん、回復が得意な奴はウチにはいないみたいだ」
「...へ?」
すると、バドが見るからに落ち込んでしまった。
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