第43話 共闘

ソウタとミノタウロスが戦っている間、メイはミノタウロス相手に互角の戦いをしていたが、注意不足で致命的なミスをしてしまった。


「一匹でもすごく強いです...!」

「グォォォォォォォ!」

「キャッ!」


ミノタウロスの咆哮により少しだけよろけてしまい、そこらへんに散らばっているガレキに足を引っ掛けて転んでしまったのだ。


「あっ...」

「グォォォォォォォォォォォ!」


ミノタウロスがメイの目の前で持っている大剣を振り上げる。


ごめんなさい、皆さん。私はここまでのようです。あれ?そういえば前にもこんなことがあったような気が...あー!そういえば前にもこうやって転んでしまって、兵士に切りかかれそうになったんでしたね!私って学習能力ないなぁ、あの時はソウタさんに助けてもらえましたけど、今回は無理ですよね...


死が近付くと周りの動きが一気に遅くなる。どうせならすぐにやられてしまいたいのに、その時は中々やってこず、今までの楽しかった日々を思い出してしまう。


すると、ようやくミノタウロスの大剣が首の間近まで迫ったと思い目を瞑ると、バキンッ!という音がなった。


「間に合ったみたいだな」


目を開けるとそこには、前と同じく和服を着た男がいた。それは、今まさに助けてほしいと願った人だった。


「えっ!?ソウタさんっ!?ミノタウロスはどうしたんですか!?」

「戦ってる最中だよ。たまたまこっちにぶっ飛ばされたんだ」

「え?あ、そう、なんですか?」


あれ?なんだかソウタさんの雰囲気がいつもと違うような...


「あぁ、メイも気を付けて戦えよ」

「は、はい!」


そう言ってソウタさんは元の場所へと戻ってしまった。ソウタさんが立ち去ってから、ようやく気付いた。


「あれは覇王じゃないですよね?」


覇王ならもっと荒々しいオーラがでるはずなのに、さっきのソウタさんのオーラは落ち着いていましたよね?


そんなことを考えていると、ミノタウロスが素手で殴りかかってきたのでそれを躱し、腕を切ってやった。


「武器が無くなった途端動きが鈍くなりましたね?焦ってるんですか?」

「グガァァァァァァ!!!!」


メイにそう言われるとミノタウロスは怒ったように咆哮をし、襲いかかって来る。


「はぁ、こんな奴にビビっていた自分に腹が立ちます」

「グォォォォォォォ!」

「散ってください、花吹雪ッ!」


メイがミノタウロスの横を通り過ぎた瞬間、ミノタウロスの体は切り刻まれ、消滅した。


「ふぅ、この個体は武器を扱うのが上手い代わりに素手での戦闘が苦手だったんでしょうか?」


それなら先程の戦闘力の低下に説明が出来るんですが...


こんなことを考えても仕方ありませんね!


そんなことよりどうしましょう!ソウタさんってあんなにかっこいい人でしたっけ!?あんな人が旦那さんだなんてセリスさんが羨ましいですよ〜!


そうだ!私も茜さんと同じく愛人にしてもらいましょう!


そんなことを思いながらメイは、セリスの手助けをするために急いで移動した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「やっぱり二体は面倒だよ!」

「「グォォォォォォォ!!」」


セリスはミノタウロスを二体相手にしているのにも関わらず優勢だ。


だが、この二体のミノタウロスは非常に魔法に対して強いみたいなので、まだ有効的な攻撃ができていなかった。


「...もう魔力がっ!」

「グォォォォォォォ!」

「しまっ!?」


魔力の使いすぎによる立ちくらみのせいで隙ができてしまい、そこを狙われてミノタウロスに殴られそうになった瞬間、何か黒い物体が飛んできた。


その黒い物体はミノタウロス達にぶつかり、全員倒れてしまっている。


「...え?なに?」

「魔力がもうすっからかんのくせに頑張りすぎなんだよ」

「ソウタ...?」


え?なんでソウタがここにいるの?それよりあの黒いのはあのミノタウロスなの!?


「あのミノタウロスは危険すぎるよ!一人で勝てるわけない!」

「心配してくれてるのか?ははっ...俺は信用を失くしちゃったのか...」

「そうじゃなくて!」

「大丈夫、俺はもう負けない。お前達は絶対に殺させないからな」


この少年は一人で全部背負おうとしているのか?まだ十六歳の子供なのに?


それなのに年上である私がこんなに逃げ腰でいいの?いいわけないよね。私はソウタの奥さんなんだから、ソウタのことを最後まで支えてあげなくちゃダメだよね!


「ふふっ、ねぇ、ソウタ?」

「なんだ?」

「一緒に戦おう?」

「ダメだ、危険すぎる」

「私のこと信用できない?」

「.....」

「私、ソウタと同じで創造魔法が使えるの」

「やっと言ってくれたか...」


あれ?なんだかバレてたっぽい?ため息までされたんだけど!


なぜ、ソウタがセリスが創造魔法を使えるのを知っていた理由はヤエから聞いていたからだ。




『あの子は魔法の天才だ。だから自分で考えた物を現実で魔法として使うことができるんだよ』




それを聞いて特に何も思わなかったソウタだったが、実際にセリスの魔法を見てみると凄さがわかった。


それは、セリスが出現させた雷神龍は本当に魂が宿っているかのような威圧感を放っていたからだ。


ソウタではあんな物を出現させた瞬間に魔力が無くなってしまう。それだけセリスの魔法のセンスと魔力の量と強さは自分以上だとソウタは認めている。


でもだからといって危険なモンスターを愛しの嫁を戦わせたくないのが男の性だ。


「お前はもう限界なんだろ?ならもう休んどけ。後は俺がやっておくから」

「私に限界なんてない!」

「無理すんな、立ってるだけでやっとだろ?」

「...私はソウタと戦いたい。私はソウタを守れるぐらい強いもん!だから限界なんていくらでも超えるの!」

「...はぁ、本当に頑固だよな。でも、そうだな、正直俺も限界を超えすぎてしんどい。手伝ってくれるか?」

「うん!」


やっぱり折れるのはいつも俺なんだよなぁ...


でも、セリスの笑顔を見ただけで力が漲ってくる。男って単純だな!


「俺が引きつけるから、魔力を貯めておけ」

「あの二体は魔法効かないよ?」

「耐えきれないぐらい強いのをかましてやれ」

「...私の魔力がもうないの知ってるよね?」

「限界なんていくらでも超えるんだろ?」

「...三分だけ時間稼いでね」

「おう、あの黒いのもやれそうか?」

「わからない」

「了解だ、頼んだぞ」


ソウタはそう言うとミノタウロスのもとへと一瞬で近づき、腹を蹴り上げてから踵落としを決め、一体を即座にダウンさせると、もう一体が素手で殴りかかってきたのでそれを躱し、腹に重たい一撃を浴びせると、ミノタウロスは膝まづいて苦しそうにしている。


「すごい...」


あのミノタウロスを一瞬で二体ダウンさせるなんて...


そう驚いているとそれに気付いたソウタに魔力を貯めろと怒られてしまった。


「さぁさぁ、あと動けるのはお前だけだぜ?」

「グォォ」

「さすがに一筋縄じゃいかなそうだな」


黒いミノタウロスは目を閉じると、黒いオーラがどんどん溢れ出してきた。


「おいおい、まだ上がるのかよ!」

「グッグッグッ」


黒いミノタウロスは限界までオーラを高めると自分のパワーの凄さに感動して笑いだした。


「でもお前じゃ俺達には勝てないからな?」

「グォォ?」

「バカにすんのはここまでだ」

「グォォォォォォォ」


そこからソウタと黒いミノタウロスの殴り合いが始まった。そして、普通ではありえない事が起こった。


人とモンスターの殴り合い。それはこの世界、いや、どの世界でも考えられないであろう。


ソウタは己を龍のように自分を強くさせ、全身から赤色のオーラが高まり続け、周りを燃やしてしまうほど熱くなっている。


それに対してミノタウロスは、お前みたいな雑魚に負けるわけねぇだろ、とバカにしながらも黒いオーラを高め続け、拳は鋭く、重くなっていく。


それに負けじとソウタもギアをどんどん上げていくが、ミノタウロスもギアをどんどん上げていき、拳がぶつかり合えばその場にクレーターが出来てしまうほどだ。


だがこれはただの時間稼ぎだ。セリスが魔力を貯めたら俺達の勝ち。そしてその時間がきた。


「残念だったな、もうお前は終わりだ」

「グォォォォ!」


神速と短距離ワープを連続使用してミノタウロスを翻弄してから思い切り頭を真下に蹴り飛ばした。


「今だ!」

「降臨せよ、雷神龍ッ!」


グガァァォァァァァッ!!と龍が現れると黒いミノタウロスとダウンしているミノタウロス達を飲み込み、爆散した。


「終わった、のか?」

「...うん」

「ははっ、生きてるぞ」

「...そうだね」

「悪いな、最後は全部任せちまった」

「いいよ、私がやるって言ったんだもん」


すると、二人とも体の限界がきてしまい、覇龍と限界突破が解除されてしまった。


「もう動けねぇ」

「ホントにね」


パキッ


安心して抱きついていると、雷神龍が爆散した場所から何か音がした。


パキッ、ペキッ


「おい、うそ、だろ?」

「え、なん、で!?」

「グォォォォォォォォォォォ!!!!」


なんと、片腕と顔の半分を失ったミノタウロスが煙の中から出てきたのだ。


「ちっ、化物めっ!」

「限界とっ、ぐはっ!」

「セリス!」


セリスは本当に体の限界のようで、限界突破を使おうとすると血を吐いてしまった。


「これは、マジでやべぇな」

「グォォォォォォォ!」


そして、黒いミノタウロスの怒りの咆哮がこの部屋に響くのであった。

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